第二十二夜 〃勝訴〃した話
二度目の倒産騒動ですっかり落ち込んでいたところへ、敗者復活のおいしい話が飛び込んできました。
関西の会社Tが、デパートの改装工事を請け負ったのですが予定していた下請け業者が急に潰れたのです。
さあ、困った…というわけで、うちにその話が舞い込んできました。
今度こそラッキーカードが回ってきた!
もう、納期もない。T社は他を探してる暇もない。
「なんとか、お願いします!」
焦りの見えるT社から提示された金額も〃いいお値段〃でした。
早速、調査会社でT社の内容を調べてみたけど、業績は悪くない。
業歴は長く、社長のY氏は二代目。資産も十分ありそうだし万が一の時は、会長である父親から集金できる可能性もあります。
今度はきちんと契約書も交わしました。
少しは我々も〃お利口さん〃になったかな。
けど、そんなこと、当たり前か。今までが、おバカすぎたんですね。
ところが、T社の二代目Y社長も、結構な〃おバカ〃だったんです。
ちゃんと契約書も交わしておきながら、こちらに何の落ち度も無いのに、支払いの時になって、一方的に 「三百万円値引きしてくれ」と言ってきました。
納期に間に合わなかったとか、不良品だったとかいうのなら、話はわかる。けど、単純に払いたくないから (・・・とは、はっきり言わないけど、それしかない) 払わないと言うのです。
(まあ、最初から”いいお値段”だったから、無理もないけど)
夫は携帯電話で、東京から関西のT社まで延々二時間交渉しました。
その時の電話代、約六万円。
行ったはうが早かった?
でも、もうこれじゃ、話にならない。
夫も、いつまでもこの件に関わっていては次の仕事が出来ない。
社長とはいえ、現場担当も営業も集金もなんでもやらねばならないのです。
よし! この件、私がやる!
・・・ということで、私が集金係となりました。
これに題をつけるなら、〃大集金!〃(当時”大誘拐”っていう映画がありましたが)
それでは、「実録!大集金」 の始まり、始まり。
まず、本屋へ走りました。
「債権回収の法律知識」 「内容証明の書き方と活用法」 「訴訟は本人で出来る」 「絵でわかる民事訴訟」等々。
さまざまなハウツー本が出ていました。
へえ、ふーん。
こういったときに頼りになる本、結構いっばい出ている。ちっとも知らなかった。
まあ、あんまりお世話になる人、いないだろうけど。
で、その中で目をつけたのが、〃本人で出来るシリーズ〃の中の「支払い命令の申し立てと活用法」
こういった本、買うと結構高いんですよ。
幸い? このコーナー、レジから隠れたところにあったので、座り込んで一、二時間程〃ただ読み〃で勉強させてもらいました。
この書店にはその後もいろいろとお世話になりました。(内緒ですが…)
でも、何冊かはちゃんと買って読みましたよ。
その結果、この件に関しては、
「支払い命令」(現在は〃支払督促〃と名称がかわっています) という方法が有効のような気がしました。
なんせ、相手は二代目の若 (フリガナはバカ)社長。ちょっと脅かしてやれば払いそうな気がしたのです。
普通の方は知らないだろうけど、この〃支払い命令〃という〃手〃は、いわゆる〃マチ金〃とか〃サラ金〃の業者が、一般個人に対しての督促請求にもよく利用するらしいのです。
手続き簡単。費用も安い。特に証拠もいらない。
但し、相手が〃異議申し立て〃をして、通常の裁判に移行した場合は少し面倒かも。
でも、言葉は悪いけど、〃ちょっとした脅し〃に使う分には、この裁判所が出してくれる〃支払い命令〃はインパクトあります。
普通の人は内容証明くらいでもビビるのに、差出人が〃裁判所〃なんだもん。
おまけにその中には、「債務者は請求の趣旨記載の金額を債権者に支払え」と書いてあります。
そして、「上記は正本である」 の文字の上に、大きな大きな四・五センチ角の裁判所のハンコも押してあるんです。
何もこんなにでかくしなくても…と思うくらい大きなハンコ。
だから、ほとんどの場合、これが送られてきた時点で、あわてて話し合いに応じるらしいのです。
裁判=弁護士=高い費用=なんだか大変そう。なら、直接話し合いで、となります。
T杜の場合も三百万円という微妙なところだし、ヘタすると裁判費用、弁護士費用でちゃらになりかねない。
案の定、〃支払い命令〃が届くや否や、ころりと態度の変わったY社長が電話してきました。
「ほんま、えろうすんまへん。分割でお支払させてもらいたいんですが…」
うって変わった低姿勢。こちらは半分でも回収できれば…くらいの気持ちだったけど、
相手があんまり素直に謝ってきたので、つい調子に乗って、
「こちらも代理人やら、いろいろと経費もかかったんですよねー」
と、いかにも弁護士が関与したかのような言い回しを。
代理人とは私のことだし、裁判所への電話代やらの経費はかかったもの。嘘じゃないよ。
「ほんまに、ご迷惑かけてすんまへん。何とか、これでお願いします」
と、三百万に多少色をつけた金額を提示してきました。金利分のつもり?
「いいですよ。では、それを文書にしてファクスしてください」
(冷静に、冷静に…)
「はいっ。すぐ送りますっ。どうか、ひとつよろしゅうに!」
ピ・ピ・ピ・ピ・ピ…
その後すぐに、ファクスが流れてきたことは言うまでもありません。
そのファクス用紙を天にかざし、
〃勝訴〜!〃
何でもやってみるもんだな〜
おまけの話
今回の件で一番驚いたと言うか、意外だったと言うか、感動したこと。
それは裁判所。
まあ、ほとんどの人が、縁の無いところではあると思うけど。特に主婦にとってはね。
こういう事態になって、やむを得ず、勇気を出して「えいっ」とプッシュしたナンバーだったけど、イメージとしては、こわそーなところ。
ところが、電話応対に出たのは女性で、しかもやさしいお声。
これははとんど「○○デパートでございます」と同じくらいソフトです。ホントに。
特にある裁判所の若い書記官の方は、丁寧な関西弁で、支払い命令の裏ワザまで教えてくださいました。
それはここでは内緒だけど。
裁判所と言うところは本当に親切。
こんなシロートの主婦に対しても、決して面倒がらず、
「印紙はどこに貼るんですか?」
「申し立て書って?」
なんていう、本当に初歩の初歩の質問にも、大変大変、丁寧に答えてくださいました。
「裁判は金がかかる」 っていうけど、あれは〃弁護士費用〃がかかるんであって、
自分で〃本人訴訟〃をすれば、〃費用〃すなわち裁判所へ支払う印紙代は大した金額ではないんですね。
まあ、訴える金額にもよるけど。〃申し立て書〃だって、裁判所へ行けば「ひながた」が置いてあるから、
それに必要事項記入し、必要枚数コピーして相手の住所の管轄の簡易裁判所に郵送でオーケー。
ちなみに現在では、民事訴訟の手続きや提出書類の書き方などを、電話とファクスで紹介する案内サービスもしてくれるらしいです。
もちろん、料金は電話代のみ。
「いいぞ、いいぞ、裁判所!」
ムツカシそーな法律の世界も、ホント、知ってしまえば「なーんだ」
けど、知らないはうは恐い。
裁判所からの〃お手紙〃は、「来る」 とわかってる書類でも、受け取るときにはキンチョーするんだもの。

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