2009/1/30
引越という人生 新作吟味
人は生れ人は変はりてまた人は移り住みたり終ひの日までを
幾度目の引越なりや若き日の急かるるやうな烈しさはなく
生れし日より十三度目の引越と数え挙げつつ古里想ふ
引越が人生のごと思ゆると振り返りなば君と四度目
君が代を三種類ほど聴き比べ来たる日のため洟をかみをり
君が代やてふてふは舞ふしどけなく桜の花の栄ゆる御代に
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幾度目の引越なりや若き日の急かるるやうな烈しさはなく
生れし日より十三度目の引越と数え挙げつつ古里想ふ
引越が人生のごと思ゆると振り返りなば君と四度目
君が代を三種類ほど聴き比べ来たる日のため洟をかみをり
君が代やてふてふは舞ふしどけなく桜の花の栄ゆる御代に

2009/1/25
冬の雨 新作吟味
きやうだいの仲睦まじき宴なり母を送りし夜の居酒屋
君だけを頼りに生きて君だけを頼りに逝きし義母の晩年
日課の如く失せ物探すわたくしの脳のどこかが壊れゆく日日
改札で降りゆく人とすれちがふまにあわなんだと諦めるとき
逃したはパン屋のレジのミスなれど次の電車を待つ時うれし
乗り遅れひよいと生まれた十五分短歌のひとつも作つてみやう
駅までの君を見送る暗き道しんみり泣かす冬の雨かな
じじじじと足ばたつかせ泣く君の打算のごときしぐさもいとし
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君だけを頼りに生きて君だけを頼りに逝きし義母の晩年
日課の如く失せ物探すわたくしの脳のどこかが壊れゆく日日
改札で降りゆく人とすれちがふまにあわなんだと諦めるとき
逃したはパン屋のレジのミスなれど次の電車を待つ時うれし
乗り遅れひよいと生まれた十五分短歌のひとつも作つてみやう
駅までの君を見送る暗き道しんみり泣かす冬の雨かな
じじじじと足ばたつかせ泣く君の打算のごときしぐさもいとし

2009/1/19
千代子抄 新作吟味
満ならば八十七で数えなら八十九なり米寿ではない
百年になんなんとする人生の楽しきことはいくばくありや
葬儀にて君の介添え務めたり此の役割は二度目となりぬ
泣きながら電話してくる病院で何が起きつつあるのだらうか
いつになき泣き声が呼ぶ電話ゆゑまづ落ち着けとラーメン啜る
携帯に飛び来る君の泣き声の震への示す次の段階
大震災大恐慌に大空襲大きな歴史をあなたは生きぬ
手術後の痛みは辛き試練にて試練を超える甲斐に達せず
義母にして帰るところはあるまじやこの寓居のみ待ちてをりにし
「よしこちやん」だけが頼りの義母であり最期の時まで頼りきりたり
老人には過酷なりけるリハビリをただ帰る日を願ひつづけり
リハビリは辛き余生か余生のためか幸福な日を味わひたくて
これからの介護の日日が続くこと君はじつくり待ち構えしを
突然に義母は逝きたり介護する日日を待つ君に肩透かすごと
あつけなく訪れし此の別れの日しよぼしよぼと降る雨の冷たき
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百年になんなんとする人生の楽しきことはいくばくありや
葬儀にて君の介添え務めたり此の役割は二度目となりぬ
泣きながら電話してくる病院で何が起きつつあるのだらうか
いつになき泣き声が呼ぶ電話ゆゑまづ落ち着けとラーメン啜る
携帯に飛び来る君の泣き声の震への示す次の段階
大震災大恐慌に大空襲大きな歴史をあなたは生きぬ
手術後の痛みは辛き試練にて試練を超える甲斐に達せず
義母にして帰るところはあるまじやこの寓居のみ待ちてをりにし
「よしこちやん」だけが頼りの義母であり最期の時まで頼りきりたり
老人には過酷なりけるリハビリをただ帰る日を願ひつづけり
リハビリは辛き余生か余生のためか幸福な日を味わひたくて
これからの介護の日日が続くこと君はじつくり待ち構えしを
突然に義母は逝きたり介護する日日を待つ君に肩透かすごと
あつけなく訪れし此の別れの日しよぼしよぼと降る雨の冷たき

2009/1/14
切り忘れた爪 塔
約束を破つた君の大罪を咎むるように今日はどしやぶり
此の雨の中ではかなり寒からう警察車両がUターンしゆく
爪を切り忘れたことに気がつきぬパキスタンへの飛行機の中
諍ひの国の旅亭の窓際に小鳥の数羽争うてをり
猜疑の眼冷たく光る警備兵の銃の指すままわれら従ふ
所在なげに首のあたりを掻きてゐる麻薬探知犬は暇さうであり
戦争は避けるべしとふ良識を旅の終はりに良識となす
飛行機と車の好きなヤツのため買つてしまつた空港土産
不幸なる人のあるゆゑ幸福である幸福の罪深きこと
刺すやうな寒気が肌に心地よしふるさとの山しんと恋しき
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此の雨の中ではかなり寒からう警察車両がUターンしゆく
爪を切り忘れたことに気がつきぬパキスタンへの飛行機の中
諍ひの国の旅亭の窓際に小鳥の数羽争うてをり
猜疑の眼冷たく光る警備兵の銃の指すままわれら従ふ
所在なげに首のあたりを掻きてゐる麻薬探知犬は暇さうであり
戦争は避けるべしとふ良識を旅の終はりに良識となす
飛行機と車の好きなヤツのため買つてしまつた空港土産
不幸なる人のあるゆゑ幸福である幸福の罪深きこと
刺すやうな寒気が肌に心地よしふるさとの山しんと恋しき

