第三十夜 早朝の鉄人レースの話
テレ・アポ、そしてファクス営業、次に、チラシ配りも始めました。
市内をあちこちママチャリこいで、お店のポストにチラシを入れて回るのです。
お店の営業時間だと、いちいちドアを開けて入らなければならない。
それは効率が悪い。
なら、早朝、お店の開店前に、シャッターなどのポストにポンポンと入れていけば?
というわけで、午前五時からのチラシまきが始まったのです。
このチラシまき、午前五時から七時までが勝負。
やってみればわかるけど(あんまり、やった人いないだろうけど)、
七時過ぎると道路がやたら混んでくるのです。
通勤、通学の時間帯になるわけなんだけど、
道路ひとつ横切るにも、車が途切れるのを、じっと待たなければならないのです。
歩道は、あっちから、こっちから高校生の自転車が突進してきます。
ヤツら、時間ギリギリだから、じやんじゃんとばすのです。おばさん、恐くてかたまってしまう。
チラシ配りを始めた頃、同時に、パン屋さんの早朝パートも始めました。
私、夜はすぐに眠くなるんだけど、朝は強い。
子供の頃の夢は、パン屋の〃お嫁さん〃だったくらい。
(今だったら〃パン屋さん〃と言い切るんだけど、その頃は、まだ女性は自立していなかったので、〃○○のお嫁さん“が普通だったのです)
近所のパン屋さんから漂ってくる、朝の焼き立てパンのいい匂い。憧れだったな〜
毎日三時起床で、このパン屋さんのパートをやるのですが、これがまた、忙しくって。トイレに行く暇もないくらい。
パート初日、そのあまりのめまぐるしさに、昔、テレビでやっていた「脱線ゲーム」を思い出しました。
ゲーム中に、おもちゃの電車が線路を一周してきます。線路の途中に置かれている風船を、その電車が通過する前に持ち上げないと、風船が割れてゲームオーバー。
というもの、だったと思います。子供の頃、観てたこのゲーム。ハラハラ、ドキドキ。
ああ、電車が来る! 風船が割れる! 早く、早く。観ているこっちまで焦りまくりました。
まさにパン屋さんがその状態。
ああ、あと三十分! 二十分!
できあがったサンドイッチを、決まった時間までに納品しないといけないのです。
しかも、これが三人のパートで百個、二百個の世界。
時間までに無事に仕上がったとき、
「ああ、今日もなんとかできた」
と、ほっとします。
「お疲れさまあ」
と、自転車に。ヤレヤレ。
他の人は、ここで自宅へ…なんだけど、私はそれからチャリをこいでのチラシ配り。
約二時間。ほとんど市内を一周しました。
まるで犬の匂いづけのように、一軒一軒チラシを入れていくのです。
どこにお宝が隠れているか分からない。
「ここ改装するといいのになあ」というような古いお店が結構あります。
さあさあ、がんばって種蒔き、種蒔き。
そのうち、これが芽を出して、「改装お願いします」と電話がかかってくる。
そうなることを祈りつつ、ほいさ、ほいさ、とペダルを踏みます。
そして、ワイドショーの時間に、ようやく家に帰りつくのです。
かなり疲れているけど、さあて、これから朝食の後片付け、家の掃除と、またまたハーードな時間が続きます。
パン屋さんのパート、二時間。
自転車チラシ配りラン、二時間。
家の掃除洗濯、二時間。
私はこれを「早朝の鉄人レース」と名付けました。

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