第二十九夜 ああ、勘違いお嬢様社員の話
ぼちぼち仕事がありそうなので、社員を入れようという話になりました。
営業するにしても社長一人というのは、どうも具合悪いらしいのです。
やはり、もう一人くらい〃担当社員〃をつれていないと、っていうのですが
でも男性を雇う資金はないし。ならば、女性を安く雇えないだろうか。
と、いうわけで募集したところ早速、二十代のインテリア・コーディネーターを目指しているという女性が応募してきました。
この〃インテリア・コーディネーター〃、最近ちまたにゴロゴロしています。
なかなか今の世の中、この職種での就職は難しい。
彼女は〃デザイナー〃の肩書きの入った名刺を作ってもらって喜んでいます。
わかるな〜
うれしいもんね、名刺って。自分の〃存在〃が印刷されてるようで。
「私も欲しい!」 と、夫に言ったら、
「じゃ、作れば」
「でも、渡す人、いないもん…」 つまらんな、主婦は。しよんぼり。
そうそう、この彼女の履歴書がすごかったな。
…というより、その履歴書に添えられた一枚の〃経歴書〃なるもの。これが、これが…
本人の〃営業案内〃のようなものなのか、
自分の今までやってきた仕事の内容が、ずらりと列記してありました。
まずは県庁の「林務水産部林政課」を経て、「総務部広報課」、続いて「企画開発部統計調査課」
この間、「皇太子様県庁ご訪問の際、ご案内役を努めた」とあります。ホンマかいな。
けど、背の高い美人だし、英検は二級。
皇太子は日本人だから英検は関係ないけど、才女であることは間違いないみたい。
その後、退職して、「(株)○○シートランペル二事業部(いったい何の会社だ?)入社。
二年後、そこを退社して、大阪の住宅会社へ入社したものの例の震災にあって帰郷。
地元のジェット○リム本社(エステの会社だっけ?)で、リクルートシーズスタッフ(???)として派遣。
契約期間満了で退社」だって。
また、特技として、「接客ー相談ー商談−契約まで可能」。そして最後に、こう書いてありました。
「イタリアと北欧のインテリアを研究するのが好きです。好きなスタイルは、ネオクラシック等」
ほォー
経歴としてはスゴイ。我社には、もったいない人材です。
本当に能力があれば…だけど。
早速、夫はブティックを改装予定のお客さんのところへ、彼女を連れて〃プレゼン〃 (プレゼンテーション=打ち合わせ)に出かけました。
ブティックのオーナーは女性です。
新入社員の彼女、まだ慣れないからさぞ緊張するかと思いきや、とんでもないない。
のっけからしゃべるしゃべる。
「まーあ、奥様。そうなんですわ…」
〃一応社長〃である夫を押し退けての“大営業”。
夫、のけぞる、あきれる、そして慌てました。
オーナーに合わせてる間は良いけど、調子に乗った彼女、だんだん自分の意見を言い出したのです。
「いいえ、奥様、ワタクシはこちらのはうが…」
当然、オーナーはムッとします。
しかも女同士。始末が悪い。でも、お嬢様はいっこうに気がつかない。
その日、夫は、すっかり疲れきって帰ってきました。
数日後、そのオーナーと、打ち合わせを兼ねて夕食をすることになりました。
夜だし、独身女性だし、彼女を連れていく気はなかったのです。
ところが…
「あら、ワタクシも連れていってください」
結構、高級なステーキハウスでした。
彼女は、グイグイ、ビールを飲んだそうな。
そして、おおいにしゃべりまくり(本人は営業したつもりだろうけど)、
食べまくり、夫に自宅まで送らせて帰宅しました。
月末、彼女のタイムカードを見て、ひっくり返りました。
帰宅時の午後十一時までしっかり〃お仕事〃になっていたのです。
これってお嬢様の常識?
一カ月後、しばらく仕事が切れるので、彼女にはお休みしてもらうことにしました。
元々パートの契約でした。
「また仕事が発生したら連絡しますね」 と言っておいたけど、
(もう、電話なんか永遠にしませんよーだ)
この一カ月、〃皇太子様接待〃のお嬢様社員に、散々振り回されてしまったもの。
数日して、会社の電話代の請求書が来ました。
市外電話は明細がついているので、いつどこにかけたのか一目瞭然。
おや?見慣れぬ東京ナンバーが目に付く。ハテ? 試しにかけてみると・・・
何だか、やけに調子のいいロックミュージックが…。
「ハ〜イ、こちらはDJ○○デース。さあて、今週のライブ情報は…」
はン? 東京のライブハウスにつながったよ。
慌てて、日付と時刻を見ると・・・夫が会社にいない日ばかり。
とんでもない私用電話の犯人は、…ウーン、あのお嬢様だったんですね。
確か、会社でずっと図面を描いていた…はずだったんだけどね。
仕事をなめるんじゃないよ!パートの時給、千円もとっておきながら…
ハラがたったので、その市外電話の料金、ファクスで彼女の自宅へ請求しました。
後日、料金は会社の口座へ、きちんと振り込まれていました。
おまけの話
彼女は、仕事があるときだけの契約社員だったので、一応仕事終了時に請求書を出してもらっていました。
仕事をした時間と内容が記入されて、彼女の自宅からファクスで送られてくるのです。
ピ、ピ、ピ、ピ、ピ…。
月末、送られてきたファクスを見て、何じゃあ???
請求書の頭に、堂々と、「デザイナー○○ ○子」と書いてあったのです。
便宜上、名刺には〃デザイナー〃と肩書きつけてやったけど、実積は何もない。
ただ、建築雑誌ながめてた程度の〃ドシロート〃じゃないか。
「オレでも書けんぞ、デザイナーなんて」
「そうよね、いくら、あつかましくってもね。そこまでは…」
まったく、お嬢様…。
だから、お嬢様なのか…。

0