イギリスのEU(欧州連合)離脱で、金融市場は大荒れとなり、世界経済や日本経済についての報道や解説、論評も悲観的なものが多い。
金融市場は「それでも最後は英国民の理性が勝つだろう」と考えていたようである。
ところが「まさかの大事件」が起こり、金融市場が大きく動いた。
しかし、「まさか」の原発事故を経験した日本人はもっと冷静に考えてみることが必要だろう。
果たしてイギリスがEUを離脱することがそれほど重大なことだろうか?
安倍首相は「リーマン・ショックに匹敵する危機」を予測していたのはオレだと言いたげな感じだが、どうもすべてが参議院選挙対策に収斂するようでは、あまり真面目な態度とは言えない。
アタクシは、ことイギリスの今回の決定自体に関しては、本当のところ世界経済や日本経済にはそれほど大混乱をもたらさないと思っている。しかし、国際政治や外交の面では様々な難問が提起されるに違いない。
そう考えると、我が国の首相はあまりにノホホンとし過ぎている。
そもそもEUは、イギリス経済に対しそれほど多くの恩恵を与えていたのかどうか。
かつて英国がEU(の前身)に加入した時、経済面で劇的な改善がもたらされたのかどうか。
人はもう昔のことを忘れている。
確かに人や物の移動が多少は便利になった。多少のメリットはあったはずだが、そのメリットは今回「離脱派」の唱えた煽情的な外国人労働者による大量失業の政治宣伝にかき消された。ということは、EUから離脱した途端、大不況をもたらすほどの膨大な恩恵がイギリスにも、その相手国にもこれまであったのかというと、まことに疑わしい。
過去に「自由貿易協定」が締結された事例を見ても、爆発的なメリットが生じたという話は、少なくとも先進国では聞いたことがない。
「自由貿易協定」のたぐいが、ホントに大きな効果をもたらすのであれば、世界中が自由貿易協定締結の機運で満ちているはずである。
もちろん今後、イギリスと欧州大陸との間の輸出入には関税がかかるようになり、イギリスの輸出産業が打撃を受ける可能性はある。だからこれを機に、イギリスの消費者が欧州大陸製品から国産の製品に乗り換えるとすれば、まことに今回の国民投票の結果にかなったことである。
為替の変動によって、経済にも多様なシナリオが考えられることは確かである。輸出入取引の条件が変わることによって、当然ながら、打撃を受ける企業と恩恵を受ける企業がある。
だが、イギリス経済のような先進国において、打撃を受ける企業にのみ着目して、マクロ経済に大打撃が生じると考えるのは誤りだろう。しょせん、誰かの得は誰か(あるいは多数?)の損であることが多いのがこれまでの自由貿易協定の歴史ではないか。
2008年には「リーマン・ショック」によって世界経済は大混乱に巻き込まれた。
だが今回は不動産「バブル」が崩壊したわけではない。
リーマン・ショックの時には、バブル崩壊によって発生した巨額の損失を誰が負担し、それによって誰が倒産するのか分からないという状況が発生した。だから、どの企業が倒産するかわからないから、どの企業にも金を貸すのはやめようと皆が考えたのである。
これにより、世界的に金融が収縮して金の貸し借りが行なわれなくなった。
しかし今回は、まだ特定の誰かが損をしたわけではないし、まだ特定の誰かが倒産しそうだというわけでもない。
未知の政治決定が行われて、短期的に国際金融市場のプレーヤーたちが先行き不透明感から与信を手控えることはあっても、影響は限定的かつ一時的と思われる。
リーマン・ショックの時は、震源地がアメリカであった。アメリカは世界中から巨額の輸入をしているため、アメリカの景気悪化は世界の輸出企業に大きな打撃となった。
それ以上に影響が大きかったのは、世界の基軸通貨である米ドルの信用が収縮したので、世界中に大きな影響を与えた。
金融は経済の血液のようなものと言われる。健康な人は血液の流れを意識しない。だが、ひとたび血栓ができて血管の中の血液の流れが滞れば、脳梗塞など死に至る病気に陥る。カネの流れが止まってしまうと、経済全体に甚大な被害を及ぼすことになるのである。
今回は、仮にポンドやユーロの資金貸借が滞るようなことになったとしても、国際的な取引の多くはドルで行なわれているし、ポンドやユーロで行なわれている取引も一時的にドルで決済をすることも可能である。
少なくとも、血流が止まってしまうことから起きる病気になっても、早期に治療すれば命には別条ないものと考えられる。

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