昨今、リベラル派の危機ということをよく聞く。リベラル派の定義はよく知らない。
だが、長い55年体制の自民党の歴史のなかで常識とされてきたのは、田中派・宏池会の積極財政と、外交・防衛のハト派路線をリベラルと称し、これに対して岸・福田派の緊縮財政、外交と防衛でのタカ派路線に二分されてきた。
池田内閣以来、どちらかと言えばリベラル派が自民党の主導権を取ってきた。
ところが小泉政権になって、主導権がタカ派に移った。小泉政権は、アメリカのイラク戦争への全面協力を表明すると同時に、あえて消費税増税には踏み込まず、社会保障費やインフラ整備の削減を行った。
小泉は、消費増税は将来的には必要だと考えながら、国民が増税してもいいから社会保障が必要だと言い出すまで待つという姿勢を見せた。第一次安倍政権も、基本的にはそれを踏襲した。
しかしながら、民主党政権が崩壊した後に政権に返り咲いた安倍首相が打ち出したアベノミクスは、金融緩和、円安誘導、そして積極財政を行った。言い換えれば、積極財政にしてタカ派路線という、かつての自民党路線の中では異例の政策組み合わせを取ってきた。
第二次安倍政権が景気回復、デフレ脱却を最優先に掲げたのは、彼が最重要と考える憲法改正に手をつけるため、まず経済を安定させることが世間の反発を抑えることになると考えたからだろう。
結果的に、第二次安倍政権は積極財政とタカ派路線の組み合わせになっている。
来年の参院選までは経済政策重視が続くが、もし参院選と予想される衆院選に勝利していよいよ本格的に憲法改正への道を歩み出したいと思っているに違いない。
野党の現在の非力を見れば、安倍の思惑ははいまのところ順調に進んでいるのかもしれない。
さらに安倍は、衆参同時選挙の勝利をテコに自民党の党則を変更し、2020年のオリンピックまで首相でいることを秘かに目指しているに違いない。
彼の野望を挫くものがあるとすれば、残念ながらそれは野党ではなく、たぶん経済だろう。
衆参同時選挙に打って出るなら、彼はたぶん再度の消費税率引き上げ凍結を言い出すに違いない。
消費税引き上げ凍結を言い出せば、野党も反対はできない。野党もまさか財政再建を重視して増税を主張するわけにはいかない。
だが、昨年暮れの総選挙に続く消費税率引き上げ凍結が、財政再建への努力の放棄と取られ、それが日本国債への信認低下に結びついたらどうなるだろうか。
予測によれば、2020年前には、国債の発行額が日本の金融機関に貯蓄された預金額を超える日が来るらしい。これまで国債は、日本人の総預貯金の範囲でファイナンスされてきた。
言い換えれば、もし国債がなんらかの理由で債務不履行になったとしても、一般国民の犠牲によって解決できる範囲に収まっていた。
しかし、政府の総債務残高が日本人の総貯蓄額を超える事態になれば、日本国債は海外資本市場の荒波に投げ出される時代が来る。
そのXデーを機会に、市場が日本の国債へのこれまでの信認を見直し、国債の金利が急上昇するようになれば、一気に財政危機が表面化する。
安倍政権が参院選後に直面するのはまさにそういう事態かもしれないのだ。

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