生理学を学ぶ皆さんのために、「ぶろぐ」を作成しました。
講義ではカバーできない部分や、追加資料、追加説明を掲示するとともに、皆さんからの質問や要望を受け、(できるだけ)回答して授業に双方向性を持たせ、より深い理解をしていたく、という試みです。
皆さんからのアクションが無いと、結局は一方通行のままに終わるので、私にどれだけ受け止める時間的余裕と能力があるかは判りませんが、取り敢えずなんでもいいので、どんどん投稿してみてください。
投稿には、本名でなくても結構ですから、ニックネームを書いて下さいね。
なお、以下に記述した内容(著作)は、引用したものを除きすべて著者、呑気呆恬に帰属しますので、無断での使用は禁止いたします。引用、リンクなどをご希望の方は呑気呆恬までご連絡ください。
2011/12/2
平塚の盲学校で、運動系の中枢制御についてお話しすることになりました。
生理学では、どうしても図を多用するのですが、視覚障害者の方々を対象に上手くお話しできるか心配です。
そこで、話の内容をアップしておいて、自由に読んでいただこうと思います。
T.中枢神経による運動制御
「運動時に起こる問題点」
「運動系」の話をする時に、いつも最初にこの写真を出します。
皆さんご存知の「起動戦士ガンダム」です。
両肩の後ろには「ガンキャノン」というでっかい大砲がついていて、右手に大きな「ビーム・ライフル」、左手に「ガンダム・シールド」を持って、地上を走ったり、跳んだり、空を飛んだり、宇宙空間でも戦うそうです。
例えば、宇宙空間に浮いた状態で、このような大きな武器を、いきなり振り回して敵に狙いを定めて撃つとどうなるでしょう?正面に構えていたビーム・ライフルをサッと右方向へ振り回したら、「作用反作用」で体が半分左に回転するでしょう。そうならないように、腰の周りや足首の辺りに小型の補助ロケットがたくさん付いていて、反作用を打ち消すように、微妙な噴射をするのでしょうね。
地上戦では、足の裏が地面に接地しているので、足の裏の摩擦で反作用が打ち消されますが、その場合には足全体をギュッと硬くして、体の回転を止めなければなりません。
ビームライフルを一振りするだけでも、腕を動かすだけでなく、いろいろな制御を同時に行う必要があります。
「ガンダム操縦における補助制御装置」
これは、ガンダムを操縦するコックピットですが、レバーが二本といくつかのボタンが並んでいます。これだけのもので、ガンダムの動作のすべてを制御できると思いますか?
先ほどの、腕を振る動作だけなら、可能かもしれません。でも同時に、反作用を打ち消すための制御ロケット
を微妙に発射したり、足腰の筋肉、(ガンダムの場合は「アクチュエーター」というのでしょうか?)をギュッと硬くしなければなりません。
「そんなこと知らないの?コンピューター制御で自動的にやっているんだよ!」という声が聞こえてきそうですが、きっとそのとおりでしょう。
それと同じ仕組みが、人間の脳にも組み込まれているはずですね?
だから、例えばガンダムの操縦とか、自分でロボットを作るとか、そういう場合にどんな問題が発生して、それを解消するためには何が必要か、そういうことを考えていくと、人間の運動系のこともよく判ってくると思います。
順番に考えて見ましょう。
「姿勢情報の統合処理」
まず、コックピットで操縦する「アムロ・レイ」です。
「右腕に持ったビーム・ライフルを正面から右方向へ振る」とか、「走って100メートル先まで行く」という意思を決定します。
ガンダムの場合は胸のところにコックピットがあって、そこからアムロ・レイが指令を出しますが、人間の脳の場合は、前頭葉に当たります。
腕を振るのに、肩の筋肉を収縮させればよいのですが、最初に体全体がどういう状態になっているのかを知らないと、きちんと動作できません。
人間の場合には、すべての関節に、いまどのくらいの角度で曲がっているかを検出する感覚受容器(固有感覚受容器)があって、感覚神経を介して脳に情報を伝えています。筋肉の感覚受容器である筋紡錘やゴルジの腱器官からは、すべての筋肉の状態についての情報が伝えられます。これらの感覚のことを「深部感覚」といい、意識に上らないので普通はそのような感覚情報が自分の体の中を飛び回っていることは気づきません。
「全身から集まる感覚情報の再分配を行なう視床」
さて、これらの情報は脳のどの部分に伝えられるのでしょうか?
「視床」ですね。視床には全身の感覚情報がすべて集められて、それぞれ必要なところに必要な情報を伝えます。昔流に言えば、「電話の交換手」みたいなものです。ただ、1対1の接続だけでなく、ひとつの情報を複数の必要な部位に配分することも多いです。生理学の教科書では「特殊投射系」とか「非特殊投射系」という言葉が使われています。
視覚、聴覚、皮膚感覚などの意識にのぼる「特殊感覚」は「特殊投射系」を介して、大脳皮質の感覚野へ送られますが、関節や筋肉などの「深部感覚」などは、「非特殊投射系」を介して基底核や脳幹、小脳などへ分配され、運動のための基礎的情報として使われます。もちろん、視覚、聴覚、皮膚感覚や平衡覚などの特殊感覚も、運動の基本情報として重要なので、こうしたものも、一緒に使われます。
「姿勢に関する情報を統合する中脳」
その場所は、脳幹の主に中脳です。中脳は、すべての関節や筋肉の状態に関する情報、視覚、聴覚、平衡覚の情報を元に、現在の体の状態を算出します。
例えば、平衡覚から、「頭が、重力に対して30度右に傾いている」という情報が中脳に伝えられたとします。でも、首の骨(頚椎)や脊椎が少しずつ傾いているという関節や筋肉からの情報を統合して計算すると、地面は水平で両足は真っ直ぐに立っているんだ、ということが判断できます。
「視覚情報を狂わせるビックリハウス」
ここで、遊園地などにある「ビックリハウス」というものを考えてみましょう。ビックリハウスは小さな小屋で、中の壁とか窓、いすや机、などすべてのものが傾けて固定されています。視覚障害の皆さんには申し訳ないのですが、晴眼者がこの中に入ると、目から入ってくる「視覚情報」だけが、先ほど云ったその他の体の情報と一致しないので、脳が混乱します。晴眼者の場合、日常生活では非常に大きく視覚情報に頼っているので、視覚情報がその他の情報と一致しない場合、視覚の方を優先してしまいます。視覚は、「家が傾いている」という情報を伝えてくるので、どうしても傾いた家に体を合わせようとします。その結果、相対的に重力が傾くことになるので、体が倒れそうになって大騒ぎするのです。目を閉じてしまえばまったくつまらないアトラクションです。
でも、混乱するということは、逆に中脳が正常に働いている証拠でもあります。
「姿勢保持の自動制御プログラムを作りだす小脳」
さて、中脳で体の状態が判定できたので、動作を起こします。
いきなり、重たいビーム・ライフルを持った腕だけを動かすと、体の重心が右に偏り、右側に倒れてしまいます。
「いや、別に倒れないよ、あんたがおかしいんじゃないの?」と云わないでください。自分ではまったく意識していなくても、皆さんの脳の中ではきちんとバランスの計算をして、右足に力を入れて体が倒れないように支える微調整をし続けているのです。そういう機構が常に働いているから倒れないのだということを忘れないで下さい。
こうした、様々な動作に伴う姿勢のバランスを保つための補助的動作を作り出しているのが「小脳」です。
