第二十夜 豪華なカラオケの話
「本日、堂々オープン デザイナーM.雅美氏来店!」
地元新聞の夕刊にこんな広告が…
時はバブル上り坂の頂点。
若者のテリトリーが、ディスコからカラオケへと動いていました。
福岡の有名なディスコもいつの間にかカラオケになっていた、そんな頃。
以前、中華レストランだったところを、〃高級カラオケ〃にしたいという話がきました。
オーナーは地元の名士、N企業のN氏。
工事の契約金額は約六千万。
オーナー直接の工事だし、〃いい話〃でした。
だけど、その時、夫は東京にいたのです。
進行中の現場の納品と重なり、どうしても契約に立ち会えなくなりました。
「おまえ、行ってくれ」
「ええっ?」
いつもスッピンで、事務所兼自宅からほとんど出たことのない〃もぐら状態〃の私。
そんなあ…オーナーと契約だなんて…大それたこと…
けれどもそんなこと言ってられない。
六千万だもの。
儲かる話だもの。
「わかった。行く!」
その日、タンスの中をひっくり返して、何とか着られそうな地味なスーツを捜しだし、
いつもはしない化粧を、これまた慣れない手つきで、一時間近くかかってようやく〃仕上げ〃、
約束の時刻より三十分も早く、N企業の本社ビルの下に着きました。
契約はそのビルの五階。そして一階はアイスクリームショップでした。
ウインドー越しにカラフルなアイスを眺めながら、五周くらいビルの回りをグルグル・・・
キンチョー∞(無限大)
なにしろ夫と違って、人としゃべること、大の二ガテ。
黙ってろって言われたら一生だって〃黙秘〃できるんだけど…
・・・さて、約束の時刻になりました。
五階のドアをノック。
「失礼します」 と一礼。
まるで〃面接試験〃
けれども、応対したのは、このカラオケの担当者、Tさん。
オーナーのN氏は六階の社長室にいらっしゃいました。
払は持参した契約書をTさんに渡し、彼はそれを六階のN氏の所へ持っていく。
そして印鑑と署名のなされた契約書が、再び払に渡されました。
ちょっと不備な点があったので指摘すると、Tさんはまた六階へ。
ふーん。エライ方は直接受け渡ししないわけ? まるで天皇様の勲章授与みたい。
大任を終え、下りのエレベーターに乗り込んだ途端、…力が抜けました。
帰って、体重測ってみたら一キロも減っていた。
ラッキー!
さて、N企業は、建築雑誌などで有名な東京のデザイナーM.雅美氏に、店のデザインを依頼しました。
デザイン料は一千万 (推定) とか…
一階にはスロットマシーンを置き、高級ゲームバー付きの豪華カラオケルーム。
一部屋毎にバブリーな絵画が飾られ、イタリア風、メキシコ風と、凝った造りで、
普段着ではちょっとなあ…の"パブリック・カラオケ”
バブルがそのまま続いていれば、これも成功だったかもしれない。
しかし、もう崖っぷちに釆ていたのです。
年末、デザイナーM.雅美氏を“ご招待“し、華々しくオープンしたこの店は、
その後、一年と続かず閉店となりました。
バブルが弾け、若者たちは、もっと安くて気軽に入れるカラオケへと流れていったのです。
これ以上、経費の赤字は支えきれないと判断したオーナーは、さっさと見切りをつけました。
金持ちはど判断は素早い。だからキズが大きくならないのかも…
M.雅美先生に一千万も払った内装は、あっと言う間に解体され、
無惨なコンクリートを剥き出した姿になりました。
がらんとしたビルのガラス越しに、
ぽつんと「テナント募集」の看板が置かれていました。

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