いつもの電車 いつもの風景
なぜか見るもの全てが新しく感じる
あの夢のせいでそわそわした気持ちになっていた
今日から柚木の研修が始まる
研修は本社の社員よりも少し早く出社して
ビジネスマナー講習や、いろいろな勉強会がある
柚木はもう会社にいるころだ
駅から見える本社ビル
あそこに柚木がいると思うと少し緊張してしまう
会社に行くのが楽しいのは初めてかもしれない
そろそろ勉強会がおわりこのフロアに柚木達がくる
心音が早くなる。
ぞろぞろと足音が聞こえてきた
その中の一人がスカートをヒラヒラさせ小走りでこちらに走り寄る
「横山さん おはようございま〜す」
後輩の 坂下朋子だ
「おはようございます。坂下さん」
「いま、勉強会終わったんですよ〜」
心の中では 「見れば分かるよ」とつっ込む
わたしは、このキャピキャピとしたノリが苦手だが
精一杯の聖母マリアスマイルで微笑んでやった
「凄い疲れました〜何度か寝そうになりましたよぉ」
私にだけ小声で愚痴っている
今の私にあなたの話を聞いている余裕はないの
そういえたらどんなにいいか
ふふふと微笑して自然に仕事に戻った
ぞろぞろと勉強会を終えた新人たちがフロアに集まった
その中で柚木の姿は一段と光って見えて
直ぐに分かった。
きょろきょろと柚木は落ち着きがない様子
私と目が合うと 笑顔になってニコッと微笑んだ
ドクッ 私の心臓は突き破るかのように激しくなる
とっさに目をそらしてしまう
夢の中のキスを思い出してしまった
後ろめたいような気分に襲われ、目を合わせ微笑むこともできなかった
落ち着きがなかったのは私を探していたのだろうか
彼も私を意識しているんじゃないか・・・
無意味な妄想がぐるぐると頭の中をめぐっている
恋愛を忘れかけていた私にとって
彼の言葉は脅威であり、彼の行動は恐怖になる
朝礼が始まり、新人のあいさつや業務の連絡が伝えられる
「今日から彼らとチームを組んでもらうのでよろしくお願いします、ええーでは割り振ったものを発表します」
「横山さん、峰尾さん、鈴木さんは柚木さんと、坂下さんと組んでください」
やった。心の中で叫んでいる 自然と口角が上がっていく
柚木は表情を変えず静かに聞いていた
「ではグループごとに集まってリーダーの指示に従ってください。リーダーはグループごとの一番最初に読み上げた人たちです」
リーダーか・・・この中の一人を意識しているのに、うまくまとめられるだろうか
不安で仕方ない
今までは仕事は仕事だと割り切れる人間だと思っていたが
今になっては自信がない
そう。リーダーは新人の評価点をつけなくてはならないのだ
「あの、柚木です よろしくお願いします」
初々しく少しぎこちないあいさつをしてこちらをチラッと見る
その横からピンク色の声で坂下が挨拶をしていた
私と坂下以外は男性であること 坂下は本能で男というものを分かっているのだ
一人ひとり目を合わせ微笑んでいた
その器用さと、度胸に私は嫉妬している
私は柚木の目を合わせることなく淡々と、今後のスケジュールについて
伝えていく。
昼の休憩の音楽がフロアに響いた
それぞれに昼食をとりに解散していく
「横山さんはどこで食べるんですか?」柚木は
「私は、近くの定食屋さんかな」
「僕もご一緒していいですか?」

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