教科書では、小脳の機能は「随意運動の協調、姿勢の保持に必要な筋緊張を支配する。さらに小脳は熟練した運動の記憶と学習に関与する」と書いてあります。
はっきり云って、小脳の機能は後者に当たります。何度も何度も練習してようやく獲得した「熟練した動作」は、とても難しいことであってもほとんど意識することなく行なえます。例えば、ギターの演奏などは、はじめのうちは指一本一本を必死で弦に当ててコードを引きます。場合によっては、右手で左手の指を一本ずつ動かしてやらないとできなかったりします。でも、何回も練習しているうちに、まったく左手のことを気にしなくても勝手にコードを抑えることができるようになる、そうです。私はまったくできませんが。
こうした、指の動きなどは、小脳の中に「ギターのあるコードを押さえるには、どの筋肉をどのように動かせばよいか」という小さなプログラム(サブルーティンといいます)が出来上がり、記憶してあるので、一度獲得した動作の組み合わせは、いちいち指の動きを考えなくても、大脳が音程をイメージするだけで無意識に指が動くようになります。
「自動制御プログラムを修正して熟練技を生出す小脳」
ここで又、余計なものを出します。ずいぶん昔に流行った「ストリート・ファイター」というテレビゲームを覚えているでしょう?十字キーやボタンがいくつか付いたコントローラーを使って、いろいろと人間には不可能な空手技を繰り出して、テレビ画面上で戦うゲームです。複雑なキーの組み合わせで、「波動拳」とか「昇竜拳」といった強力必殺技が出せるのですが、私には不可能で、いつも子供に負けていました。考えてみれば、パソコンのキーボードみたいにボタンをいっぱい並べて、「波動拳」とか「昇竜拳」専用のキーを作れば簡単だすが、それではゲームにならないわけで、難しいキー操作をマスターするところに面白さがあるのでしょうね。子供にすれば、お父さんをコテンパンにやっつけられる、という快感もあるのでしょう。
それはさておき、あるキー操作の組み合わせを入力すれば、キャラクターが決まった連続動作を繰り出すというプログラムがプレイステーションの中に作られているわけで、これを記憶しているところが人間では「小脳」に似ています。
ただ、人間の小脳は、ちょっとうまくいかなかったとか、失敗したといった、動作の結果をフィードバックして、プログラムを修正してくれるところがテレビゲームよりも賢いのです。この修正機能が「訓練による熟練」に当ります。
こうしたプログラムとしては、自転車乗りや野球のイチローさんのファインプレーとか、様々なものがあります。
で、教科書に書いてある小脳の機能に「随意運動の協調、姿勢の保持に必要な筋緊張を支配する」というのがありました。我々のように大人になってしまうと分かり難いのですが、1歳くらいの幼児を考えれば判り易いと思います。赤ちゃんの小脳には、まだ「立ったり」「歩いたり」「跳んだり」するためのプログラムが出来ていないので、一生懸命練習して、「熟練した技」を習得しようとしているのです。
「姿勢制御も幼時の訓練で獲得した熟練業」
赤ちゃんを見ればよくわかります。立っていて、何かものを拾おうとして前かがみになると、重心が後ろにずれて尻餅をつく。これじゃだめだと、その次には体の重心を少し前にずらしてみて、今度は前のめりになってしまう。こんなことを繰り返しているうちに、転ばずにものを拾えるようになる。ということで、小脳が学習するときには、一度作ったプログラムを実行してみます。そのときの結果を感覚神経が視床に伝え、そのコピーを小脳にも伝えます。小脳では予定していた行動と実際の動作とのずれを計算してプログラムを修正します。これが「練習」にあたり、少しずつ修正しながら完璧なプログラムを作り上げます。プログラムが出来上がってしまえば、「歩く」という意識だけで、各筋肉の収縮などは一切意識せず、ほとんど「勝手に」動作することが出来るようになります。
そう考えれば、「姿勢の保持」も「熟練した動作」と同じだということがわかります。
「すべての身体情報を統合して運動プログラムを作り上げる大脳基底核群」
大脳基底核群も、動作に関与していますが、あまり判らないので今日は省略します。そのときどきの状況に合わせて、いろいろなプログラム(サブルーティン)を組み合わせて、全体的な行動を作り上げる、というように考えてください。
「通常の身体運動に関わる錐体外路系」
このように、大脳前頭葉で意図した動作を、体の様々な情報を元に(中脳)、練習で獲得した細かな運動プログラムを組み合わせて動作を行なうときの神経経路のことを「錐体外路系」といいます。脳内の様々な部位(中脳や小脳、基底核群など)が互いに協力し合って体の動きを作り出すのですから、その神経経路が複雑で、はっきりしないのは当然のことです。
教科書にはいろいろと書いてありますが、日常的な動作のほとんどがこの「錐体外路系」に属すものです。
これが、ガンダムで云うところの「コンピューターによる自動制御」に当たるわけで、操縦者のアムロ君は目的の動作を指示するだけで、ガンダムがひっくり返ったりしなくても済むのでしょう。
「長期の環境変化で書き換えられる小脳の運動プログラム」
ところで、11月22日に、国際宇宙ステーション(ISS)の長期滞在(167日間)から地上に戻った宇宙航空研究開発機構の古川聡宇宙飛行士(47)が 「地球帰還当日、気分は最高だが身体はまるで軟体動物のよう。身体の重心が全く分からず、立っていられない、歩けない。下を見ると頭がくらくらして気分が悪くなる。歩くつもりで足を出すが、太ももが思っているほど上がっておらずつまずく」と体調を表現していたそうです。宇宙機構によると、「帰還直後は体のバランスをとる三半規管が地上の感覚に慣れず、立ち上がれない。古川さんは4カ月半かけて訓練し、筋力や感覚などを戻していく」と書いてありますが、もう皆さんは、何が起こったのかよくお分かりだと思います。小脳のプログラムが、宇宙の無重力空間用に書き換えられてしまったのですね。もう一度訓練しなおして、地上用のプログラムに戻さないといけません。
「大脳が筋肉を直接制御する錐体路系」
ところで、「錐体外路系」に対して「錐体路系」というのがあります。
教科書では「随意運動の神経経路」と書いてあって、こちらの方が重要みたいな扱いがされていますが、じつは「錐体外路系」よりもこちらの方が特殊な経路だと思います。
錐体路系は、大脳皮質運動野にある大きな「錐体細胞」から出た神経線維が、そのまま脊髄を下行して脊髄前角の運動ニューロン(一部は介在ニューロン)に直接シナプスしています。
これは、大脳皮質が直接骨格筋に指示を出して動かしているのですから、極端に言えば姿勢や身体バランスなどは無視していることになります。もちろん、体のバランスをとるための足の動きなどは、目的の行動とは別に無意識のうちに自動制御されているので、それほどすぐには転ぶわけではありません。
錐体路系の運動は、指先で行なう細かな作業などが主なものだと思われます。例えば、小さな針の穴に糸を通すときなどの仕事です。こうした非常に細かな仕事で、まだ練習もしていない初めての場合には、意識をそのことに集中して必死で行ないます。
大脳皮質一次運動野の身体再現というのがあって、手指をつかさどる部分が非常に大きいことでも判ります。
正しいかどうか判りませんが、ガンダムで云えば、操縦者が
目的の物を、自分の目で直接見ながら、例えば「気絶して倒れている人(通常は女性ですが)」をガンダムの指でそっと持ち上げて手のひらに乗せるときなどが、「錐体路系」に当たるのではないかと思います。
