第二十八夜 テレ・アポの話
いよいよ仕事が暇になりました。
世の中全体、ヒマーーー
高度成長期のモーレツ社員、今いずこ。
週休二日で、お父さん達もすっかり“パパ“してます。
でも、暇になってもお金はかかります。
今や、高校まで義務教育状態。我が家も中学生、高校生となった三人の子供がいます。
いわゆる教育貧乏。会社がピンチなら家計も火の車。
四月の新学期は桜吹雪ならぬ札吹雪が舞います。
このままではイカン。何とか売上を上げねば…
しかし、営業で一軒一軒回っても知れてます。
よし。テレ・アポ (テレホン・アポイントメント)営業をやろう。
私が電話帳をめくって、ホテル、カラオケ、美容院、レストランと片っ端から電話しまくるのです。
「こちらは店舗改装をやっております○○です…」と、いきなり切り出すのです。
「お忙しいところを…」なんて枕詞は省略。
営業電話はうるさいから、内容も聞かずに切られてしまいます。
まず、「店舗改装」と用件をはっきり告げることですね。
自分なりにテレ・アポ大作戦をたてました。
先方の忙しい時間帯を避け、昼休み前後に集中的にかけまくります。
百軒もかけると、どっと疲れます。
とにかく同じせりふを百回。でも相手にすれば、すべて初めてかかってくる電話。
毎回毎回、気を取り直し、気合いを入れて延々繰り返します。
テレ・アポのバイトの時給が高いわけ、わかりましたね。
でもね、みんな、というか、ほとんどの方が、突然の電話にもかかわらず、丁寧に応対してくれました。
これは意外でした。すぐに〃ガチャン〃かと思ったけど。
平行して営業案内のファクスも送信。
けど、電話帳にファクスナンバー載せているところはあまりありませんでした。
それでも、何十軒目かのブティックにファクスを流したところ、いきなり電話がかかってきました。
「どうしてわかったの? うちが改装考えていること」
落ち着いた、でも、ちょっと気の強そうな女性の声。ブティックのオーナー?
「あ、いえ、順番に営業案内を送らせていただいてるんですけど…」
「そお。よかったら、ちょっと担当の方、電話してくれない?」
(はあい。もう、します! します! すぐに早急に大至急いたしまーす)
ひまつぶしに市内をうろうろしていた夫が、大急ぎで先方へ駆けつけました。
あまりの早さに、「あら、もう来たの?」
ピザ屋の出前だけではありません。こういう営業も素早いほうが勝ち。
オーナーのNさんの話では、実は今、見積りを頼んでいるところがあるんだけど、ここ数日ほったらかされて連絡もないというのです。
そこへタイミングよく、我社のファクスが…という次第。
(ようし、横取りしてやれ)
こっちはお暇です。すぐに見積りと図面を持って行きました。
「あらあ、あなたのおうち、S町なの?」
「はい。二丁目です」
実はこのブティック、市内のビルから移転して、住宅街の中に、固定客を中心にした店を開く計画だったんです。
その移転先の住所が、なんと偶然にも我が家のすぐそば。同じ町内だったのです。
おまけにその住宅は、私たちが以前、家さがしをしていたとき売りに出されていて、下見したことがあります。
じや、その時、Nさんが買ったんだ。
なかなかしゃれた、洋風のブティック向きの家。
Nさんは夫より年上だったけど、女手ひとつで二人の子供を育てています。
細い身体からエネルギーがあふれてる。元気な女実業家。
Nさんは、おしゃべりで気のいい夫を弟のように気に入ってくれました。
ブティックの内装も、イタリア風のセンスの良いデザインに仕上がりました。
その部屋に、ひとつ百万円もする輸入家具が置かれ、
イタリアの高級ブランドの〃お洋服〃が、豪華にディスプレイされていました。
ここのサロンで、お金持ちの奥様が、Nさんの軽妙なおしゃべりにのせられて、
ん十万もするお洋服を買わされていくんですね。
「お支払」は、きっと旦那様たちなんだろうな。
「奥さんにも一着どう?」
「と、とんでもない!」
一着、ん十万の値札にビビる夫。
女一人でも立派に商売してるNさん。
夫よ、あんたも見習え。

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