2人は、細い路地にある定食屋へ向かった
私はこういう都会の裏道にある食堂が好きで
よくお気に入りを見つけては一人で楽しんだ。
割と一人でいることが好きな方かもしれない
気楽でフットワークが軽くなるからだ
誘われればあまり断ることはないが、自分からは誘ったことがない
人が嫌いなわけじゃない
一人上手なだけなのだ
「ここの路地には、和食もあるし洋食もあるから迷った時はここにくるの」
「なんか横山さんのイメージと違いますね」
「わたしの?どんな風に思ってたの」
「う〜ん・・カフェでサンド片手に仕事してる感じだったので、なんか意外で・・・ 僕的にはうれしいですけどね 」
「そんなイメージだったの? しょうがないか、私秘密主義だからね」
「ますます 横山さんのこと知りたくなりますよ」
さらっとこんなことを行ってしまう柚木に少々苛立ちを覚えてしまう
素直に喜べないのは私が曲がった正確なのだろうか
ときめいてしまったら、負けてしまうような気がする
こんなことで浮かれ足になっている自分を見るのがイヤだというのもある
「柚木君は女性の扱いが上手ね 将来が楽しみだわ」
「そんな事いわないでくださいよ 僕は不器用な男ですよ!」
いつからだろう自分の領域に踏み込まれないように
壁を作って、社交辞令というテクニックを身に着けたのは
これが大人なんだとくくってきた それが正しいことだと思ってきた
歳を重ねるごとに見えない鎧は何十にも重なっていく
「横山さん何にします?いろいろあって迷いますね」
くりくりとした目で『お品書き』を食い入る様に見る柚木
まるで子供のようだ
そんなところに愛おしいと思ってしまう
「私は さば味噌」
「わお 日本人の心を分かってますね じゃあぼくは焼肉定食」
こんな細い路地でもお昼時になれば匂いをかぎつけたサラリーマンが集まってくる
お袋の味を求めて この店には男性客が殆どを占めている
向かいの洋食屋には、制服姿のOLがよく集まる
どちらも、店主の人柄はよく、客層もおもしろい
しばらくして2人の食事が運ばれてきた
「おおっうまそう ちゃんとした料理は久しぶりなんで 今ちょっと感動してます」
「きちんと3食まともなものを食べないと、いい仕事はできないもの」
小さいころから母の躾で、食事にだけは厳しかった。
そのせいか、一人暮らしでもバランスを考えて朝と夜はきちんと作っている
疲れて帰ってきても、野菜スープくらいは作ってたべているのだ
そのほかはめっぽう疎かにしているが・・・
「さすがですね。見習います!」
「そのおかげで風邪なんかひかないもん 」
「あっそれ 凄くうまそう 一口くださいよ あーん」
無邪気に口をあけて待っている
「ばーか」
「やっぱりバレました?」
柚木は照れ笑いをしながら、お茶をごくごくとのどを鳴らし流し込んでいった
「あっそうだ 今日進藤さんに会ったんですけど、なんか元気ないような感じだったんですよ」
「そうなの?寝ぼけてるだけなんじゃないのかな 朝弱いっていってたし」
「横山さんは仲いいから、なんか知ってると思って」
どきっとした
柚木には、進藤とのことは知られたくないと思った
理由はなんとなく想像がつくが、何もいう気になれなかった
とっさに言葉が出てしまった
「そうでもないけど」
「時間ね そろそろ、戻ろうか?」
「あっはい。時間が経つの早いですね・・・」
会社に戻る道では会話がなかった
進藤の話の後、異様に私は壁を張ってしまったからだろう
失敗だった。
後輩に気を使わせてしまった。
できれば進藤の話題を振って欲しくないのが本音だが
自分の感情を出しすぎてしまった。
余計、私と進藤との間に何かあったんじゃないかと思われてしまうのに
「ああ!横山さ〜ん」
遠くからあのピンク色の声が聞こえてきた
ヒールの音をカツカツとさせて、走りよってくる
「あら 坂下さんは、鈴木さんたちと一緒だったの?」
「はい ランチバイキングでいっぱい食べちゃいました」
「リョータは横山さんとランチ?」
「うん 良いところ教えてもらったんだ 」
「えー私も行きた〜い 今度はリョータが奢りでつれてってよね」
「ああ 分かったよ」
なんだか悲しい気持ちに襲われた
2人が中よさそうに話していることや、柚木のことをリョータと呼んでいることより
柚木だから教えたあのお気に入りの場所を
簡単に教えてしまうこと。
無神経さに呆れてしまいそうになった
共有した秘密をノウノウとバラされた気持ちになった
「ごめんなさい 私早く行かないといけないから」
苛立った自分を覚られないようにこの2人から早く離れたかった
つくり笑顔で微笑んだ後走るように戻ることにした
進藤ならそんなことはしないだろう。
はっきりと言う性格で誤解されやすいが、そういう、人の気持ちは分かる大人の男だ
だから信頼を置いてるし、長く付き合っているのかもしれない
こんなときは、進藤に会いたくなってしまう。
早くこんな気分を忘れようと仕事に力が入る
いつもの2,3倍のスピードで黙々と集中していった
「おーい 横やん?」
気がつつくと定時の5分前だった
「あっ 峰?呼んだ?」
同じグループの峰尾だった
「横やん 今仕事の鬼になってたよ また何かあったな まぁ聞かないけどさ」
「峰には分かっちゃうのね・・・理由はいわないけど」
「やっぱり 横やんは秘密主義やな〜 そうだ、今日さ、新人の歓迎会があるんだけどモチロン行くだ
ろ?」
「・・・・ああ・・・うん 行くよ でも明日プレゼンあるから、資料だけ作っておきたいし、少し遅れそう」
「分かった、人数に入れとくから」
あんまり乗り気じゃないがここで行かないのも浮いてしまう気がして嫌だった
定時の時間が来ると一斉にデスクを片付けだし、帰り支度をする
そんな中、一人カタカタとキーボードを叩く
しばらくするとフロアには独りだけになっていた。時計のカチカチという音だけが聞こえる
そのとき『カチャ』そっとドアがあいた

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