ところで、今日のタイトルの「自律神経」も「脊髄反射」もまだ一言も出ていません。
中枢の随意運動の経路は概ね理解していただけたかと思いますが、次は実際に筋肉を動かす末梢の運動経路のことを簡単にお話しします。
下に続く

3
2011/12/2
上の記事からの続きです
U.脊髄反射
「脊髄反射復習」
「脊髄反射(spinal reflex)」というと、教科書では、熱いアイロンを触ったときに「熱ッ!」と無意識に手を引っ込めたり、画鋲を踏んづけてパッと足を上げる、などのいわゆる「逃避反射(withdrawal reflex)」と呼ばれる「脊髄反射」が、まず取り上げられます。
この類の脊髄反射は、一番判りやすく、かつ典型的なものなので、一番に出てくるのでしょう。
脊髄反射の代表例として、簡単に復習しておきましょう。
「反射弓」
脊髄反射は、「反射弓(reflex arc)」と呼ばれる経路で完成しています。
反射弓は、五つの要素から成り立っています。
1.感覚受容器
2.求心性の感覚神経
3.脊髄の介在神経
4.脊髄前角から伸びる運動神経
5.効果器としての骨格筋
です。
「逃避反射の要素」
1.感覚受容器
感覚受容器は、この場合は「痛覚受容器」のことです。生理学では、「痛み」は体を「侵害」する刺激なので「侵害刺激」と呼ばれ、「痛覚受容器」のことを「侵害受容器」と呼びます。
皮膚にある「感覚受容器」は、体外からの刺激を受け取って、感覚神経に伝えます。
2.脊髄後根から入る感覚神経
感覚神経は、感覚受容器から受け取った情報(神経の場合は「活動電位」という電気的信号ですが、今日は詳細を略します)を脊髄まで運びます。皮膚から伸びた感覚神経は、脊髄の後ろ、背中側から脊髄に入ります。この点は大切なので覚えておいてください。
感覚神経の末端は、脊髄内部で「介在神経」に情報を伝えます。
3.脊髄の介在神経
神経から神経に情報、すなわち「活動電位」を伝達する場所を「シナプス」と呼びます。(詳細略)
感覚神経は、脊髄に入ると、脊髄内部に細胞体を持つ「介在神経」に、シナプスを介して活動電位を伝達します。
介在神経は軸索を前方に伸ばし、「脊髄前角」にある「運動神経」の細胞体に活動電位を伝達します。
4.脊髄前角から伸びる運動神経
運動神経から伸びた神経線維は、脊髄の前側、「腹根」を通って脊髄から出て、脊髄神経に混じって目的の骨格筋まで到達します。
5.効果器としての骨格筋
運動神経の終末部は、目的の骨格筋にシナプスを介して活動電位を伝達し、骨格筋が収縮することで「効果器」としての役割を果たします。
「脊髄反射の要素」
それぞれの項目について、もう少し詳しく復習をしておきます。
1.感覚受容器
皮膚感覚には、痛覚の他に、温度感覚、触覚、圧覚などがあります。
熱さや、冷たさは、あるレベルを超えると「痛み」として感じるので、痛覚と同じ神経経路をとおりますが、「触覚」や「圧覚」などの感覚とは脊髄内部の経路が異なります(詳細は略)。
2.求心性の感覚神経
感覚神経は、神経情報を末梢から中枢へ向けて伝えるので、求心性神経とも呼ばれます。
感覚神経は、神経細胞の中では特殊な形をしています。一般的な神経細胞は、沢山の短い「樹状突起」を持つ星のような形の細胞体から、一本の長い「軸索」と呼ばれる神経線維が伸びていますが、感覚神経は、丸い細胞体から一本の短い軸索が出て、すぐに二本に分かれて、長い軸索を両側へ伸ばしています。ちょうど、胴体の無い人が、両手を左右に長く伸ばしたような形で、一方の手で情報を受け取り、体の部分を素通りして左手まで伝えます。中央付近に細胞体があって、両側に神経線維が伸びているので、「双極性細胞」と呼ばれます。
「ベル・マジャンディの法則」
脊髄では、末梢から中枢へ向かって入ってくる求心性の神経線維は背中側の「背根(ventral root、または後根)」を通り、脊髄から末梢へ向けて出て行く遠心性の神経線維はお腹側の「腹根(dorsal root、または前根)」を通ることになっています。この関係性は、大脳でも同じで、感覚系は大脳の後ろ側、運動系は前側となっています。
これを、発見者の名前にちなんで「ベル・マジャンディの法則」といいます。
「脊髄後根神経節の感覚ニューロン」
双極性神経細胞の細胞体は、脊髄後根の付け根近く、すなわち後根が脊髄に入るすぐ手前にあります。細胞体が集まって膨らんでいるところ、「節」といい、感覚神経の細胞体が集まっている場所を「後根神経節」と呼びます。
3.脊髄の介在神経
脊髄の断面は、外側が白くて「白質」と呼ばれ、内側は蝶々が翅を広げたような形の灰色の部分があります。白質の部分は、神経線維が上下方向に走っているので白く見えます。内側には細胞体があるので、灰色に見えます。
灰白質のうち、背中側の左右の出っ張りを「後ろ側の角」という意味で「後角」と呼びます。前側の出っ張りは「前角」です。胸髄辺りでは、横にも少し飛び出だしていて、「側角」といいます。
脊髄前角は幅広くて、骨格筋を動かす「運動神経」の細胞体が集まっています。
側角には、自律神経のうちの「交感神経」の細胞体があります。後角には、「介在神経」があって、脊髄後根から入ってきた感覚神経から受け取った情報を、いろいろなところに伝えます。
先ほどは、「介在神経は、感覚神経から受け取った神経情報を、脊髄前角にある運動神経に伝達する」といいましたが、ただ受け渡しするだけであれば、感覚神経が伸びて、直接運動神経に伝達すれば済みます。間に「介在神経」が入っているにはそれなりの理由があります。
「感覚情報は知覚情報として中枢にも伝わる」
熱いものを触ると、脊髄反射によって無意識に手を引っこめますが、脳には「熱い」という感覚が伝わっています。これは、介在神経が運動神経に収縮命令を出すだけでなく、介在神経の神経線維から枝が出て、脊髄を上行して脳にも「熱い」という情報を伝えているからです。
「長脊髄反射(脊髄多分節反射)」
他にもあります。
例えば右足で画鋲を踏みそうになって、反射的に足を引っ込めるときのことを考えて見ましょう。両足で立っていて、右足を持ち上げて引っ込めると、体の重心を支えられなくて、体が右側に倒れてしまいます。右足を持ち上げても倒れないということは、その瞬間に体重を左に移動させて、重心を左足の上にもってきて、左脚で体重を支えるという一連の動作を、無意識のうちにしているからです。こうした無意識の動作もすべて「脊髄反射」で、脊髄の中で行なわれています。一連の体重移動の動作は複雑なので省略しますが、少なくとも右足で体重を支える為に左脚をピンと伸ばす為の「伸筋」が収縮して緊張していることは確かです。
右足の感覚受容体から始まった脊髄反射が、体の反対側、左側にも波及しています。これも同じように介在神経から出た枝が、脊髄の反対側まで伸びて、左側の「前角」にある、「大腿四頭筋」などの伸筋を支配している「運動神経」に命令を伝えます。
「侵害刺激」を受容したのと同側の「屈筋」を収縮させて四肢を縮め、侵害刺激から逃れる脊髄反射を「屈曲反射」あるいは「逃避反射」と呼び、反対側の伸筋を伸ばして体重を支える脊髄反射を「交差伸展反射」とよびます。
教科書に書いてある、名前がついた脊髄反射は少ないですが、実際には、体重移動をするために様々な、複雑な脊髄反射がたくさん起こっています。
