千葉県銚子市の市立総合病院は、経営難と医師不足から9月で診療を休止した。「休止は市長の公約違反だ」として、岡野俊昭市長のリコール(解職請求)を求めていた市民らが21日、「請求に必要な有権者の3分の1(1日現在2万229人)を上回る2万5639人の署名が集まった」と発表した。(朝日新聞)
今後、市選管の審査などを経て、有効署名の人数が確定されることになるが、市民団体は3分の1を上回るのは確実とみている。 有効署名が有権者の3分の1を上回れば市民団体は解職の本請求をして、解職の是非を問う住民投票が実施される。住民投票で有効投票の過半数が賛成すれば市長は失職し、50日以内に市長選挙が行われる。
現在、休止した病院内では民間の精神科診療所が開設され、夜間は市医師会が小児急病診療所を設けている。しかし、病院の診療休止の反発は市長の予想以上に強かったことが、今回のリコール請求で証明された。
現在市は公設民営の病院再建を目指し、診療科目、病床数などの方向性について有識者6人による検討委員会で検討し、その報告を受けてから受け皿となる医療機関を公募する予定だ。
岡野市長はリコール運動に対し「反対運動ばかりでは将来にプラスにならない。早期再開にむけ、市民の協力が必要だ」と話すが、「病院改革」を進める間はそれまでの形で病院を存続させる手があったのではないかという疑問が残る。
休止の一因となったのは医師不足である。新人医師が基本的に自由に研修先を選べるようになった「新医師臨床研修制度」で、地方で医師不足が進行するようになった。銚子市立総合病院も平成16年4月の制度導入時に35人いた常勤医が19年4月に22人、今年4月に13人と激減した。
その背景には、前市長による市立病院の病院長の給与削減などにより、市立病院が医師の派遣元である日大から、優先的に医師を配置するAランクの病院ではなく、大学側の都合でいつでも医師を引揚げられるBランクの病院に格下げをされたしまったことがあった。
これが、市立病院の医師不足の大きな引き金となった。そのため、市立病院は経営の危機を迎えることになる。しかし、「市立病院は守り充実させる」という選挙公約を掲げた岡野現市長が2006年の市長選挙に出馬し、市民は岡野氏のこの公約に期待をかけて彼を市長に当選させた。
ところが、今年の7月4日に岡野市長は県や病院の関係者にはいっさい相談せず、財政危機を理由に突然の病院の休止を決めてしまった。市民の中にはこれが性急だと思われたようだ。
市長は、病院をこのまま放置すると夕張市のように財政破綻を招くというが、昨年度の銚子市の決算は50億円の黒字であった。病院存続を求める市民署名が一ヶ月間で約5万筆も市長に提出された。しかし市長は病院休止を強行し、「2年間努力した。市のバランスを考えて病院休止は『苦渋の選択』」であると述べた。
市長は、多くの医師が市立病院に残ることを望む中で、「病院に残る医師は一人もいない 」という誤った情報と判断をもとに、銚子市立総合病院の全面休止を決定した、と市民団体側は主張する。
経営を引き継ぐ受け皿や再開の見通しがないまま、計画性を欠いた病院休止を短期間に強行した結果、医療と雇用の空白を作り、甚大な経済的損失・雇用喪失・医療難民を 発生させた、と市民団体は言う。また8月21日の議会採決前夜、市職員2人を同行させて、病院休止に反対する市議2 人の自宅を訪れ、そのうちの1人にスライスした豚肉1キロを渡し、休止条例案に賛成するよう説得した、とも言う。
市立病院の存続を求める5万名にも及ぶ署名に対し、岡野市長は「署名活動・誹諦中傷・物を投げることで何か進歩したことがあったでしょうか」と述べて、市民の声に耳を傾けようとしなかった。
「市の財政は危機的で、このままでは夕張になる。」「このまま病院に予算をタレ 流していては市がつぶれてしまう。」と言いながら、厳しい財政状況を招いた責任をすべて前市長に転嫁するだけで、新規職員の大量採用や大規模事業は続けていることが不信感を募らせた。それが財政健全化の努力を怠っているように見えて、リコール運動が盛り上がった原因となった。
一方で、市長が掲げた「公設民営」による早期再開を支持する市議らもいて、ある市議は、「民間病院などへの患者受け入れは順調。医療難民があふれたといった声は聞かない」とする。
しかし、各地の自治体病院で経営形態を問い直す動きもあり、公立病院は「改革」が迫られているとはいえ、市長の病院休業の決定が性急すぎたことには問題があったのは確かなようだ。
同じ公立病院ながら銚子市の隣の旭市が運営する「国保旭中央病院」は開設以来55年間も黒字で、病床利用率が銚子よりも高く、銚子が276床の68%に対し、旭は956床の95%で、経営状況を示す医業収益比率も旭が上回っている。研修医も、銚子は日大医学部のみに依存してきたが、旭は、一つの大学病院ではなく、早期から広く受け入れており、現在も常勤医約250人を確保している。(産経新聞)
その黒字の旭中央病院も、市長が設けた検討委が「公設民営が望ましい」と結論づけ、経営形態の見直しを迫られているのは確かではあるが、改革の手順をどのように進めるかも市長の手腕であることは確かだろう。

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