第十八夜 N邸の話
建築事務所の知人から、元大学教授のN先生を紹介されました。
N先生は、地元熊本H市の名士。
椎茸山を持っていて、たいそうお金持ちらしい。
自宅は東京都世田谷区。青山学院近くの一等地。
ここの自宅を三階建てに改築したいと言うのです。
一階がN先生宅。二階が歯科医の娘さん夫婦。三階が先生の実姉。
エレベーター付きの三世代住宅。見積は二億三千万。
まさにバブル御殿。工期は約半年。大工さんたちも張り切ってる。
工事金額は”億”の物件ではあったけど、たかだが五十坪の木造住宅の改装です。
まずまず順調に工事は進んでいきました。
でもね、問題だったのは、ここが世田谷の閑静な住宅の中であったこと。
一応、工事の前には近所に〃ご挨拶〃に伺ってはいたけど、
「音がうるさい!」 「トラックがじゃま!」等の近隣トラブル続出。
工期が長いだけに、これには困りました。
それにエレベーター。
その頃はまだ家庭用エレベーターはあまり普及してなくって、
設置許可の問題、電気容量の問題と、次々に面倒なことが発生してきました。
エレベーターなんか 「やったことなかった」 ので「知らなかった」 ことがいっぱい。
でも「知りませんでした」 では通らないんです。当たり前だけど・・・
まあ、そんなこんなと、いろいろあったけど、この住宅は工期が予定より半年も遅れ約一年かかってようやく完成引き渡しとなったのです。
…というか、いつまでたっても工事の終わらない様子にN先生の娘さんのほうがとうとうキレて、仮住まいしていたアパートを引き上げ、むりやり家具を運び入れて引っ越しを強行してきたのです。
大工さんのおしりに”火”がついた。
そして、ようやく完成したというわけ。
おまけの話
N先生はこのあと、今度は先生の経営する専門学校の改装を依頼してきました。
何の専門学校かというと、これが老人福祉の専門学校なんですね。
七十過ぎのN先生。実感として、その必要性を感じていたのでしょうが、今から考えると”先見の明”かな。
平成九年 介護保険法案成立 西暦2000年 スタート!
おまけのおまけの話
ある程度成功してお金が貯まると、人は次に“名誉“を欲しがるらしいね。
N先生、地元H市のK川沿いに、個人で美術館を建てると言うのです。
先生のH市の実家に眠る家宝の数々(主に刀剣、掛け軸)を見せられた夫。
「いいだろ〜!」と自慢する先生に、
「はい…」とうなずきつつ、
(どこがいったい…)と、古びた道具に首をかしげたそうな。
とはいうものの、実際はすばらしいコレクションであったようです。
この美術館は、新聞やテレビでたびたび紹介され、H市の観光コースにも入っていました。
私はN先生とは電話でしかお話したことなかったけど、テレビの画面で初めて拝見した先生は夫の言葉通りの、横着な“たぬきおやじ“そのまんまでした!
もうひとつおまけの話
景気の低迷が続き、銀行も証券も潰れました。
N先生が私財をつぎこんで続けてきた美術館でしたが、
平成九年十月末日をもって突然“閉館“となりました。
維持していくための経費が続かなくなったことが理由らしい。
一度観ておきたかったなあ…
N先生、今度はその、ご自慢のお宝、テレビの鑑定番組にでも出してみませんか?

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