第十九夜 台風十九号の話
平成三年 秋
前代未聞の台風がやってきました。
あの、瓦屋さんと屋根工事屋さんが大パニックになった台風十九号。
「もう、朝から電話鳴りっばなし。受話器を置くとまた鳴るんですよ。こんなこと初めてですわ〜」
うちに来た屋根工事の社員が、ニコニコしながら、こぼして?いました。
その日、私は早めに会社から帰ってきました。
夕方頃、ものすごい風になりました。
隣の家の瓦がびゅんびゅん飛んでいく様子を、子供たちとまるで野次馬根性でながめていたのです。
「すごーい」 「すげー」 「ひゃー」
しかし、〃すごーい〃のは隣だけではなかった。
その時、我家の瓦もやっばりびゅんびゅん飛んでいたのです。
さあ、翌日からパニックが始まりました。
停電。電話の不通。道路の通行止め。
会社への電話もファクスも通じない。商売は大混乱。九州ではいったい何事が起こったのか。
東京にいる夫が、心配して自宅へ電話してきました。
幸い自宅の電話は大丈夫でした。とりあえず、工場へ行ってみました。
途中、何軒も屋根の吹っ飛んだアパートや家を見ました。
「なんだ、こりゃ」
改めて今回の台風のものすごさを実感。そして会社に到着。
「なんだ、こりゃ!!!」
二階建てだった工場が、見事に一階になっている。
「ありゃーーー」
二階の屋根も壁も吹っ飛んでいる。
もともと昔の学校の廃屋を利用して建てた工場だったので、
ある程度の被害は予想していましたが、二階丸ごとなくなるなんて…。
この台風は風のあと、雨が降ったので工場の中の材木や機械はびしょ濡れ。
おかげで保険のはうは満額給付となりましたけどね。
おまけの話
子供の頃からずっと屋根にのぼってみたいと思ってました。
「ドラえもん」の中ののび太くんは
よく屋根の上で昼寝したりしていますよね。
遠くの景色が見えて、なんか気持ちよさそうな世界。
大人になった今でも一度のぼってみたいと思っていました。
まさにチャンス到来!
台風のおかげで、どこの家でも、屋根にのぼってブルーシートを張っています。
今なら、私が屋根にのぼっても、誰も変に思わない。
よーし!
我家は玄関が二階にもあるので、外階段があります。
その階段の上の屋根伝いにのぼっていけば、二階の屋根まで結構楽にのぼれそう。
まず、ブロック塀に足をかけて、「うんしょ」 「よいしょ」とのぼっていきます。
手がかりになるものがあったので、案外簡単にのぼれました。
「うーん。やっぱりいい眺めだ」
…でも、恐かった。足もとの瓦はがたがた。思ったより不安定。
ここで足を滑らせたら、下はコンクリート。そう思った途端、
「さっさとおりよう…」
せっかくのぼったけど、現実はゆっくり〃お昼寝〃なんて出来るもんじゃなかった。
しかし、これからが予想外だったんです。
お、おりられない…。
後ろ向きになって、そろそろと足をずらしておりていこうとするんだけど、滑りそうで恐い。
「下り」が、これはど大変だとは思わなかった。
足もとが滑りそうになるので、手でしっかりと桟をつかんで身体を支えるのです。
けど、大工さんたちのように腕力ないから、だんだん手に力が入らなくなる。
自分の体重を呪いました。
そして、自分の体力が、昔はどなくなっていることに気づかなかったことを
改めて反省。もう、子供の頃のような体力ないんだ。
なんとか地面に足が着いたとき、ほっとして全身虚脱状態になりました。
これを〃年寄りの冷水〃と言うんだろうね…。
まさに冷や汗もんの、命知らずのおばさん体験でした。

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