東芝の不正会計は歴代の経営トップたちによる組織ぐるみの巨額粉飾決算事件だ。
不正会計は約7年間にわたって総額1562億円規模に達していた。
だが、証券監視等監視委員会は、企業側が自前で選んだ委員による第三者委の報告概要が出た時に、既に早々と刑事事件化を回避する姿勢を見せた。
本来は大事件のはずなのに、監視委は自ら調査に着手する前から、課徴金による制裁で十分と判断し、刑事事件化を断念してように見える。
監視委が処分を決めて金融庁に勧告するのは、早ければ9月というが、調査したうえで対応を決めるというよりは、すでに先の結論を先取りしているかのようだ。
監視委が刑事処分の必要があると判断すれば、検察当局に告発することになっている。
ところが、監視委は調べる前から「小規模な会社では社長が経営の詳細まで把握しているが、東芝のような大企業は事情が違う」と話し、立件には高いハードルがあるとの見ているという。
東京証券取引所も「上場契約違約金」の支払いを求める方針というが、上場契約違約金というのは、上場企業が適切な情報開示を行わなかった場合に支払いを求めるペナルティだ。
だが、今回の事件は、日本を代表する超一流企業がトップの意向で長年にわたって組織ぐるみの不正会計を続けていたというもので、それによって株主や投資家、銀行、消費者、社員らを欺いてきたものである。
これは単なる「不適切会計」ではない。
この事件に対する霞が関の姿勢、なんとしても刑事事件化を防ぎ、すでに発表した役員退任と課徴金支払い、形ばかりの東証での制裁で済ませたいというものである。
刑事事件化すれば、東証の上場廃止という処分にもつながりかねない。
事件は単に東京市場にとどまらずニューヨークなど世界市場に広がり、一段と拡大する。なんとしてもそれは避けたいと言う気持ちがあるらしい。
なぜ、監視委や経産省は東芝事件の拡大を防ぎたいのかというと、安倍晋三政権への打撃を最小化したい思惑があるためだろう。
経産省には経済界本流である東芝と築いてきた密接な関係をぶち壊しにしたくないという計算もあるようだ。
カネボウやオリンパスなど企業の不正事件は、たびたび起きてきた。企業統治の甘さが昨今の日本企業の生産性の低さの一因である。
日本を代表する企業であり、経団連副会長と政府の産業競争力会議メンバーにもなっている東芝の副会長と元社長に責任があるというのでは、もはや統治強化どころではない。
これは経産省とすれば、最悪だ。
政権や経産省へのダメージを少しでも和らげるために、経産省や金融庁、証券取引等監視委員会、東京証券取引所が一体となって事件の処理を穏便に図ろうとしている。
しかし、内外投資家の目も甘くない。事件処理が甘ければ、安倍政権の経済政策も疑われるようになるだろう。
だが、政府や企業広報部からの発表情報にたよって記事を書いている大手新聞などマスメディアからは、東芝の闇に切り込む報道は難しいのかもしれない。

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