実際に自分が体験したときに、自分の体がどのように動いたかを振り返ってみると、教科書に書いてある「脊髄反射」がよく判ります。画鋲を踏んだりする実体験はあまりしたくはないですが、以前道路を歩いていて、横の家のテラスにいた犬に突然ワンワンと吠えかかられたことがあります。ワッと驚いて、反対側に一歩飛びのいたのですが、
話が逸れましたが、介在神経は単純なリレー役をしているだけでなく、感覚情報をいろいろなところに分散して伝える大切な働きを担っています。
4.脊髄前角から伸びる運動神経
体を動かすための骨格筋は、運動神経から神経情報、すなわち「活動電位」を受けて収縮します。だから、骨格筋細胞には必ず一本ずつの運動神経がつながっています。ですから、脊髄反射で筋肉を収縮させるときだけでなく、脳から起こる意識的な運動、すなわち「随意運動」の場合も、脊髄前角にある運動神経に収縮命令が伝えられます。
5.効果器としての骨格筋
「膝蓋腱反射(伸張反射)」
ここで、もうひとつの有名な脊髄反射である「膝蓋腱反射」を考えてみましょう。
膝の下の膝蓋腱をゴムハンマーで叩くと、不随意に下肢が持ち上がる反射です。しばしば誤解されるのは、「腱」を叩くので、腱にある「ゴルジの腱器官」が脊髄反射の感覚受容器になっていると思われていることです。正しくは筋肉の中にある「筋紡錘」が引き伸ばされて起こる脊髄反射です。膝蓋腱というのは、太ももの前側にある「大腿四頭筋(の中の大腿直筋)」の先にある腱が、膝のお皿と云われる「膝蓋骨」を取り込んで、すね(頸骨)の上部まで伸びて結合(停止)しています。膝蓋骨から頸骨までの部分は「膝蓋靭帯」と呼ぶので、正確には「膝蓋靭帯反射」というべきかも知れませんね。
この部分をハンマーで叩くと、膝蓋腱が引っ張られ、それにしたがって「大腿直筋」が瞬間的に伸びます。大腿直筋の中にある「筋紡錘」が、「筋肉が伸びた」ということを感じ取り(感覚受容)、筋紡錘から出ている感覚神経(Ta線維と呼びます)が第6腰髄の後根を通って脊髄後角に入り、そのまま前角まで伸びていきます。前角では同じ大腿直筋を支配している運動ニューロンにシナプス結合して活動電位を伝達するので、大腿直筋が収縮して、膝から下のすねが持ち上がる、これが膝蓋腱反射の経路です。
もう一度まとめますと、ひざ下の「膝蓋靭帯」を叩くと、
大腿直筋が瞬間的に引き伸ばされ、大腿直筋の中にある筋紡錘も一緒に引き伸ばされ、その情報が感覚神経によって脊髄に届けられ、そのまま前角の「大腿直筋」を支配する運動ニューロンに活動電位を伝え、そこから伸びた運動神経線維が前根から大腿直筋まで行って、大腿直筋を瞬間的に収縮させることで、膝から下が伸び上がる、となります。
「単シナプス反射」
ここまでは、最も有名な「膝蓋腱反射」の経路についての復習でした。
さて、この脊髄反射は、「伸張反射」と呼ばれ、筋肉を引き伸ばすことで起こる脊髄反射であることを意味します。
この伸張反射のポイントは、介在神経が関与しない、すなわち感覚神経が直接運動ニューロンを支配していることで、神経を乗り替えるシナプスが一回だけなので「単シナプス反射」とも云われます。そして、筋紡錘が付着している骨格筋自体が収縮する、すなわち感覚器と効果器が同じ筋肉(同名筋)であることも重要です。
こうした「伸張反射」は、最も明瞭な反応が見られる「膝蓋腱反射」だけでなく、「アキレス腱反射」「ニ頭筋反射」「三頭筋反射」「咬筋反射(下顎伸張反射)」など多数知られています。
ここからが大切なところです。
こうした反射は、なんだかとても特殊なことに思えませんか?
腱を叩くと筋肉がピクッと収縮するなんて、日常生活で何の役に立つのでしょか?まったく意味が無さそうですが、実は脊髄反射の中で、おそらく一番重要で、常に機能しているものだと思います。教科書などにも、書いていないわけではありませんが、どのようにして、何の役に立っているのかを明確に記述していないので読み飛ばしてしまいます。
「筋紡錘による伸張反射の生理学的意味」
今日のお話の、二つ目のポイントをこれからお話します。
まず、臨床などで行なう反射の検査では、反応が判り易い様に「顕在化」させようとして、「叩いて筋肉が瞬間的にぴ訓と収縮」するようにしていますが、これは日常生活では特殊なことです。
「筋肉の長さを一定に維持する筋紡錘」
この、「筋紡錘」による「伸張反射」の生理学的意味は、「筋肉の長さを一定に維持する」ことです。筋肉が少し引き伸ばされると、筋紡錘から出る感覚神経のインパルス(活動電位)の数が増えて、脊髄反射により
運動ニューロンのインパルスが少し増えて、その筋肉(同名筋)が少し収縮して、元の長さまで縮みます。
例えば、コップを手に持って胸の前の高さに維持する場合、上腕ニ頭筋が収縮して一定の長さを維持します。コップに水を注いでいくと重くなるので、同じ収縮力では少し腕が下がってしまいます。腕が下がると上腕ニ頭筋が伸びて、その中の筋紡錘が伸びたことを感知し、脊髄の伸張反射が起こって収縮力を少し強め、筋肉の長さを維持します。
このように、「膝蓋腱反射」に代表される「伸張反射」の生理学的役割は、「筋肉の長さを一定に保つ」ということで、この機能はほとんどすべての骨格筋に備わっています。
体を動かしたり、姿勢を維持する際に、大脳がいちいちすべての骨格筋の長さをモニターしながら、伸びたら少し縮め、縮んだら少し緩める、というようなことをしていたのでは、脳は大変です。このような簡単な調節は、ひとつ下のレベル、脊髄にお任せしてしまえばよいわけです。
簡単な調節機能は、脊髄レベルにお任せしよう、というのが「脊髄反射」の生理学的意味です。そのように考えると、前にお話した「逃避反射」も、「体に害を及ぼす侵害刺激を感じたら、そのことを大脳に知らせてどうすればよいか指示を待って、戻ってきた指示に従って腕や脚を引っこめる」というのでは、危険から逃げるのに間に合いません。
侵害刺激を受容し、その情報が脊髄まで届いたら、取り敢えずは手足を引っこめて危険から離れ、それと同時に中枢にも報告を送る、という、考えてみれば当たり前の手順を踏んでいるだけです。
私が生理学の講義でいつも例にあげるのは、会社組織です。脊髄は課長さんクラスで、毎朝出社してきた自分の部下を確認して、毎日の業務を割り振ったり、仕事の進み具合を見ていろいろな指示を出します。で、廊下で火事が起こったら、すぐに、取り敢えず消火器で火を消して、その後で上司に火事の報告をします。このように、課長さんは、上層部から事細かな指示を受けなくても、ある程度は自分の判断で業務を遂行することができるので、ちょうど脊髄反射に似ているというわけです。
筋紡錘の設定長を変えるガンマ運動神経
さて、「伸張反射」は筋の長さを一定に維持する役割だといいましたが、筋肉の長さがずーっと一定だと体を動かすことができません。動かすためには異なる長さに変えて、その新しい長さを維持するようにしなければなりません。
実は、この「筋肉の長さを変える」ところにも「筋紡錘」が働いています。
話がややこしくなるので、ゆっくりと聞いてください。
筋紡錘は細長い紡錘形の小器官です。
真ん中の膨らんだ部分に、引っ張りを感じ取るセンサーがあります。その両側に小さな「錘内筋」とよばれる筋肉がついています。この筋肉の両端部分が目的の骨格筋(錘外筋)の横っ腹に貼り付いています。
両脇の「錘内筋」が一定の長さに固定されていれば、ここまでのお話どおりで、筋肉の長さを一定に維持する役割で終わります。
では、錘内筋はどのような役目をしているのでしょうか?
