新商品を開発するとき、消費者のニーズをつかめとはいうが、じゃあ消費者が自分のニーズを知っているのかどうか。
いちばんの愚策は、消費者に「あなたはどんな商品を望みますか」とアンケートかなんか取って、その集計結果の通りの商品を作ることだろう。そんな「無難」な商品はまず売れない。
中国人の学生が多く在学する日本語学校がある。そこを卒業すると、大学か専門学校に進学する。
昨今の少子化の影響で、専門学校によって中国人留学生がほとんどのところも多い。日本語学校には、アポなしの飛び込み営業をかける専門学校や、地方の大学の関係者もいる。
それでも学生が集まらず、3月に入ってもどこにも志望大学に合格できなかった学生を求めて、日本語学校を回っている専門学校関係者もいる。
ところが、ある専門学校はもう11月で学生が埋まったという。若干の入学辞退者が出れば、そのとき受け付けますからという話だそうである。
「へえ、あの学校は10年くらい前、どこの大学にも入れなかった学生の最後の行き場だったのにね」とワタクシが言った。
「あの学校はね、一日の授業時間数が少ないんですよ。その代わり、夏休みなんかの長い休みは短いらしいです」と中国人の女性の先生が答えてくれた。(留学ビザの関係で、一年の決められた授業時間数はこなさなければならないから、一日の時間数が少なければ、当然長期の休みを削ることになる。)
ああそうか。
そういえば、ある学生が、大学の進学をやめて専門学校に行きたいと言い出したので、日本人の女性のマジメな先生が一生懸命説得していたのを前に耳にしたことがある。
なぜ大学ではなく、専門学校、しかもそんな学校を出てもおよそ就職なんてできそうもない学校に行きたいのか、そのマジメな先生には理解できないらしい。
「だって、大学は午前も午後も授業がある。それじゃ今のアルバイトをやめなきゃならないから」とその女子学生。
まあ、いくら大学を出たほうが就職には有利だとそのマジメな先生が言っても聞かない。
ワタクシは5〜6年前、ある日本語学校のクラスで将来の職業についての意見を言わせるワークショップ形式の授業をしたことがある。当然、将来日本の大学を出て就職をしたいという希望があるものという前提だった。
ところが、授業後の感想を書いてもらったものを読んで、その前提は間違っていたことが分かった。
要するに、「将来の職業」なんて考えたくもないという学生が多いのだ。中には「仕事なんかしたくない。ずっと子供でいたい」という感想もあった。日本語能力が稚拙な分、言うことが直接的で、吐き出すような本音が表れている作文が多かった。
ここから先は推測だけど、おそらく小さい時から親にいい大学に入り、いい職に就けといわれていたものの、本国の大学受験に失敗した人が、日本留学に来ている。
そのことで、新規まき直しを日本でという学生もいるにはいるが、多くは「いい学校・良い就職」的言説にアレルギーを起こしていて、とにかく逃避したいという心証なのかも知れない。
だからそういう学生は、目先の小遣い銭稼ぎのアルバイトには目が向くが、高い学歴から良い就職なんという話は、できるだけ避けて通りたいのかもしれない。
まあ、そういう意味では、かの一日の授業時間が少ない代わりに長期の休みが短い専門学校は、「消費者」の真のニーズをつかんでいるということなにかもしれない。
逆に何年か前のワタクシは、真のニーズを把握していなかったから、「将来の職業」なんてお客さんのいちばん触れてほしくない話題なんか持ち出してしまったということか?
でもきっと、アンケートなんか取ると「ニホンの大学を出てニホンのカイシャに勤めたいです」なんて彼らは書くんだろうね。

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