都知事選のとき、民主党は当初、舛添支持に傾きながら、細川出馬が固まると、一夜にして細川に乗り換えた。
実は舛添と細川の両者とも脱原発を唱えていた。ただ、舛添候補はエネルギー政策は基本的に政府の仕事として、段階的な脱原発を主張した。そして都知事にできる部分として、再生エネルギーの活用や省エネ推進を言っていた。
これに対して、細川候補は即原発ゼロだった。
民主党の中にも即ゼロを言っている人はいる。保守的な野田政権のときに、30年代末までにゼロを実現すると言った。でももちろん、東電の労組もいるから、原発縮小といいながら、存続を目指す人たちもいる.
民主党が当初、舛添に傾いていたのも、30年代末までにゼロという点から考えて、政策的にそう違和感がなかったからでもある。だが、結果的に細川が即原発ゼロを強く打ち出し、かつ脱成長まで唱えたものだから、民主党のなかでもかなり「左派」勢力に近くなったわけである。
しかし、そうなると、実は宇都宮候補が有利になった。即原発ゼロならばこちらの方が「元祖」であるからだ。少なくとも、即原発ゼロというなら細川サンよりも共産党・社民党のほうが信頼できると考えた有権者も多かったはずだ。
確かに細川サンは非自民連立政権の首相だったとはいえ、資産家で、畑をいじって優雅な隠遁生活を送ってこられた殿様であるから、その人に選挙カーの上から「脱成長」とか「原発ゼロ」なんて言われるより、貧困問題に取り組んできた弁護士の宇都宮さんとその陣営の中心にいた共産党のほうが、はるかに「格差是正」に真剣だと感じるだろう。
東京の有権者の一番の関心は何だったか。
昨年の参院選、一昨年の総選挙から一貫しているのは、景気回復と安定成長の実現だった。それは各種世論調査をみても分かる、都知事選で有権者の関心も、「景気・雇用」と「医療・福祉の充実」に集中していた。
そう考えれば、「脱原発」は重要課題ではあっても、有権者の関心からはズレていた。
ただ、有権者も景気回復と雇用の安定がなかなか両立しないことを感じている。そうなれば、自公のみならず共産党も伸びてほしいと思う気持ちも強くなる、しかし民主党となると、先の党大会で海江田代表が「いのち、雇用、暮らしを守る」と強調したものの、ではどうやってというその中身が心もとない。
民主党は、「まず成長を目指すのか、それとも公正な所得再分配が先か」という論点ではっきりしない。自公は、「公正な所得再分配を実現するには、経済成長が不可欠だ」ということではっきりしている。(しかし、経済成長しても再分配は行われないだろうとみんな思っている・・・)
共産党は所得再分配がまず先であることがはっきりしている。それが参院選や都議選での議席増につながっている。宇都宮候補が細川候補を上回ったのは驚くに値しない出来事だった。だって、都議会ではすでに共産党の議席数のほうが民主党を上回っている。
ただ民主党は一昨年まで政権党だったから、それだけで過大評価されているに過ぎない。実力は、少なくとも東京都では、共産党の方が上だということがはっきりしただけだ。細川サンのような知名度に頼った候補を担ぐのではなく、政策を詰めることが先だろう。
民主党はこのままでは左右に引きちぎられて、流れ解散になるだけ。
ついでながら、安倍政権は「民主党政権はひどかった」という人々の幻滅の上に咲いたあだ花みたいなものだと言える。

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