衆議院解散の表向きの理由は、消費税増税先送りの決定について、国民に信を問うという理由だ。だが、これがほんとの理由だとは思っている人は少ない。
ホントの理由は、首相が「いまのうちに」と考えたからだ。
4月の消費税率8%への引き上げの影響が予想以上に厳しく、東京株式市場は低迷し、10月には一時、日経平均株価が1万5000円を割った。
日銀は10月31日に、追加の金融緩和策を決定している。財務省出身の黒田総裁が、消費税率上げの援護射撃をしたということであろう。
結果的に、日経平均株価は一挙に1万7000円を突破した。もちろんこれは一時の緊急対応だろう。
ところが安倍首相は、財務省と黒田総裁の示し合わせたような行動にムッとしたようだ。そこで財務省に対して、消費税率上げの延期を宣言した。指導力発揮を見せようということのようだ。
そしていまの好状況のうちに解散し、選挙に踏み切った。選挙は財務省に対する政治主導の発揮の結果である。
もうひとつの理由は、かつてから自民党内にささやかれていたところの、野党が準備不足であるうちに解散すれば自民党に有利というウワサに従ったのだろう。
衆議院議員の任期は4年だから、解散しなければ次の選挙まで、まだあと2年あるはずだし、前回の総選挙で大勝した自民党は、衆議院で294議席をもつのだから、大勝して得た議席を、次の総選挙でさらに上回ることは難しい、だから野党は、自民党が任期満了前に解散する可能性は少ない、と考えるのは普通だろう。
だから、野党はまだまったく選挙準備が整っていなかった。
ところが逆に、自民党は野党の選挙準備が整っていない今が、選挙の絶好のタイミングと考えるようになった。
安倍首相も、どのタイミングで解散しても、次の総選挙で現有議席を上回ることは難しいとなれば、じり貧になる前、経済状況が一時的によくなっていて、野党の準備が整っていないいまのうちに解散しよう、という考えが強くなったのであろう。
問題は、議席は減るだろうが、それでもいまなら減る議席数は少なくて済むだろう、という思惑が正しいかどうかだ。
まあよく考えれば今回の解散・総選挙は、自民党、安倍政権の都合に従った国民・一般大衆ににとっては何が何やらわからないものだ。
果たして国民はこの事態を納得するだろうか。
18日の安倍首相の会見を見てみれば解散はやむを得ないとみんなが納得できるような内容ではなかった。消費税増税の先延ばしという、「重い重い決断」に信を問うべきだと説得された人はほとんどいなかった。
自民党は過半数の議席を得られなければ、自分は退陣するとも宣言したものの、なんだ40議席ぐらいも数を減らしても続投なのかという声が党内から漏れた。
19、20日に「朝日新聞」が行った世論調査では、解散に「納得しない」が65%で、安倍内閣の支持率は39%。不支持率の40%を下回っている。
19、20日の共同通信の調査でも解散に「理解できない」が63.1%になっていた。
首相の誤算は、選挙準備が整っていなくて、候補者が出そろっていないはずの民主、維新などの間で地方レベルでの候補者調整が進んでいたようだということである。そして、みんなの党が解党したことで、この前の選挙で民主党の敗北を加速させたいわゆる「第三局」政党の一角が崩れた。
ただ、国民は安倍首相の迫力ある(?)会見にいささか白けているから、投票率が低くなるかもしれない。そうなれば、自民・公明の選挙は強いと見るのが順当だろう。
自民党にとっては思ったよりも厳しい選挙になりそうだが、野党にも決定力が欠けている。

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