母が死んだ。一昨年の暮れ、脳梗塞で倒れ、去年一時はリハビリでかなり回復したが、ついに言葉は戻らなかったし、リハビリ病院の後で入所した老人保健施設で症候性てんかんを発症し、医者の処置が良くなかったこともあって、しだいに体力が衰えた。昨年の暮れに肺炎になって再び入院した。今年になって、血液を体の中に作る機能がなくなり、輸血や点滴がずっと続いた。数週間前からは、いよいよ点滴もできなくなった。痛い、苦しいで死んだのではないのが救いだったかもしれない。
遺体を家に運んで、葬儀の準備を始めた。会場の都合から、一週間くらい間が空いたので、その間銀行口座の閉鎖や、保険会社への連絡、不動産の登記の書き換えなどの作業を始めた。そうだ、年金の支給を停止してもらわなければならない。社会保険事務所に電話したが、ぜんぜん通じない。ずっと話中。
二度手間になるのを覚悟で、年金証書らしきものを持って社会保険事務所へ行った。人でごった返しているのかと思いきや、案外すいている。
事情を話し、証書を見せると、係りの人はコンピューターの画面に向かって、猛然とキーボードをたたき始めた。はて、支給を止めてもらうだけなのに、ずいぶん時間がかかるな、と思っていたら、
「お母様は、なくなったご主人と一緒の会社にいたことがありますか」と聞かれる。
「あったかもしれません。でも短期間でしょ」
父は会社を二回設立した。最初の会社は10年くらいで倒産した。それから別の会社を作ったが、それはほとんど個人事務所みたいなものだった。いずれの場合も設立時に母が手伝っていた。しかし、給料をもらっていたのかどうかは知らなかった。
「お母様は、国民年金だけを受給されていて、お父様がなくなってからは遺族年金を受給されていたんですが、厚生年金19か月分が抜け落ちていたようです。年金特別便は受け取られていませんでしたか」
「いや、一昨年から脳梗塞で話したり、読んだりできなくなっていましたので」
「そうですか。特別便に同封されているハガキと住民票をお持ちになれば、ご遺族の方に
お払いします。住民票は年金のためと言って下されば、手数料はかかりません」
ただし、記録の統合はかなり時間がかかるらしく、支払われるのは半年から1年先のことらしい。このお金、得したというべきなのか、係りの人にすれば、中に浮いた年金記録を2件片付けたことになる。だから丁寧な対応なのか・・・。

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