池澤夏樹さんの「カデナ」という小説は、1968年から69年にかけて、沖縄の嘉手納基地をめぐり、ロックバンドのドラマーのタカと、その姉の大学生、ベトナム反戦運動に参加している大学教授と学生たち、嘉手納基地に勤務しているアメリカ人の父とフィリピン人の母の間に生まれた女性曹長のフリーダと、その恋人であるB52戦略爆撃機のパイロット、日米戦争中サイパンで家族を全て失った嘉手納在住の男の朝栄とその妻、ベトナム人の貿易商の安南さんが織りなす物語である。
アメリカ軍の北爆が激しさを増すなか、アメリカ人女性曹長、ドラマーの青年、ベトナム人、サイパン戦の生き残りの男たちが、B52の出撃情報をベトナム側に伝える「スパイ」となって活動する。
さらにドラマーの青年とその姉は、軍隊を脱走したアメリカ軍兵士を本土に送りだし、さらにベトナム反戦運動団体の手引きで、ソビエトを通過してスウェーデンに脱走させる計画にも関係する。
16日に「市民の意見30の会・東京」が主催した講演会で、池澤さんは、自身が10年くらい沖縄に住んだけれど、沖縄に関する小説はなかなか書ける気がしなかったが、ベトナム戦争は間違えだったと悟ったマクナマラ元国防長官がベトナムを訪問し、当時の敵の軍人たちと検証作業を行ったなかで、ベトナム側から、北爆のとき、実はアメリカ軍の出撃情報の幾分かがあらかじめ入手できていた、と述べていたと証言したことから触発されて「カデナ」が書けそうな気がした、と語っていた。
女性曹長のフリーダの母は、フィリピン人としては恵まれた社会的地位にいるが、自分を捨てた夫への想いから、密かに反米の気持ちを高めていた。フリーダは、国家を裏切ることへのためらいはありながらも、幼少期に体験した日本軍のマニラ大虐殺の記憶から、アメリカ軍の北爆の効力を削ぐことに貢献をしようとする。
軍の機密情報を外部に持ち出す作業は、4人のそれぞれに違う想いを持つ人間の連携で実行される。誰からの、どんな組織からの指令もなく、それぞれの想いに従い、自分ができることをやって、そのそれぞれの行為をつないでいく。
共通の想いは、戦争に加担する勢力への密かな抵抗である。
大学教授の知花先生は、こんなことを言う。「一致団結して頑張ろうとは私は言わない。それでは日本軍と同じになってしまう。だから団結はしない。一人ずつの勝手な考えが、似た者同士集まって、ここで束になった。そういう風に考えたいんだ。」
「たしかにアメリカ軍は強力だ。鋼鉄の部品を組み合わせて作った巨大な機会のようだ。同じやりかたで戦ったら負ける。だから、こちらはそっとそばに行って、あっちこっちのネジを抜いてやるんだ。あるいは歯車の中に砂を撒いている。そのうち機会はぎしぎしと軋みはじめて、部品が抜け落ちて、動かなくなる。」
一口に反戦平和運動とか言っても、鋼鉄の巨大な機械と対抗するのに、いつのまにか自らも鉄の団結を作りたがるのが習い性というもの。ひとりひとりはええ加減な人間の、できる範囲の頑張らない行為が積み重なって、巨大機会のネジを外し、歯車に砂を撒く作業がなくては戦争は止められないだろう。
ワタクシの近くにもいるんですよね。べ平連といえば、吉川勇一さんがいるから、あれは共産主義労働者党系の運動でしょうとか、そういう見方しかできない人がね。
じゃあどうして、池澤夏樹さんが今になって、私は「隠れべ平連」でして、なんて言いだしたり、「カデナ」なんて小説を書こうとしたりするのでしょうか?

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