「TPP亡国論」を書いた中野剛志さんがいくつかの本で(グローバルインバランス)ということを言っている。
グローバルインバランスとは、世界的な経常収支不均衡ということである。1990年代以降のアメリカ主導の経済のグローバル化は、アメリカが経常収支の赤字を過剰に積み増すことによって進められてきた。
リーマンショック前までのアメリカの経済は、日本、東アジア、EU、南米と世界のどこから見ても輸入超過で、一方的な経常収支の赤字を抱えてきた。しかしながら、世界の金融資金の流れはすべてアメリカに集中していた。
つまるところ、アメリカ人がやたらと消費をして世界中から物を買いまくることによって世界経済の成長を支えてきた、ということである。
アジアの成長といわれていたものも、アメリカの住宅バブルがあればこそであった。住宅バブルは、低所得者にローンで持ち家を作らせ、住宅の資産価値が上がることで借金をさせ、消費を過熱させていった。
これによって、中国をはじめとするアジアからの輸出がアメリカに殺到した。90年代からのアメリカは、ITバブルなど、つねにバブルを作り出すことで世界中からドルへの投資を高めていった。
小泉政権末期の日本の束の間の景気回復も、つまるところアメリカの住宅バブルの産物である過熱した消費によって支えられていたといえる。
第二次世界大戦後のいわゆるブレトンウッズ体制では、金融機関はさまざまな規制のなかで動いていたため、グローバルな資本の移動も制限されていた。
しかし、70年代初頭のブレトンウッズ体制の崩壊以後は、金融の自由化が少しずつ進み、グローバルな資本移動も進んできた。
これは、それまで資本不足が足かせになって開発が進まなかった発展途上国でも、うまく外資を呼び込むことで急速な発展が可能になったということを意味した。東南アジアの新興工業国であるシンガポール、マレーシアがまず工業化を果たし、台湾、中国もそれに続いた。
しかしながら、このような資本移動の自由は副作用もあった。資本の移動の自由化は、一箇所に資金が集まりすぎてバブルを起こし、そのバブルが急速に崩壊したりする。1997年のアジア通貨危機はその典型であった。
これを契機に、アジア諸国は外国資本を入りやすい環境を整備して外資を呼び込んで成長するだけではなく、バブルがはじけたときになっても急激な経済危機を回避するために、黒字で稼いだ外貨を溜め込むことに努めるようになった。
アジア諸国は、せっせとアメリカに輸出し、外貨を稼いで積み上げる。そして積み上げるのみならず、住宅バブルに湧くアメリカに流し込むことで運用しようとした。
しかし、そのアメリカでバブルがはじけたのが、リーマンショックであった。
リーマンショックは単なるこれまでのバブル崩壊とは異なる。
アメリカの貿易赤字が拡大し始めたのはベトナム戦争などで経済が疲弊してきた1970年代であった。それ以降、ブレトンウッズ体制を放棄して、金融の規制緩和を進め、資本の国際移動の自由化を進めた。
アメリカの赤字がいくら拡大しても、その分、アメリカに世界のお金が流れ込んでくるような構造を作り出してきた。その構造、つまりグローバルインバランスが崩れたという意味で、2008年は別の経済システムの移行が始まった時だと考えられる。

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