朝日新聞に、「小泉元首相:原発事故 自民政権時代の責任に言及」という記事が出ていました。(5月29日)
「日本食育学会・学術大会」で特別講演した小泉純一郎元首相 小泉純一郎元首相は28日、神奈川県横須賀市の県立保健福祉大学で行われた「日本食育学会・学術大会」で講演し、東京電力福島第1原発の事故に関連して「自民党政権時代にも原発の安全性を信用して推進してきたが、過ちがあった」と語り、自民党政権時代の責任に言及した。
小泉元首相はさらに、「原発を増やすのは無理。原発依存度を下げ、自然エネルギーの開発に力を入れるべきだ」と述べ、「既存の原発に安全対策をし、住民理解を得たものは維持、そうでない危険なものは廃炉を進めなければならない」と語った。【田中義宏】
郵政民営化のためなら「死んでもいい」と語った小泉サンも、電力業界とは戦わなかったということのようである。もし戦っていたら、本当に命が危なかったかもしれない。
東京電力をはじめとする電力会社は、日本中で誰よりも圧倒的に強い力を持つ存在になってしまった。それは政治、経済、マスコミ、学会に対する絶大な権力である。
まず、政治への影響力でみると、電力会社は各地域の経済界のリーダーである関係で、資金面でも選挙活動でも、これを敵に回したら政治家は選挙に勝てない。
保守系のみならず、民主党も電力会社の関連労働組合である電力総連の影響を強く受けていて、ついに原子力推進という点では自民党よりも強力になった。
電力総連は連合の中でも最有力組織の1つである。東電出身で電力総連会長から連合会長に上り詰めた笹森清さんは、現在内閣特別顧問の職にある。
中央省庁の中では、内閣府の原子力委員会と経済産業省の資源エネルギー庁が原発推進機関であり、内閣府の原子力安全委員会と経産省の原子力安全・保安院が安全規制実施機関ということになっている。
しかしいずれも、事実上電力会社が派遣したスタッフが事務を担当しなければ、実務は動かない。
経産省からは過去50年で68人が電力会社に天下っていた。資源エネルギー庁長官が退官4カ月で東電に天下りしたことに非難が集中し、最近になって東電顧問の職を退いた。他の電力会社のほとんどに、今でも天下り役員などがいる。
役所は、将来の自分の天下り先を考えると、電力会社に逆らえない。
東電はその影響力を背景に、2000年代初めの小泉政権下で検討された電力自由化で、それを強く主張した官僚を左遷させ、あるいは早期退職を余儀なくさせたりした。官僚も、職を賭す覚悟でもなければ電力業界の利益に反する政策は語れない。
経団連会長が見苦しいまでに東電を擁護する発言を繰り返すのは、彼がボケているからでも、東電が産業界に電力を供給しているからでもない。
製造業は、東電に多くの資材を納める立場にある。辞任を表明した清水社長は、資材課の出身である。社内ではコストカッターと言われたが、それでも業界にしてみればかなり良い条件で物品やサービスを購入してくれる。
特に、鉄、化学、電気、石油などの企業は、東電には大量の製品を納入している関係で、アタマが上がらない。
銀行にとっても東電は最優良顧客だった。証券会社にとっても東電債は最大の社債銘柄であった。商社も、東電の機嫌を損ねることはできない。
マスコミも東電に支配されている。東電は膨大な広報予算の配分によって、原発批判などすぐに抑え込む力がある。
いまやかなり世間の批判を東電が浴びるようになったにもかかわらず、東電や電気事業連合会の顔色を窺って、「自主規制」に走るテレビ局のプロデューサーなどマスコミ関係者は多いようである。
今後、東電の影響力がどうなるかはマスコミも恐る恐る注目はしているであろうが、全く心のこもっていないお詫び広告を出すこと自体、広報予算を使ったテレビ局への圧力だと受け止める向きもある。
事故当時、勝俣会長がマスコミ関係者と中国旅行に行っていたことが暴露された。それはいまに始まったことでなく、電事連の接待漬けから、子弟の就職の世話まで、電事連とズブズブの関係に陥った大手新聞社の経済記者もいる。
また、学者も電力会社からの研究資金や情報提供などを含めた様々な便宜供与を受けてきた。いまや公然と「御用学者」という言葉が語られるようになった。
電力会社、特に東電は、規模が大きいというだけでなく、その影響力によって政界、官界、財界、学会、マスコミを支配する存在になっていた。
ワタクシは中国人の学生にこう語ったことがあった。
「中国に言論の自由がないが、日本には言論の自由はあるというのはウソです。確かに、日本で総理大臣の悪口を言っても身柄を拘束されることはないでしょう。中国でも、中国共産党の支配の正統性に触れない限りは、いくら役人の腐敗を報道してもその雑誌や新聞が発売禁止になることはないのと同じです。しかし、日本ではテレビで反原発を語れば、その人は明日からマスコミで仕事ができなくなります。」

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