連日自民党を離党した武藤貴也衆院議員(36)=滋賀4区=のことを取り上げる。
この武藤という男は、安全保障関連法案に反対するデモを呼び掛ける学生らのグループについて「『だって戦争に行きたくないじゃん』という極端な利己的考え」などとツイッターに記し、批判を浴びた。
武藤が所属していた自民党麻生派の麻生太郎会長は武藤のツイッターでの発言直後、「自分の気持ちが言いたいなら安保関連法案が通ってからにしてくれ」と注意したという。
もし麻生財務大臣の言うように、法案が通るまではひたすらガマン、通ったあとで言いたいことは発言という言いつけ通りに行動していたら、今回の金銭疑惑も表面化しなかったかもしれない。
「週刊文春」によれば、武藤は昨年、ソフトウエア会社の未公開株購入を「国会議員枠で買える」と知人らに勧め、23人から計約4000万円を集めたが、株は実際には購入されず、出資金の一部が戻っていないという。武藤は、衆院外務委員会に出席している最中にLineで関係者と株購入をめぐるやり取りをしていた。
彼の言い分は異なっている。彼が知人に数億円を貸しているのに、返済がされていないのだという。さらなる事実解明が必要だろう。ただし、彼の経歴から見て、他人に貸し付ける数億円をどこから得たのかよく分らない。もし彼の年齢と経歴から見て、そんな金があるとすれば家がよほどの資産家で親の遺産でもあるのか。
「未公開株」といえば、1980年代に世間を揺るがせたリクルート事件を思い起こす。値上がり確実といわれた当時の新興企業リクルート社の未公開株が政官財の有力者に譲渡され、一部は贈収賄の罪で起訴され有罪が確定した。
今回、本当に「議員枠」があったのかどうか分らない。しかし、将来有望な未公開株を「政治家枠」で購入が可能などという話は、聞いただけで近づかないようにするのが政治家の倫理観だと思うが、週刊誌の報道の通りとすれば、この武藤という人はそうとう感覚がマヒしていたとしかいいようがない。
武藤は当選前の2007年、ダム事業凍結を唱える当時の嘉田由紀子滋賀県知事を支える県議会会派の政策スタッフに入っていた。嘉田知事の「脱ダム」の主張がむしろ生ぬるいと突き上げる側だったという。
ところがその後、一転して嘉田氏に批判的だった自民党の候補者公募に応募して同党の公認となり、2009年には落選したが、2012年と昨年の二回の総選挙で当選した。
嘉田知事を支えるグループの社民党関係者が、政策を180度転換して自民党入りした武藤を問い詰めると、「就活だから・・・」と言い分けしたらしい。なんとなく、この男の性格が透けて見える。
現在、自民党内は「戦争法案」に関して、心からそれを信じて推進しようとする人たちと、疑問を持ちながらも小選挙区制度の下で公認権や政党助成金の配分の権限が党の中央に集中しているシステムになったため、疑問を口に出せない人たちがいると思われてきた。
しかし、武藤のような男の存在を見ると、どうも第三の集団がいるらしい。つまり、安倍というトップの意向を忖度して、過剰に適応する人々である。
武藤は最近では報道機関への圧力発言が飛び出した自民党内の安倍晋三首相を支持する若手勉強会にも出席していた。このグループは、過剰適応集団ということもできるのではないか。
こうしたイエスマン以上の過剰適応状態の人間に取り込まれた首相には、耳に痛い情報は入らなくなる。独裁政権が崩壊して社会が混乱するのは、こうした独裁者と過剰適応人間の関係性が原因となることを、谷垣禎一幹事長らは自覚するべきであろう。

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