「ニュースの深層」という番組で、「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」(朝日出版)の著者・加藤陽子東大教授が、キャスターの葉千栄さん(東海大学教授)と重信メイさんのインタビューを受けていた。
お二人の突っ込みがかなり鋭いので、加藤教授は、もちろん歴史上の事実に即してではあるが、かなりご自分の信条に踏み込んで話をされたのが興味深い。実証と史料分析に話を限定して、私観を挟まないはずの歴史学者が、思わず漏らしたホンネとして聞いておくことにしましょう。
1931年は満州事変が起こった年だが、同時にイギリスが金本位制を離脱すると宣言し、世界の経済を支える立場を降りると宣言した年でもある。これが、第1次世界大戦後のベルサイユ会議で築かれた体制が崩れる予兆であった。
1932年2月の総選挙で政友会が300議席を超えて大勝したが、民意で選ばれた犬養首相は5.15事件で暗殺される。それを加藤教授は、昨年8月の民主党が300議席を超えて大勝した選挙となぞらえて言う。
当時は軍が国民の票で選ばれた政府を転覆したが、今度は国民が手の及ばない所にある検察が、小沢一郎さんに手を伸ばして、もしも民主党政権がそのことで倒れるようなことがあれば、そのときの民衆の意識はどうなるかを懸念する。
もちろん、ホントに検察が小沢さんを追い詰めているのかどうかは、いまだ不明確な所がある。
まあ仮に小沢さんにもしものことがあったとしても、すぐに民主党政権が倒れるとは限らない。まだ4年間は民主党は少なくとも衆議院で多数を確保できるわけである。
ついでながら、犬養内閣のあとの斎藤実首相の挙国一致内閣では、積極財政派の高橋是清が蔵相になり、当時の民意はこれを好意的に受け止めた。高橋是清は、ケインズを読んでいないにも関わらず、ケインズ経済学そのものの積極財政で、経済を立て直すことに成功する。
はあ、そうすると菅直人さんは高橋是清にならねばならぬということなのでしょうか?まあ、高橋さんのように暗殺されちゃ、困りますが。
あと、加藤教授はこの本の中で、日中戦争において、駐米大使の胡適が「アメリカとソビエトをこの問題に巻き込むには、中国が日本との戦争をまずは正面から引き受けて、2,3年間、負け続けることだ」と語ったことを取り上げ、日本が結局は国際的・外交的に中国に追い込まれていくエピソードとして語っている。
これに対して葉千栄さんは、「しかし、中国からみれば、それは蒋介石の軍隊の失敗の言い訳にすぎないんじゃないですか。まるで、意図的にわざと日本軍に敗北したように胡適は言いました。でも、蒋介石は日本軍の侵攻を止めるために黄河をわざと決壊させる作戦に出ましたが、結局日本軍の侵攻は止められず、かえって多数の中国人を殺してしまったりしたでしょ」と切り返しました。
加藤さんは「なぜ蒋介石の中国は、それだけの犠牲を国民に負わせながら、国民・民衆の支持を失わなかったのかが不思議です。日本人は太平洋戦争でそんな犠牲には耐えられなかった」と問い返す。
葉さんは「それは、どこの国でも同じでしょう。大きな『敵』を作り出せば、国民はそれがどんなひどい政府でも、政府を支持するものです」と答えた。それは中東で、今も見られることですね、と重信メイさんも同調していた。
では、なぜ日本人は国力で大きく劣るアメリカに無謀にも戦争を挑んだのか。その問いに答えるには、第一次世界大戦にさかのぼらないと加藤さんは言う。
第一次世界大戦で、日本は戦勝国の中に入った。しかし、昭和天皇の独白録によれば、1919年のベルサイユ講和会議のときから、日本はアメリカとぎくしゃくし始める。そればかりか、中国との間も山東問題が起きる。日本は勝ったはずなのに、「なぜだ?」ということが次々に起こる。
これはまさに今、日本はアメリカと中国のG2体制のなかで置き去りにされるという恐怖心を煽るメディアの論調の、始まりであると加藤さんは指摘します。この時に、日本国内では北一輝や大川周明などの「国家改造」の思想が生まれ、学生や官僚の中にも同調者が次第に生まれることに注目すべきだという。
対米戦争が始まるまえ、当時国民学校に配られた内閣情報室が作った副読本の中に、「石油の産出量で日本はアメリカの何分の一でしょう?」というクイズが載せられていて、答えは700分の1と書かれてあった。
つまり、物量や経済力でアメリカと大きな差がありながら戦争に突っ込むことは、政府も軍も国民もみんなしっていたわけである。いや、ロシアと日本の経済力の差はもっとあったんだ、という話はある種、高揚感が沸き起こるのかもしれない。
無謀であることなど百も承知、それでも人々は戦争へと突っ込んでいく。その心理と社会のメカニズムは、今でも、どの国でも起こり得るお話なんでしょう。
まあ、加藤さんのこの本を読むと、歴史と言うものは「なぜ」の問いかけが大切だといういうことが分かる。その問いを考えるために、過去の事実を探るのである。普通の歴史教科書は、その問いがないままに、事実の流れだけを叙述する。だから、面白くないのである。

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