2009/1/13
自棄になりつつ 新作吟味
此の雨の中ではかなり寒かろう警察車両の行方眺めつ
着メロに愛人なんか入れてみる叶わぬ恋に自棄になりつつ
君想ふ心の痛みか胃の奥に小さなこぶしのぢつと佇む
君のため土産となしたネックレス鞄の隅にぎゆつと押し込め
この街で舌にあらずはいかやうに喰われたりしや牛タンの街仙台
刺すやうな寒気が肌に心地よしふるさとの山しんと恋しき
幸運であることの罪深かりし運悪き人の運を踏みつけ
不幸なる人のあるゆゑ幸福である幸福の罪の深きよ
ヒコーキとエル・コーチェ(自動車)の好きなヤツのため買つてしまつたさういうセット
正確に馴れた手つきで黙黙とスチュワーデスの説明ショー
使い古された道具を入れ替えつスチュワーデスのショーが進みぬ
空腹を快感と思ふやうになり減量マニアの仲間入りをす
物喰えばついいちばんに手を出せりそういう性を如何にせむやら
賢治とふ人生のあり故郷にて学び働き早く死にたり
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着メロに愛人なんか入れてみる叶わぬ恋に自棄になりつつ
君想ふ心の痛みか胃の奥に小さなこぶしのぢつと佇む
君のため土産となしたネックレス鞄の隅にぎゆつと押し込め
この街で舌にあらずはいかやうに喰われたりしや牛タンの街仙台
刺すやうな寒気が肌に心地よしふるさとの山しんと恋しき
幸運であることの罪深かりし運悪き人の運を踏みつけ
不幸なる人のあるゆゑ幸福である幸福の罪の深きよ
ヒコーキとエル・コーチェ(自動車)の好きなヤツのため買つてしまつたさういうセット
正確に馴れた手つきで黙黙とスチュワーデスの説明ショー
使い古された道具を入れ替えつスチュワーデスのショーが進みぬ
空腹を快感と思ふやうになり減量マニアの仲間入りをす
物喰えばついいちばんに手を出せりそういう性を如何にせむやら
賢治とふ人生のあり故郷にて学び働き早く死にたり

2009/1/13
イスラマバード 新作吟味
爪を切り忘れたことに気がつきぬパキスタンへの飛行機の中
まだ暗き空気を裂いてアザーンの声イスラマバードの夜が明けていく
アザーンを唱ふる声がひびくゆゑイスラマバードは寝坊できない
諍いの国の旅亭の窓際で小鳥が数羽争うてをり
最悪の危険地帯より来し人と子どもの夢を語り合ひし日
学びとは夢の踏み石その石を如何に置かうかこの紛争の地に
テロリストは特別な人であることを此の地の人がとくと語れり
午前零時日本時間で午前四時この機内食のなんと重たき
猜疑の眼と銃を持つ人近寄りてトランクあけろと顎で命ぜり
猜疑の眼冷たく光る警備兵の銃の指すままわれら従ふ
わたくしの今日一日のお仕事が飛行機に乗るそれだけらしい
一日を飛行機の中で暮らしをり食べて眠つてまた食べて寝る
ダマネコの丘より眺むる街並みの何処に邪悪な意思のありしか
臨戦の街にはあれどダマネコの展望台には人のあふれる
巨大なるモスクに降りし俄雨わが足もまた洗われにけり
銃をもて威嚇さるるとふ経験を持たずに済める者の責務は
関空の海の向かうに緑色の異空間見ゆあっ観覧車
所在なげに首のあたりを掻きてゐる麻薬探知犬は暇さうであり
戦争は避けるべしとふ良識を旅のおはりに良識となす
戦争とテロの危機に晒されしこの街に人は幸福に住み
他人には言ふほどのことはないけれど胃の奥あたり違和感覚ゆ
半数の子が学校に来ぬといふさういう土地に何をなさむや
諍いに子どもらの知と未来とが削がれてゐるをただ眺めをり
わたくしに何ができるか政情の安からざりし此の国に来て
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まだ暗き空気を裂いてアザーンの声イスラマバードの夜が明けていく
アザーンを唱ふる声がひびくゆゑイスラマバードは寝坊できない
諍いの国の旅亭の窓際で小鳥が数羽争うてをり
最悪の危険地帯より来し人と子どもの夢を語り合ひし日
学びとは夢の踏み石その石を如何に置かうかこの紛争の地に
テロリストは特別な人であることを此の地の人がとくと語れり
午前零時日本時間で午前四時この機内食のなんと重たき
猜疑の眼と銃を持つ人近寄りてトランクあけろと顎で命ぜり
猜疑の眼冷たく光る警備兵の銃の指すままわれら従ふ
わたくしの今日一日のお仕事が飛行機に乗るそれだけらしい
一日を飛行機の中で暮らしをり食べて眠つてまた食べて寝る
ダマネコの丘より眺むる街並みの何処に邪悪な意思のありしか
臨戦の街にはあれどダマネコの展望台には人のあふれる
巨大なるモスクに降りし俄雨わが足もまた洗われにけり
銃をもて威嚇さるるとふ経験を持たずに済める者の責務は
関空の海の向かうに緑色の異空間見ゆあっ観覧車
所在なげに首のあたりを掻きてゐる麻薬探知犬は暇さうであり
戦争は避けるべしとふ良識を旅のおはりに良識となす
戦争とテロの危機に晒されしこの街に人は幸福に住み
他人には言ふほどのことはないけれど胃の奥あたり違和感覚ゆ
半数の子が学校に来ぬといふさういう土地に何をなさむや
諍いに子どもらの知と未来とが削がれてゐるをただ眺めをり
わたくしに何ができるか政情の安からざりし此の国に来て
