ヘイトスピーチ問題は、人種民族差別の問題である。しかし、人種民族差別なのに、表面的な現象としてデモにおける表現の自由の問題にばかり注目するから、大音量で迷惑だとかといった部分のみを抜き取って、高市早苗のようなことを言い出す人が出てくる。
国会前のデモで「安倍はバカだ!」と叫んだところで、ヘイトスピーチとは言わない。総理は、しかるべき手続きを経て最大の権力を委ねられた身であり、差別の対象としてのマイノリティではない。
安倍ほどではなくても、与党の政治家はそれなりの権力が行使できる立場である。この辺をごっちゃにして、法制化だなどというのは、危険だ。
日本社会では、これまで「弱者」といえば、在日朝鮮人や被差別部落、障害者といったものだった。そうでない日本人は「強者」だった。しかし、在特会が現れて以降、「弱者」の位置づけが変わってきている。
いま一番、「我々こそが弱者だ」と訴えているのはネット右翼だろう。
彼らは「自分たち日本人は弱者である。だから、中国や韓国に勝手なことを言われるのだ」といいたげである。その発端は、北朝鮮の金正日が小泉首相に対して日本人拉致を認めてからだろう。戦後これまで戦争責任を追及されてきた日本人が、この問題では犠牲者であることが発覚したことに、言葉は悪いが興奮した日本人が多かったようだ。
ネット右翼は韓国や中国のことをボロクソに叩くが、それは自らを「弱者」と捉えているからだ。そんな彼らにとって、自分たち「弱者」の代弁者が安倍晋三になったのであり、それがために彼は戦後二人目の、二度首相の座についた人間になったのである。この弱者意識が、今の日本を取り巻く歪んだ奇妙なナショナリズムにつながっている。
よく考えてみれば、日本の最高権力者で恵まれた世襲政治家がどうして「弱者」なのか。近年、新興国が経済力を伸ばしたとはいえ、どうして国際社会で日本が「弱者」なのか。
どう考えてもこの国は「強者」であるのに、人々は「弱者」意識に捕らわれ、政治家はそこを刺激することで国民からの支持を増やそうとするこの政治的詐術に、日本社会は取り込まれている。

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