孫崎享「戦後史の正体」(創元社)は、高校生に読ませたい戦後史ということだけど、しかし、適切な指導がなければ、孫崎さんの独自な歴史観をそのまま鵜呑みにする危険がありそうな気がする。
大学生に、別の見方と比較しながら、歴史には多様な見方があることを考察させるにはいいかもしれない。
むしろ高校生には、「日本の『情報と外交』」(PHP新書)のほうがいいかもしれない。
なぜなら、外交官という仕事の意味がよくわかると同時に、日本の外交がどういう課題をこれから解決しなければならないかがよくわかるからだ。
孫崎さんは、さるインタビューで自分は外務省から冷遇されていて、こんな本を書かなければ高給な天下り先が今頃与えられていたとか言っていたけど、いやいや実は「戦後史の正体」なんかも、ムカシはこんな骨のある外交官がいたし、政治家も・・・ということで、むしろ外務省を愛しているのかしらと思ったりもする。
外務省の仕事は、むろん外交政策を立案することなのだろうが、本来はそのために各国の情報を収集し、情勢判断を基礎にするべきなのだが、往々にして「何をしたいか」という願望が先に立って、むしろそのことに都合のいい耳触りのいい情報ばかりが集められ、幹部や大臣をはじめとする政治家に流される。
外務省の仕事を政策に関わるものと、情報に関わるものに分ければ、正しく分析された情報を共有させようと努めれば、政策に関わる人間から「君の情報はわれわれの進めようとしている政策の邪魔をする」と疎んじられる。そして、その傾向は近年ますます強くなっているようなのである。
それはなぜか。日本の外交政策は冷戦終結後特に、アメリカの政策との調整を最優先にするという方針になりつつある。そうすると、「アメリカの政策を支持する」ということが所与のことになって、それに疑いを挟むような情報は、耳に心地よくないノイズとして最初から排除される傾向にあるからだ。
こういう状況では、政策形成と情報収集・分析の間の緊張関係なるものは失われ、後者の仕事はいつも前者に敗れるのがお決まりになってしまう。そして、異論によって鍛えられていない希望的観測だけの政策が、失敗に終わってもだれも責任を取らない・・・。
まあ、ことは外務省のみならず、民間会社なども含む日本のあらゆる組織において起きている現象かもしれない。

0