1990年代末に、中国政府は大学の新入生募集枠の拡大を奨励しました。
それは当面の若者の失業問題を解決するためとも、教育水準の高い労働力を増やそうとしたためとも言われていますが、いずれにせよ苦肉の策だったようです。
同時に、教育機関が自己責任で政府の財源を当てにせずに「教育改革」を進めろという意向だったということでした。
大学は、自ら収益を確保する意味もあって、学生募集を増やしました。また、日本でいう専門学校のような学校もどんどん大学に昇格し、結果として大学の乱立を招いたということです。
そういえば、日本だって団塊ジュニアの人たちが大学進学する時期に大学を大量に認可した上に、将来の少子化を見越して、短大が4年制大学に昇格したりして、結果として今、大学の定員割れがたくさん起きています。どこも似たようなものと言えましょう。
かつては中国全国で100万人程度だった大学卒業生は、2010年に630万人に増えました。
中国政府の教育省によれば、今年度の就職率は72%だそうですが、実は4割を超える約200万人もの大卒者は就職できず、日本と同じく非正規雇用労働者になるしかないのだそうです。
ワタクシは、職業柄日本に来た中国人留学生とこの10年くらい接する機会があるのですが、明らかに以前の中国人留学生と違う何かを感じていました。この中国の大卒事情を知って、なるほどそうだったのかと感じるところがあります。
以前よく見かけた、日本語学校に入るのは方便で、実はアルバイトをして少しでも日本の円を貯金しようという学生は見かけなくなりました。確かにアルバイトをする学生は多いのですが、はっきりいってあまりガツガツしている人は少ない感じです。
それに中国の大学を卒業して、日本に来た人が増えました。たぶん、大学を卒業しても満足できる職がないので、じゃあ日本に行こうかという人が多いのでしょう。
日本に来るような人は、満足する職がなければ当面非正規の仕事をしてでもというほど切迫した感じがなく、たぶん、親がお金を出してくれて日本へ来たという感じの学生が増えたんでしょう。
確かに中国は、日本の高度経済成長時代を思わせるほど毎年GDPが伸びています。しかしながら、こと大学卒業者の就職に関しては、日本と同じ「就職氷河期」に直面しているようです。
しかも、上の世代からみれば、「だいたい大学の数が増えすぎたからだ」、「昔の大学生に比べればレベルは低下している」、「就職だって、より好みしなければ充分あるんだ」ということになって、「だいたい最近の若者は根性がない」みたいな話に落ち着くというのが目に見えています。
だから、就職先が見つからず、おまけに上の世代からは冷たい目で見られ、というその腹いせに、卒業証明書に火を付けるパフォーマンスに及んで、その映像が中国の複数大手ウェブサイトに流されたりするようなことも起きてきます。
昨今の尖閣諸島事件に端を発した中国の反日デモなるものに、若者が参加しているという話も、この大学生の就職問題が関係しているに違いありません。つまり若者の不満のはけ口が、「反日」ということにつながっているということでしょう。
ちなみに、ワタクシが接する日本にいる中国人学生はこの話題には無関心です。「あっしには、関わりのねえこってござんす」という感じでしょうか。
さらに言えば、内心迷惑に感じていて、そのことを話題にすることもちょっと気分が悪いと感じるように見えます。テレビでは我が国の問題を、誰かが深刻な顔をしてしゃべっているが、問題は今日の雨、傘がないっていう感じでしょう。
いずれにせよ、面接を受けては門前払いを食らう日々が続く若者ということでは、中国の若者も、日本の大学生の就職活動も、なんだか変わらない感じがしてきます。
今、ワタクシは中国人の日本語学校生たちに、日本の大学生の就職事情を話そうかどうか考え中です。日本の大学を卒業しても、日本で就職するのはかなり難しい、なんてホントのことを言うことは、彼ら・彼女らにとって喜ばしい話とは言えないでしょう。
日本の会社は、かつて高度経済成長時代やバブル期の社員が仕事もせずにふんぞり返っていて、彼らをクビにできないから、その割りを食っているのが新卒の若者だという見方もある・・・。
そんな事を話せば、これから日本の大学を目指そうという中国人の留学生にとっては、当面のやる気を削ぐだけなんでしょう。
でもそれも今の日本の現実ですから、話さなければならないという気持ちも他方にはあります。
今のワタクシの立場は、「ホントのことを言ったら、お利口になれない」というずいぶん昔に流行った歌の文句のような気分なんですね。

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