原子炉を廃炉にする上で最も重要なのは、核燃料を取り出し、高濃度から低濃度まで放射能に汚染された廃棄物を処理すること。
原発をまず冷温停止させた後、何年も放射線レベルが下がるのを待ち、低濃度の部分から徐々に解体して、最後に原子炉を撤去する。
周辺の染み付いた放射性物質を分離・分類し、不純物を取り除き、種類別にまとめて密閉容器に閉じ込め、放射能を周囲に広げないように作業を進める必要がある。
ただしこれは、正常に停止させた原発の話である。
86年に爆発したチェルノブイリは廃炉にできず、今も放射能レベルが下がるのを待ち続けている。石棺化することと廃炉とを混同している人がいるが、チェルノブイリはいまだ廃炉には至っていないし、その見通しもまだない。
チェルノブイリは40年を経て、コンクリートが浸食され、石棺はもはやボロボロの状態になっている。
普通に運転停止させた原発であれば、燃料棒を束ねた燃料集合体を取り出せば済む。周囲の汚染も、少ないだろうし、処理作業も予想の範囲内であろう。
だが福島第一の場合は、大量の放射性物質が格納容器の外に漏れ出て、建屋内部が放射能まみれになり、燃料集合体は溶け、どこに流れ出したかも分かっていない。
周囲は壁まで放射能が染み付いている状態から、どうやって放射性物質を取り出すのか、だれもそのやり方は分からない。
まだ炉の中を誰も見たわけではない。周辺の頼りない測定データから推測しているに過ぎない。近づけば高濃度の放射線汚染でたちまち死に至るだろう。
原子炉の炉のふたに据え付けられている開閉用のクレーンは既に吹き飛び、金属製のふたそのものも熱で変形していると考えられる。まず、ふたを開けるためだけに、特殊なクレーンかロボットかを一から開発しなければならない。
要するに、福島第一は廃炉にすらできない。まず、損傷した燃料を含めて原子炉内の放射性物質の除去に長い時間がかかる。
チェルノブイリは、放射能汚染の除去作業が2065年まで続くという。ある意味で、福島はチェルノブイリ以上に処理が難しい状況になっているのである。
ところで、メルトダウンし、さらに格納容器の底にたまった燃料棒の溶解液はどうなっているのか?メルトスルーしたウラン溶融体は、格納容器の底も破壊して、地下深くに潜っていって、地下水を汚染する(している?)危険性もある。
そうなれば、またさらに別の形で放射能汚染が広がることになり、廃炉への道もますます遠のく。
事故の終わりを私たちは生きている間は見届けられず、私たちの国の将来は、巨大廃棄物との果てしない戦いにエネルギーとお金のかなりの部分を費やさなければならないことになっている。
汚染された原発周辺の土壌を完全に元に戻す技術などは、いまのところ誰も持ち合わせていない。
「石棺化してしまえ」というオハナシすら、実は現実から目をそらすための言葉の魔術になりつつある。臭いものにフタをするという発想では問題は解決しない。
どれだけ巨大なふたで爆発した原子炉を覆ったとしても、それを「悲劇のモニュメント」と呼ぶことすらも、現実離れしている。
むしろ、現在と未来の日本人への負担の重しだと言うことができるだろう。これは赤字国債が子孫への借金だなんていう話ではない。

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