例えば、錘内筋が少しだけ収縮して短くなるとどうでしょう?
この筋紡錘が付着している骨格筋の長さは変わっていないのに、すなわち筋紡錘の全長は変わらない状態で、錘内筋が少し縮むと、中央部分のセンサーは両側に引き伸ばされます。センサーには周りの状況は判らないので、錘外筋が引き伸ばされたと勘違いして、感覚神経に「伸びたよー!」という情報を送ります。脊髄で伸張反射が起こり、錘外筋が収縮して少し短くなります。錘外筋が短縮すると、それに貼り付いている筋紡錘も短くなります。その結果、筋紡錘中央部分のセンサーが「元の長さに戻った」と感じたところで「伸びたよー!」インパルスが止まり、それ以上収縮しなくなります。
筋紡錘の「錘外筋」が収縮すると、「伸張反射」が働いて、錘外筋は短縮した状態で一定の筋長を維持するように変わります。
この「錘内筋」を収縮させるための「運動神経」が備わっていて、「ガンマ運動神経」と呼ばれます。
ガンマ運動神経は、目的の骨格筋(錘外筋)そのものを収縮させるのではなく、その骨格筋に貼り付いている筋紡錘の中の錘内筋を収縮させることで、目的の骨格筋の長さを変えることができます。しかも、ずーっと長さが変わらないか見張っていなくても、「伸張反射」が自働的に新たな長さに維持してくれるので、上位中枢の仕事は少なくてすみます。
「ガンマ運動神経を介する骨格筋制御」
ということで、大脳が骨格筋を収縮させて体を動かそうとするとき、目的の骨格筋を支配する運動ニューロンに直接「収縮せよ」と命令を下さなくても、ガンマ運動神経に「何センチにせよ」という命令を出しておけば、脊髄反射、すなわち課長さんが見張っていて、支持された長さを維持してくれるというわけです。
ほとんどの場合、大脳からの運動指令は、直接運動ニューロンに行くのではなく、課長さんに当たる「ガンマ運動ニューロン」に届けられています。
「錐体路系」とか「錐体外路系」ということを習われたと思いますが、ここで簡単に復習しておきましょう。
これは、大脳で企画した運動を、各骨格筋を収縮させる運動ニューロンまで伝える神経経路のことです。「歩く」という動きを企画すると、どの筋肉をどんなタイミングでどのくらい収縮させるかを決めて、それぞれの骨格筋を支配する運動ニューロン(脊髄前角)に伝達します。そのときの神経経路に、大きく二種類ある、というわけです。
ちょっと中途半端ですが、以上です。

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2011/12/1
目下、「免疫」にテーマを絞っています。
初めての方は、免疫とは何か?(3月8日)にさかのぼってご覧ください。
また、訳あって「心電図」についても書いています。
初めての方は「1.心電図の意味」(4月23日)から読んで下さい。
どちらも順番に読めるようリンクが付けてあります。

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2011/5/29
5.心電図の記録法(その1)
手首や足首につけた電極で、どうして「心臓の電気的活動」を記録することができるのでしょうか?
心電図は、「心臓の電気的活動」すなわち「心筋の活動電位」によって発生する「何らかの電気的現象」を反映しているのですが、決して「心筋の活動電位」そのものを記録しているわけではありません。
「1.心電図の意味」で書いたように、「心電図の波形」は「活動電位を発生している部分が心臓内を移動していく様子」を示しています。
では、「活動電位を発生している部分が心臓内を移動していく様子」とは一体何で、それをどうして手首や足首の電極で記録できるのでしょうか?
活動電位は、ひとつの細胞で起こる事象で、活動電位発生部位のナトリウムイオンチャネル(またはカルシウムイオンチャネル)が開き、陽イオンが細胞内に流入することで細胞外から細胞内へ向かって瞬間的に(活動)電流が流れます。電流は必ずリング状に閉じた経路(閉鎖回路)にならないと、特定の場所に陽電荷や陰電荷が溜まることになります。コンデンサの絶縁膜以外ではこのような電荷の偏在は物理学的に許されていないので、イオンチャネルを流れた電流は、何らかの電荷の流れとして(コンデンサの容量電流も含む)細胞膜を出て閉鎖回路を形成します。
この電流は、発生源であるイオンチャネル開口部に近いほど大きく、離れるに従って指数関数的に弱くなります(長さ定数)。この電流は、この細胞の外側を満たしている細胞外液を経由して、イオン電流の流入部(イオンチャネル開口部)に向かって流れていきます。細胞外液が、細胞膜表面を濡らすだけの非常に薄い皮膜状であれば、その部分を流れるが、大きな栄養液槽の中に浮游したような状態だと、磁石の磁力線のような複数の同心円を描きます。すなわち、ここでも細胞に近いところでは密度の高い電流が流れますが、指数関数的に減弱しながらも、細胞から離れた部分にも電流が流れ、電場を形成することになります。これを「容積導体中の活動電流」といい、この電流によって発生する電場を細胞の外側の、すこし離れた場所で記録することができます。
当然、「容積導体」を形成する細胞外液の容積が小さいほど電流密度が高くなり、発生する電場は強くなります。
余談ですが、「カエルの坐骨神経を伝導する活動電位を細胞外記録する」実験では、摘出した神経の周囲に付いている栄養液が少ないほど大きな活動電位が記録できますが、本当に乾いてしまうと活動電位が発生しなくなり、当然記録もできなくなります。
この「活動電流(活動電位の発生に伴う細胞外部の容積導体中に生じる電場)」を記録するのが「細胞外記録(又は細胞外誘導)」であり、心電図波形の起源です。
人の体内は、伝導性の塩類溶液である「体液」に満たされた空間であり、その中に心臓や心臓を構成する心筋細胞が浮游した状態と見做すことができます。従って、心筋は体液という容積導体の中で活動電位を出していて、その容積導体の一部として胸部や手首、足首に電極を接触させて心電図を記録することができるのです。
もう一度まとめ直すと、「心電図」は、個々の心筋細胞に発生する「活動電位」そのものを記録しているのではなくて、多数の心筋細胞が同時に電気的に興奮したときに流れる活動電流によって周囲(の容積導体中)に発生する電場の変化を細胞外電極によって記録するものです。

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2011/5/29
心電図の第四弾 「特殊心筋の活動電位」
心臓のポンプ作用を発揮するための収縮力を生み出す心筋が「固有心筋」で、細胞外から流入するカルシウムイオンが、固有心筋の収縮力を発揮する上で重要な働きをしていると書きました。
一方、心臓全体が連携して効率良く血液を送り出すことが出来るよう、部位毎に収縮のタイミング調節を行なうシステムを「刺激伝導系」といい、これを構成している心筋細胞を「特殊心筋」と呼びます。
特殊心筋の役割は、主に次の二つがあります。
A.早く心臓全体に興奮を拡げる刺激伝導系としての役割
