中国に対する懸念は、軍事費の増加でもなく、環境問題でもない。少子高齢化である。そういえば、何をバカなことを言っているのかということになるのだが、そうではない。
確かに中国の経済成長は目覚ましい。しかし、間違いなく子どもの数は減り、逆に高齢者は増え続ける。いまだ15歳から60歳までの生産人口は大きいから問題は顕在化していない。だがやがて、中国のベビーブーマーが大量に退職し始める。
上海だけの合計特殊出生率をみると、なんと0.7~8に落ちているらしい。日本以上の少子化である。もちろん、大都市に若い人を送り込んでいる農村の省があるから、その深刻さが目立たないだけ。
経済が成長し、豊かな生活が可能になれば、子どもにはもっと豊かな生活をさせようとして、子どもにきできれば高等教育を受けさせようと、教育費が高騰する。そうすれば、親は子どもの数を少なくし、教育費への投資を増やそうとする。
あるいはケッコンしても子どもは持たない、持てば確実に自分たちの生活レベルを苦しくすることを知っているからである。
人口における65歳以上の人口割合が7%以上の社会を高齢化社会、14%を超えると高齢社会と言うそうだが、高齢化社会から高齢社会に行きつくまでに何年かかったかを計算すると、フランスは110年、ドイツ40数年に対して日本は30年を切っていた。
ところがさらに驚くべきことは、これが韓国になると17~8年になり、中国などは推計では10年ほどになるらしい。
シンガポールなどはもとより、タイのようにいまだ貧しい農村を国内に抱えるアジアの新興工業国も、実はそろそろ少子化の波がひたひたと忍び寄りつつあるのだという。
ヨーロッパの国々や、オーストラリア、ニュージーランドなどの国々は、50年、100年かけて経済成長した。したがって、産業社会の進展に伴うコミュニティーの崩壊を補う社会保障を徐々に発展させ、社会の変容に対応する人々の心の準備というか適応の時間が、比較的確保された。
少子高齢化による労働力人口の減少、少子化に対する対応としては、移民の受け入れ、ジェンダー平等化の推進やワークライフ・バランスの重視、あるいは婚外子差別の撤廃などを総合的に進めなければならないが、いずれもあまりに急激に進めると、生活スタイルや倫理観、文化的な反発を招き、「反動化」が生じやすい。
日本のように短期間で「高度経済成長」した国は、このような対応をしようにもいずれも一歩間違えるとたちまち社会の不安定化を招く。つまり「反動化」しやすい。
日本における移民政策や民法改正が遅々として進まない現状をみればそれは明らかである。しかもメディアが、議論の本質というか、なぜそのような政策なのかという点をを避けようとする傾向を促進している。
私は、日本型の「高度経済成長」モデルは急速な少子高齢化によって袋小路に陥ると見ていたが、困ったことに韓国、シンガポール、中国などが日本型モデルを採用して、しかも日本よりもさらに短い時間で同じ失敗を繰り返しつつあるようだ。
昔、「病める日本を見つめて」という本を書いたルーベン・アビト神父という人がいたけれど、困ったことに日本の「病」が急速にアジアの「高度成長国」に広まりつつあることが、人口構造から読みとれる。

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