第二十一夜 大倒産の話
ちょこっと仕事が暇になりました。
夫はファクスで都内に営業をかけました。
『店舗改装、特注家具いかが?』ってね。
二、三日して見積依頼が来ました。会社名は株式会社ケー・アンド・エー。住所が青山…
ん? なんか、聞いたことあるような・・・
あ!あのM装芸の近くだ。思い出したくもない。けど、いそいそ出かけていった夫は、
興奮して電話してきたのです。
「おい、すごい会社! ビルのワンフロアぜーんぶ借りきっとる。
コンピューターがズラーッとあって、スッげー!」
有名な建築雑誌にも名前が載っているような会社でした。
夫の訪問に、
「ちょうどお宅のような会社、捜していたんですよね〜」
と、いうわけで、とんとん拍子で話がまとまりました。
依頼された現場は長野県。
デパート内のブティックの改装工事。
このブティックは、高級感のある木を使ったショーケースがメインになっています。
我社の得意とするところ。
こんな立派な会社とお付き合いできるなんて、わーい!
ここにくっついていれば、安定した受注もあるし、将来性もバッチリ。
全社をあげて燃えました。・・・と言っても当時、社員は事務員を入れても七名位でしたけどね…
家具製作担当者、現場担当者と長野県へ二名派遣しました。
社運をかけたこの現場。一同気合いが入っていたのです。
ところが…
引き渡し目前のある日。夕方、夫の携帯電話から連絡が・・・
「ケー・アンド・エー、社員旅行でも行ったんかな?」
「はあ?」
「午前中、打ち合わせに行って、午後電話したけど、何度かけても誰も出らん」
なんだか、なんだか、なんだか…
すぐに私も電話してみる。なるほど、何度電話しても、呼び出し音は鳴るけど誰もでない。
慰安旅行に行くという話も聞いていない。午前中まで通常通り営業していて…?
ワンフロアに、コンピューターがいっぱい…なんだもん。まさかね…
しかし、まさか、なんであったのです。これが…
直接、会社に行ってみた夫から、泣きそうな電話。
「張紙がしてある…」
「旅行中って?」
わずかな、ささやかな願望。
「いや…、弁護士の名前が書いてある」
あちゃ、まただ…
二年前のM装芸事件を思い出した。やっと忘れかけていたのに…。なんで、なんで…
〃ワンフロアにコンピューター〃〃建築専門誌〃だよ〜
でも今じゃ、銀行も証券会社もなんでもかんでも潰れてる。
バブル崩壊のスタートとしては、ちっとも不思議じゃなかったのです。
とりあえず、当月の我社の手形決済を優先し、支払いの方は二十社くらいあったけど、
「入金がちょっと遅れてまして…」
と、言い訳して、全部一カ月先へ延ばしました。
〃払いません〃は×だけど、〃払いますけど少し待ってくださいは○。
ただし、これは一度きり。何度もやると信用を無くします。
さて、この一カ月の問に、何とか金策をして切り抜けねば…。なぜか猛然とファイトがわいてきた。
もう、二回目。その時はパニックになるけど、私も結構、逆境に強い。
あの"聖子ちゃん”と張り合えるかな、なんて考える余裕もありました。
日にちが経つにつれ、情報が入り、だんだん様子がわかってきました。
これは前回のM装芸の時と違って、どうやら幹部グルの計画倒産のようでした。
会社の資産はほとんど無く、手形乱発して逃げてるんですね。
うちが営業に行った頃にはもう、すっかり倒産計画進行中。
飛んで火に入るなんとまあ、おまぬけな我社。
数日後、ケー・アンド・エーの担当弁護士、
というか正しくは“破産管財人” (こういう専門用語にも詳しくなってしまった自分が哀れ‥)の方から、連絡が来ました。
ケー・アンド・エーの負債額数十億。資産はほとんど無く、債権者だらけ。
「債権者多くてね〜、手続きが面倒なんだよ〜本当はこんな事件、やりたくないんだけどね。お宅、よかったら、債券放棄してくれない?」
「そんなあ…。このまま、〃ごめんね、じゃあ、おしまい〃なんて、ひどい…」
潰した人が・・・って言うか、潰れた会社を経営していた人が、何の罪にも問われず、
まるでトランプゲームのように 「ハサーン」と両手をあげて、ゲームオーバーなんて、それで世の中通るなんておかしい。
九州から寒い寒い長野県まで行って、一生懸命、社運かけてやった工事が、結果的に大借金かかえてしまうなんて。
またまた 「工房プラス・ワン」 は、〃大パパ〃を引いてしまった。

0