心筋は、隣同士の細胞が互いに「ネクサス」と呼ばれる構造によって「電気的に繋がっている」ため、ひとつの心筋細胞で発生した活動電位(正確には活動電流)はそのままネクサスを通過して隣の心筋細胞に流れ、隣の心筋細胞に活動電位を発生させます。心房および心室は、それぞれの部分に属する心筋細胞が電気的に連絡しあっていて「電気的機能的合胞体」を構成しています。ただし、心房と心室の間には結合組織の層があり、電気的連絡はありません。
したがって、心房または心室のどこか一ヶ所で発生した活動電位は、心房または心室全体に広がり、その順番に従って収縮していきます。しかし、ネクサスを介した活動電位の伝播は遅いため、普通の心臓収縮のように心室全体が同時に収縮して効率的に内部の血液を送出することができません。
そこで、収縮力を発揮する「固有心筋」とは別に、速いスピードで心室全体に先ず興奮を伝え、心室全体が同時に収縮を始めることができるよう調節する役割を持つ「刺激伝導系」というシステムが付加されました。
興奮が心室全体に迅速に行き渡るよう、左右の心室壁内に駕篭状に広がっています。
「刺激伝導系」は、機能的には「神経」に類似しますが、心筋細胞で構成されています。ただし、「固有心筋」のように収縮力を発揮する役割を持たないので、「カルシウムイオンの持続的な流入」は殆どありません。従って固有心筋で見られた「活動電位のプラトー相」が無いかとても短い点が特徴です。
B.心拍リズムを生み出すペースメーカーとしての役割
「刺激伝導系」は、興奮を心室全体に迅速に行き渡らせる以外に、興奮のリズムを発生する役割を併せ持ちます。
心臓が約1秒毎に自動的に収縮を繰り返すのは、右心房大静脈洞にある「洞房結節」と呼ばれる一群の特殊心筋細胞の働きによるものです。この部分の心筋細胞は、自然に(勝手に)脱分極が起こり、「閾値膜電位」を超えたところで活動電位を発生します。活動電位が終わり、元の基準電位(最大拡張期電位)に戻るとまた自然に脱分極し始め、活動電位を発生することを繰り返しています。これが「心臓の自動能」の起源であり、「ペースメーカー」と呼ばれる所以です。
この、「自然におこる脱分極」のことを「前電位(歩調とり電位)」と呼び、自律神経やホルモンの作用によって勾配が変化し、閾値膜電位にまで達する時間が変化することによって心拍数が増減します。
静脈洞の「洞房結節」のペースメーカー機能によって繰り返し発生する活動電位が心房の固有心筋細胞に伝わり、心房の「電気的合胞体機能」によって心房全体に興奮が拡がっていきます。(心房には全体を覆う「刺激伝導系」がないので、心筋細胞自体の興奮伝導で伝わる)
心房と心室の間は結合組織の層によって電気的に遮断されている為、心房の活動電位が直接心室に伝わることはありません。そこで、心房から心室へ興奮を伝えるための機構が「房室結節」です。右心房下方、心室中隔近傍にあって心房全体に拡がった興奮を受け、心室中隔上部の「ヒス束」に伝えます。
房室結節からヒス束への興奮伝導は速度が遅く、心房が充分に収縮して内部の血液を心室へ送り込んだ後で心室の収縮が始まるよう調節しています。
また、「洞房結節」の自動能が損なわれたり、心房の興奮伝導が行なわれない場合には「房室結節」自体がもつ、「洞房結節」よりも遅いリズムでの自動能により「補助的ペースメーカー機能」が発現します。房室結節は正常時にも自動能を持っていますが、それ自身の前電位が閾値膜電位に達する前に洞房結節から伝わってくる興奮が到達する為、通常は房室結節独自のペースメーカー機能は発揮されることはありません。
洞房結節が自動能を失ったり、あまりにもリズムが遅くなると、「房室結節」のリズムが発現して、とにかく心室だけの収縮によって血液を全身に送り出すよう、安全機構になっています。
次、「5.心電図の記録法(その1)」を読む

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2011/4/26
心電図の第三弾 「心筋の活動電位」
心電図を発生する元の電気現象が心筋の活動電位ということで、心電図をきちんと理解しその変化を正しく解釈するためには心筋の活動電位のことを知っておかなければなりません。そこで今回は「心筋の活動電位の特徴」について簡単に説明しておきましょう。
心臓が効率良く血液を送り出すことが出来るよう、部位毎に収縮のタイミング調節を行なう心筋を「刺激伝導系」と呼びます。
心臓のポンプ作用を発揮するための収縮力を生み出す心筋は「固有心筋」と呼ばれます。
筋肉が収縮するためには、収縮蛋白質である「アクチン・ミオシン」に対する「カルシウムイオンによるトリガー」が必要です。
細胞膜には「膜電位依存性のカルシウムイオンチャネル」があり、膜の脱分極によって開口して細胞外カルシウムイオンの細胞内流入を引き起こすことができます。
こうして「細胞外から流入したカルシウムイオン」は、「カルシウムイオン依存性カリウムイオン(K+)チャネルの活性化」のような細胞膜近傍で作用するには問題ありませんが、細胞容量が大きい筋細胞では、細胞外から流入したカルシウムイオンが細胞深奥部にまで迅速に拡散し、作用することは困難です。
そこで筋細胞には、細胞内部にまで張り巡らされた「カルシウムイオン放出装置」としての「筋小胞体」が備わっています。
筋小胞体は中空のチューブで出来た籠状の構造物で、「筋原線維」毎にその周りを取り巻いています。この内部にカルシウムイオンが貯蔵されていて、必要に応じて、すなわち筋が収縮しようとする度に、内部のカルシウムイオンを放出したり、取り込んだりします。
この構造が存在することで、細胞容量の大きな筋細胞も、細胞表面から中心部まで全体が同時に収縮できるのです。この「筋小胞体」構造は骨格筋と心筋に共通しており、両者に見られる(平滑筋にはない)「横紋模様」とも関連しています。
骨格筋の場合は、細胞膜に発生した活動電位は「横行小管系(T系)」と呼ばれる「細胞膜の陥入部」を通って細胞内部の「筋小胞体」にまで伝えられ、筋小胞体からのカルシウムイオン放出を惹き起こします。
しかし、心筋細胞には「横行小管系(T系)」がなく、細胞膜に発生した活動電位が直接に筋小胞体を刺激することができません。心筋細胞の場合は、細胞膜に存在する「膜電位依存性カルシウムイオンチャネル」から流入したカルシウムイオンが筋小胞体を刺激して、筋小胞体からのカルシウムイオン放出を惹き起こします(カルシウム誘導性カルシウム放出)。
筋収縮力は、筋細胞内部に放出されたカルシウムイオンの量に応じて強さが変化するので、心筋の場合には「筋細胞膜から流入するカルシウムイオンの量を変えることで収縮力を調節する」ことができます。
心臓では、自律神経やホルモンがこの機構(細胞膜のカルシウムイオンチャネル)を介して「筋小胞体からのカルシウムイオン放出量を変え、心臓のポンプ作用を調節しています。
したがって、心筋細胞、中でも強い収縮力を要求される心室筋の活動電位には、大量のカルシウムイオンが流入するため膜電位依存性カルシウムイオンチャネルが長時間開口し続けます。これが、固有心筋細胞の活動電位の最初に見られる急速な立ち上がり(スパイク、ナトリウム流入)に続く、長い(数百ミリ秒)脱分極(ショルダー部分)を形成します。
強い収縮力を必要としない「刺激伝導系の心筋細胞」には、このショルダー部分が無いか、あっても短いことも納得できるでしょう。
