ナチスの戦争犯罪を謝罪するだけがドイツの外交の戦争責任問題への姿勢ではないという。
(日経新聞3月8日 ベルリン赤川省吾から)
「その基本線はメルケル政権にも受け継がれている。それどころか「反省」をさらに深掘りりし、第一次大戦や19世紀の普仏戦争にまでドイツに非があると認めるのが最近の潮流になってきた。」
「卓越した外交手腕でドイツを欧州随一の列強に押し上げたプロイセン宰相ビスマルクも批判の対象だ。「対仏戦争は誤りだった」。シュタインマイヤー外相は4日、ビスマルクの母校での講演だと言うのに、遠慮無くこきおろした。」
「この戦争が独仏の憎悪を募らせ、2度の大戦を呼び寄せたという説だ。シュタインマイヤー氏はプロイセンの富国強兵策が「ナチスの準備段階」となったと考えている。」
「日本と異なるのは「過去への謝罪」をしたたかに安全保障政策などと組み合わせたことだ。ブラント首相は70年、ポーランドでひざまずきユダヤ人迫害を謝罪した。当時の独政府は共産圏外交を繰り広げていた。米国やイスラエルに配慮しつつ、東欧との和解も目指した計算ずくの政治演出だったとの見方はドイツにもある。」
「ドイツからみれば欧州統合も「謝罪」の一環だ。ドイツが欧州の一員であることを示す意味がある。幸いだったのは周辺国がドイツを許したこと。昨年8月、ガウク独大統領がフランスにある第一次世界大戦の激戦地を訪れると、オランド仏大統領が黙って抱きしめた。」
「それでも過去の清算は終わっていない。債務危機のなかで「一人勝ち」を謳歌し、ドイツ流の思想で欧州を染め上げようとする手法には域内の反発が強まる。ギリシャはドイツに侵略されたことを蒸し返し、戦時賠償を求めた。ユダヤ人の虐殺を深く反省したはずのドイツ社会にはなお人種差別や偏見が残る。終わることのない試練が続く。」

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