5月の連休にアメリカに行った西村康稔・経済産業副大臣が、5月4日「TPPのテキストへのアクセスを認める方向で検討したい」と、日本もアメリカと同じように国会議員に守秘義務をつけた上で情報を開示するという記者会見をした。
ところが、彼はまだアメリカにいる5月7日、ロサンゼルスで、発言を全面撤回した。
西村副大臣は経産省出身だが、経産省では14年勤めたのちに議員秘書などを経て政治家になった。課長職などは経験していないようだ。
TPPはいろいろ問題が多い協定である。ことに、各国の国会議員にはもちろんのこと国民にも協定の交渉内容を知らせない秘密主義が取られている。
これは、情報公開の世の中にあっては時代錯誤な話であるが、過去の自由貿易協定の失敗から、各国政府がそういう方針を打ち出したのだ。
特に農産品など重要品目の関税引き下げなどについて交渉途中で内容が漏れたら、反対運動が盛り上がって、各国で収拾が付かなくなる。
ところがアメリカだけは、国会議員に守秘義務を課した上で協定文を見せるという。たぶん、貿易交渉はほんらい議会の権限だが、それを議会の同意を得て、大統領に付託するという手続きが必要なせいで、議会の多数の賛成を得なければならない。
もちろん日本などでは見せない。議会は、交渉でまとまった条約を最終的に批准するかどうかしかないからである。ところがそれを西村副大臣は、国会議員に見せると言ったのである。
この西村副大臣の「決断」は、TPPの秘密主義から見れば良いことには違いない。ただ、日本の国会議員が英文の協定文を見て、内容をどこまで理解できるのかは分らない。しかも、その内容を外部の専門家に見せて判断を仰ぐなどということは、守秘義務違反になる。
しかしながら、この西村副大臣のささやかな「決断」は、日本の役所の掟から見れば実現不可能であったことは明らかだった。なぜなら、この種の「決断」は、ボスである甘利大臣が英断を下したものとして、恭しく記者会見を開いて公表するものであるからだ。
それを副大臣が外国で得意になって記者会見などするのは、霞ヶ関の常識に反しているのである。したがって案の定、副大臣の「決断」は数日にして露と消えた。
そういえば、民主党政権にも若くして役所を飛び出して政治家になった人が多かった。西村氏も実はそれに近かったのかもしれない。霞が関の政策決定の掟を無視して、自らの手柄にしようとして失敗した。
掟を身につけるには、やはり各省課長クラスの経験が不可欠なようである。西村副大臣ももう少し役所に留まってせめて課長職を経験していたら、このような「初歩的ミス」はしなかったかもしれない。
(以下を参照しました。篠原 孝衆議院議員の「メールマガジン416号【TPP交渉の行方シリーズ38】【政僚シリーズ2】「西村内閣府副大臣のTPP情報公開撤回の怪-勇み足は出身省経産省のカラーに由来する-」15.05.25 )

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