ちなみに、骨格筋は一回の活動電位によって起こる一本の筋細胞の収縮力は一定で変化しません。これを「単収縮」といいます。
骨格筋は、線維状の筋細胞が束になって出来ているので、個々の線維がバラバラに単収縮を起こし、その頻度を増減することで骨格筋全体としての収縮力を調節しています。そのために、骨格筋細胞それぞれに一本ずつの運動神経が接合していて、個々に活動電位を伝達します。
次、「4.特殊心筋の活動電位」を読む

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2011/4/24
心電図の第二弾 「心臓の収縮」
心臓は全身へ向けて血液を送り出すためのポンプです。
筋肉で出来た中空の袋状組織で、心房とそれに連なる心室が左右2対あります。
右心は、全身から戻ってきた静脈血を肺へ送り出し、二酸化炭素を排泄し酸素を取り込んで戻ってきた動脈血を、左心が全身に向けて強い力で送出します。
肺へ送り出す際は強い力が必要ないので、右心(室)は左心(室)ほど強い必要はありません。
さて、注射器や水鉄砲のような「ピストン式」のポンプであれば、ピストンを引くときに水を積極的に吸い込むことが可能ですが、心臓は心筋で出来ているため収縮することはできても能動的に拡張はできません。
(すべての筋肉は自分の力で延びることはできません)
静脈から戻ってくる血液の圧力はほとんどゼロなので、収縮し終わって内部の血液がほとんど空の状態になった心臓へ血液を押し込む仕組みが必要です。
それが「心房」の役割(補助ポンプ)で、心臓から血液を送り出すための、本来の「ポンプ」である心室は、心房から血液が押し込まれることで拡張し、内部に充分な量の血液を溜めることが可能になります。
当然、ほんの少し早く心房が収縮し、血液を心室に送り込んだ後で少し送れて心室が収縮わ始めないと補助ポンプとしての機能が果たせません。
このタイミングを作り出すのが刺激伝導系の役割で、こうした時間差は心電図波形にもきちんと反映されています。
大静脈と右心房の間には「弁」が無いので、心房が心室へ血液を送り込もうと収縮すると、静脈方向へも逆流してしまいます。
心拍数が少ないとき(安静時)には血液の逆流が起こりますが、心拍数が増えて静脈からどんどん血液が戻ってくる状態では、その血液に押されて逆流しにくくなり、その結果より多くの血液が心房から心室へ送り込まれます。
もちろん心室には入口と出口に逆流防止の弁が備わっているので、心室が収縮した分だけきっちりと血液が送出されます。
さて、その主ポンプの役割を担っている心室ですが、特に左心室は全身へ向けて血液を送り出さなければならないので、大変強い力が要求されます。当然左心室の筋肉は厚くてより多くの心筋細胞でできています。
ということは、心室の壁は何層もの心室筋が重なっていることになります。個々の筋肉がそれぞれ収縮することによって、袋状の左心室全体が縮んで内部の血液を送り出します。
そこでちょっと考えてみましょう。
何層にも重なった心筋細胞が、同時に収縮を開始するとどうなるか?
極端に、外側の筋肉が先に収縮し始めた場合を考えれば理解しやすいでしょう。
外側の心筋細胞は、血液と共に内側にある筋細胞も一緒に押さなければなりません。
内腔側の心筋細胞は楽チンですが、外側の細胞は余計な労力が必要です。
もしも、内側(心内腔寄り)の心筋細胞が、ほんの少し先に収縮を始めてくれれば、外側に位置する心筋細胞はその後押しをしてやればよくて、心臓全体がより効果的に血液を押し出すことができるできます。
もちろん、外側の筋肉の収縮が遅すぎては役に立ちません。
この微妙なタイミングを作り出すのが「刺激伝導系」で、この場合は特に「プルキンエ線維」の役割になります。
さらに、収縮が終わって弛緩するときにもすごいことがあります。
先に収縮したのだから、内側に位置する心筋細胞から順番に弛緩するのが当たり前のようですが、そうするとどうなるでしょう?
より外層に位置する心筋細胞はまだ収縮しているのに、内側が弛緩を始めるとややこしいことが起こりますね。
心臓では、遅れて収縮したはずの、より外層の心筋から弛緩していきまです。
極めて理に適ったことと云ってしまえばそれまでですが、生物の体の仕組みって本当に良くできていますね。
で、こうした心室壁の厚さ方向の時間差も、ちゃんと心電図に反映されています。
次、「3.心筋の活動電位」を読む

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2011/4/23
たいへん唐突ですが、訳あって「心電図」について書くことになりました。
「免疫」も続けるつもりですが、ちょっと中断をお許し下さい。
「心電図の意味することは?」
時々、心電図を心筋細胞の活動電位と混同しているひとが見受けられますが、心電図の波形ならびにその意味するところは、活動電位とはまったく別物です。
「活動電位」は、個々の心筋細胞の細胞膜内外の電位差変化を意味しますが、「心電図波形」は心臓全体の中を「興奮部位」すなわち「活動電位を出している細胞集団」の移動を反映するものです。
当然、心電図波形の発生には活動電位が大いに関与しているのですが、あくまでも「活動電位は個々の細胞で完結」するもので、心電図は「その集団の動き」です。
もちろん、心筋自体は移動することなく心臓の特定部位に固定されていますが、活動電位を発生している部分は心臓内を移動していきます。
例えて云うならば、野球の試合で見られる「ウェーブ」のようなものです。一人ひとりの観客が個々の心筋細胞に相当し、ウェーブのときに立ち上がり両手を挙げて声を出している状態が「活動電位」に当ります。個々の観客は同じ場所にいるのですが、ウェーブはどんどん移動していくように見えます。
仮にバッターボックスに眼を閉じて立っていると、ウエーブを起こしている人の集団が移動していく様子を聞き取ることができます。近づいてくるときにはだんだんと声が大きくなり、遠離って行くときは小さくなっていきます。
これとまったく同じように、心筋の活動電位によって起こる「ウェーブ現象」が心電図波形です。
途中で崩れてしまったり、再び別の場所からスタートしたり、そういう異常なリズムも聞き取ることができます。
そう、これがまさしく「心電図波形」そのものです。
興奮している、すなわち活動電位を出している細胞集団が、耳、すなわち心電図計測用の記録電極に近づいてくるときには心電図波形は上向きに振れ、遠ざかっていくときには下向きに振れるように設定しただけです。
但し、心臓は複雑な形をしている為、近づいて(上向きの振れ)遠ざかる(下向きの振れ)だけといった単純な形にはなりません。
また、電極を当てる場所によってもその変化の仕方が異なります。
心臓の興奮が始まる「右心房(洞房結節)」近くに電極を当てると、興奮部位は最初遠離っていくように聞こえるでしょうし、心尖部では近づいてきます。
真中あたりなら、初め近づいてすぐに遠離るでしょう。
さらに、心臓は二つの心房と二つの心室からできており、それぞれが袋状の構造を持つため、単純に近づいたり遠離ったり、というわけにはいきません(詳細略)。
このように、心電図波形を正しく読み取ることで、心臓の興奮がどこで始まり、どのように拡がっていくのかを予測することが可能になります。
