28日の日経新聞の社説は、「日本の『結婚』は今のままでいいのか」というものだった。
この社説の最後のあたりで、日本商工会議所の少子化問題に対する提言の中から、「伝統的な法律婚以外に事実婚や婚外子が受け入れられる社会のあり方について検討すべきだ」という部分を引用している。
調べてみると、この日本商工会議所の提言というのは最近の話ではなく、2006年のまだ小泉内閣のころの話らしい。こんな提言があったとは知らなかった。つまり、あまりニュースにならなかったということだろう。
日経の社説は、最後に「日本の結婚のあり方が少子化の一因となり出生率上昇の妨げになっているとすれば、障害を取り除く必要がある。それは、婚外子の相続差別をなくさなければ始まらない」と書いて結んでいる。つまり、日経新聞も日本商工会議所も、婚外子の相続差別に反対し、民法を改正したほうがいいという立場らしい。
いうまでもなく、民法には非嫡出子(婚外子)の相続分は嫡出子の2分の1だとなっている。
社説によると、フランスでは昨年生まれた赤ちゃんの53%は婚外子で、2007年の統計を見ても、スウェーデン55%、アメリカ40%、ドイツ30%で、これに対して2%という日本は極端に低い。
そして、「法務省によると、相続で婚外子が法的に差別されているのは日本とフィリピンぐらい」だそうである。
1996年に法制審議会は、民法の規定が憲法14条に違反するのではという批判があることから、相続における婚外子差別は撤廃するよう答申を出した。しかし、最高裁は95年にこの民法の規定は合憲であるという判決を出している。
ただし、この最高裁判決においても、大法廷の15人の裁判官のうち5人が「違憲」と判断している。「婚内子と婚外子で異なっていた戸籍や住民票への記載方法は改められ、記述上の区別はなくなった。婚外子の相続差別には、国連の規約人権委員会、子どもの権利委員会も撤廃を求める勧告を出している」のだそうである。
社説は、そもそも民法の非嫡出子という言い方自体が差別的な言葉であり、婚外子が社会的に差別される原因になっているので、まず民法を改正しなければならないと強く主張している。
婚外子の相続差別撤廃問題はあまりニュースにならず、同じときに法制審議会が答申したなかでニュースになったのは、選択的夫婦別姓制度の導入の方であった。こちらの方は、夫婦で別姓を名乗ると家族のきずなが弱まるという自民党内保守派の意見がクローズアップされて、やはり実現は挫折した。
山谷えり子センセイとか、西川京子センセイなどは、婚外子相続差別撤廃の日経の主張をどう評価されるでしょうか、興味はあります。
どうも相続差別問題にしても、選択的夫婦別姓制度にしても、それを積極的に推し進めようと政治運動をするには、世論の支持が盛り上がらない問題だという感じである。選択的夫婦別姓制度を推し進めようという人たちは、どちらかというと高所得のキャリアウーマン的な人が目立つからかもしれない。
日経新聞の婚外子差別撤廃の主張も、もうひとつ世間に共感を呼び起こさない感じである。この社説自身も、「06年の内閣府の世論調査では、58%が婚外子を法律上不利に扱うことに反対しながら、民法の相続規定に対しては41%が『変えない方がよい』と答え、『相続額を同じにすべきだ』の25%を上回った」として、「これも日本人の家族観、結婚観の表れである」と急に弱気になっている。
日経新聞をあげて、婚外子差別撤廃キャンペーンをしようというほどには、盛り上がらない話題だと思っているのだろうか?
確かに、今深刻なのは離婚した母子家庭の貧困問題であり、子どもの貧困問題の大きな部分は母子家庭の問題であろう。その差し迫った問題に比べれば、別姓とか婚外子差別は一部の「豊かな階層」の、迂遠なお話に思えてくる感じは避けられない。
日経新聞といえば、渡辺淳一センセイの不倫小説の連載で秘かに部数を伸ばしました。日経新聞や日本商工会議所が婚外子差別に熱心に見えるのは、ひょっとしたら、「不倫のすすめ」という下心があるのかもしれない、などと茶々をいれるつもりはありませんが・・・。

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