次、「2.心臓の収縮」を読む

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2011/3/31
「抗体はBリンパ球で作られる」
「抗体」は蛋白質なので、細胞で合成され、血液中に放出されます。
「抗体」を産生する細胞は「Bリンパ球」と呼ばれる免疫系の細胞です。
「リンパ球」は基本的に血液中の細胞成分で、血液中を循環しているようです。
白血球などと共に免疫機能に関与しています。
(詳細は別項で書きます)
「抗体」は、それぞれがさまざまな形の(固定した)「手」を持っていて「免疫機構の目」の役割をしている、と書きました。
そして、その「手」のバリエーションは「手の部分を構成するブロックをランダムに組み替える」ことで、無限に近い種類を作り出す、とも書きました。
実は、1個のBリンパ球は、まったく同じ形の抗体ばかり産生し続けます。
要するに、
「No.1]のBリンパ球は「No.1]の、
「No.2]のBリンパ球は「No.2]の、
「No.3]のBリンパ球は「No.3]の抗体を、
せっせと作って血液中に放出します。
で、Bリンパ球自体は「骨髄」で作られています。
骨の中心部分の赤っぽいところに、「多能性幹細胞」というのがいて、どんどん細胞分裂をして「赤血球」や「白血球」そして「リンパ球」などになりながら増殖していきます。
「Bリンパ球」の元になる「Bリンパ芽球」がどんどん細胞分裂をすることで、「Bリンパ球」が産生されます。
ここです。
「Bリンパ芽球」が細胞分裂して増えていくときに、「抗体の手」の部分を決定する遺伝子が「ランダムに組み替えられ」ることで、さまざまな形の「抗体」を作り出すことが可能になるのです。
したがって、「どんどん増殖するBリンパ球」は、一個一個それぞれが異なる形の手を持つ抗体を産生するのです。
そして、ある1個のBリンパ球が作り出した抗体が、自分自身(人間のことです)「必要なもの」と結合する場合には、そのBリンパ球が殺されることで「自分自身と反応する抗体の産生」がストップします。
(この辺りも詳細は後日)
Bリンパ球の寿命は短くて数日以内だということです。
だから、Bリンパ球はどんどん細胞分裂によって産み出され、「必要なもの」と反応する抗体を産生することになってしまったものはすぐに殺され、生き延びたBリンパ球は「不要なもの」と結合する抗体をどんどん産生しつつ、数日以内に寿命が来て死んでしまう、といったストーリーのようです。
ここで、ちょっと先走りになってしまいますが、いわゆる「狭義の免疫」が起こった場合のことに少しだけ触れておきます。
自分(Bリンパ球のこと)が作っている「抗体」が、体内で「異物」を発見した場合にどういうことが起こるのか?
免疫細胞同士のいろいろと複雑で面倒くさい手続きが必要なんですが、それは略して、自分(Bリンパ球のこと)が作っている「抗体」が「異物」を発見すると、そのBリンパ球は俄然張り切って多量の(同じ)抗体を作ろうとします。
ところが独り(1個?)では大して作れないし、寿命も短いということで、ちょっと偉い免疫細胞の許可を貰ってそのBリンパ球が「変身」します。
「形質細胞化」と呼ばれるのですが、自分のクローンを作ることが許されるのです。
Bリンパ球が骨髄で分裂・増殖するときは、遺伝子のランダムな組み換えによって「異なる形の抗体を作るBリンパ球」が増えるのですが、今回は「まったく同じままで分裂・増殖」します。当然、増殖したBリンパ球は、すべてが同じ抗体を産生するので、一気に大量の「同じ抗体」が血液中に放出され、侵入したウイルスや細菌などをやっつけに行くことができるようになります。
(「抗体」がどのようにして「侵入した異物」を退治するか、この詳細も後日)
特定のBリンパ球が「形質細胞化」して、「クローン性に増殖」し、大量の抗体を血液中に送り出すまでに2−3日かかるので、風邪やインフルエンザに感染してから治るまでに数日かかってしまうのです。
さて、なんやかやして異物の退治が終わったところで、「形質細胞化したBリンパ球」はどうなるか?
体内に「ある異物」が侵入したということは、自分(人間)の周囲には「その異物」が存在するということを意味しており、いつ何時再び侵入してくるか判りません。
そこで、そのBリンパ球は「次回の、その異物侵入」に備えて待機しておきます。
とりあえず体内に侵入した異物は退治したので、それ程大量の「その抗体」を作り続ける必要はありませんが、すぐそばにその異物がいて、いつ侵入するか判らないので、その時「すぐに大量の、その抗体を産生できる」ように待機するのです。
で、二回目以降、同じ細菌やウイルスが侵入しても、「抗体」が見付け次第、待機している「形質細胞化したBリンパ球」に連絡がいき、あっという間に「その異物と結合する抗体」が大量に産生されて、細菌やウイルスが増殖する前に退治してしまうので「感染」しなくなります。
これが「狭義の免疫」であり、「獲得免疫」の基本ということです。
今回は省略しましたが、以上の話の中にはもっと多くの「免疫関連細胞同士の情報交換」が絡んでいて、とても複雑です。
さまざまな「免疫機構」を説明しながら、次第にその辺りも切り込んでいこうと考えています。

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2011/3/30
「脳ミソを持たない抗体はどうやって要・不要を判断するか」
前回、免疫機構は、抗体の抗原認識部位のパーツを多数揃えておき、ランダムに組み合わせてほぼ無限の形の手を準備しておくことで、世の中に存在する抗原の形を認識できる、と書きました。
今、目の前にある抗原がどんな形であるかを認識できるようになりました。
でも、「形を認識」するだけでは困ります。
次に、その形のものは自分にとって必要なのか不要なのかを「判断」しなければなりません。
脳ミソを持たない「蛋白分子の抗体」に、そんな「判断」ができるのでしょうか?
さあ、何か良いアイデアはありますか?
考えてみましょう。
この「判断」は、「必要」か「不要」かの二者択一です。
世の中に存在する、ほぼ無限の形の抗原と結合するだけの種類の抗体を作り出したのです。
当然、「必要なもの」に結合する抗体もあれば、「不要なもの」と結合する抗体もあります。
じゃあ、事前に「必要なものと結合する抗体」だけ取り除いておけばどうでしょう。
残った抗体が結合する抗原は、すべて「不要なもの」ということになります。
抗体が結合しないものは自分が「必要」としているものです。
実に簡単「コロンブスの卵」
凄いですねー!
免疫機構は、おそらくあなた自身よりも賢いのではないでしょうか?
どうやって、「必要なものと結合する抗体」を取り除くかについては後述します。
このようにして「抗体」は、自分の周りに存在する、あるいは侵入してきた物がどんな形をしているかを認識し、自分にとって「必要」か「不要」かを判断する「目」の役割を果すことができるようになりました。
次回は、「抗体」がどうやって作られるかを簡単に説明します。
次、6.抗体(その4)「抗体はBリンパ球で作られる」を読む

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