8月27日、ソウルで日韓財務対話が開かれ、「通貨スワップ」の復活の話が出たようだ。
中国の景気減速は韓国にとってリスクである。
韓国の輸出は全体でも19カ月連続で減少し、対中輸出も落ち込んでいる。
韓国の金融・株式市場からの外国資金の流出にいざという時の備え(外貨準備)が必要ということで、日本にも話が来たようだ。
中国は韓国にとり貿易総額で第1位の貿易相手国。2003年に対日貿易額を、2004年に対米貿易額を上回り、 2015年は約2274億ドルで、韓国の貿易額全体の約25%を占める。
同年の対中輸出の割合は26.0%、対中輸入の割合は20.7%。米韓自由貿易協定(FTA)で米国向け輸出も増えているが、中国との関係は大きい。
韓国の対中輸出1位の品目の半導体は、前年比14.3%減少した。
輸出2位のフラットディスプレイ・センサーの落ち込みは19.4%減。無線通信機器も9.8%減。韓国の得意とする電子部品関連が減少している。
単に不況ということでなく、韓国製品がきびしいとの見方を韓国紙『中央日報』(6月29日)は伝える。
▼韓国電子業界の中国での実績は良くない。サムスン電子の昨年の中国での売上高は約30兆ウォン(約3兆円)と、2年前(約40兆ウォン)に比べ10兆ウォン減った。LG電子も同様だ。
▼北京市内や中国のテレビで、サムスンギャラクシー(スマートフォン)以外に韓国ブランドの広告はあまり見えない。総合家電販売店でもサムスンやLGの製品の売り場面積は毎年減っている。
▼サムスンやLG電子は「中国企業の低価格攻勢、中国政府による自国企業優遇」を言い訳とするが、オランダのフィリップスのように成功事例は存在する。中国企業が価格攻勢だけという話も正しくない。
政府主導で始まった食品輸出も、『中央日報』(8月24日)によると、6月に参鶏湯(サムゲタン)の中国向け輸出が始まったが、鶏肉と高麗人参などを煮込んだ韓国自慢の料理ではあるが、輸出量は開始後2カ月余りで25万ドル(約2504万円)にとどまった。
韓国産のコメも輸出要請から7年ぶりの今年初めに中国の地を踏んだものの、初の船積みから6カ月間で237トンの輸出にとどまった。今年の輸出目標は2000トンである。
2015年12月に5年ぶりに輸出が再開されたキムチも、農林畜産食品部によれば「年間100万ドルの輸出を」としていたが、2016年上半期は9万ドルどまり。目標の10%も超えられなかった。
世界銀行によれば、韓国の国内総生産(GDP)に占める輸出の比率は、2014年の時点で50.6%と極めて高い。日本の輸出依存度は16.2%(2013年)だ。
貿易低迷は輸出への依存度が高い韓国経済には特に大きな影響を与える。
韓国の有力紙が、「意図的にウォン安へと誘導するこれまでの」政府の政策について書いている。米財務省は韓国とともに、中国、ドイツ、台湾そして日本を為替監視対象に指定している。
ウォン相場について。2年前の2014年8月には1ドル=1000ウォン近辺だったウォン相場は、2016年2月には1200ウォン台まで下落していた。ウォン安は韓国の輸出を後押しするはずだが、足元の世界経済の不振でその効果は出ていない。
むしろ韓国経済の悪化を懸念した資本流出が心配になり、足元の資金繰りが不安になってきたことで、韓国側から日本に通貨スワップを打診したともいえる。
しかしながら、6月の英国の欧州連合(EU)離脱騒動を機に、ウォン相場は持ち直し、8月半ばには1ドル=1100ウォンを突破する程度までウォン高・ドル安となった。
だがそれはそれで、ウォン高による輸出産業への打撃を懸念する声が財界から起きる。
日本の財界も為替変動に一喜一憂するが、韓国の場合その日本とも比べ物にならないほど大きい。
韓国「経常黒字」の実態
韓国は国際金融不安が高まると、最も資本流出に見舞われやすい国の1つである。
それでも、経常収支の黒字が積み上がり、GDP比では実に8%に達した。今年6月の経常黒字は121億7000万ドルと、単月としては昨年6月の118億7000万ドルを上回り、過去最大となっている。
だが、この黒字の実態とは、輸出以上に輸入が落ち込んだことで、差し引きの黒字が拡大する「不況型の経常黒字」である。
いざという時のための世界第7位の3700億ドル強の外貨準備がある。だが、その中身はどうだろうか。
最も安全性が高く換金が容易な国債の比率は4割に満たない。
政府機関債が2割強、社債と資産担保証券(ABS)を合わせると3割になり、株式での運用も6%余りある。
これではいざという際に、役に立つか。
新興国からの資本流出が目立った昨年後半から今年初めにかけて、韓国の外貨準備運用に対しては、国際金融界からそうした疑問の声が高まった。
今年6月の韓国銀行の「年次報告書」は、89頁に釈明の注釈を載せている。「国際金融市場において、政府機関債やABSの流動性は、国債に匹敵する」。
しかしながら、リーマン・ショック前後の局面では、米国の政府機関債やABSの市場が凍り付いてしまった。
「社債は高格付けを持つ、優れた金融機関や企業発行のものにのみ投資しており、それ故にいざという際の売却が可能である」。
国際金融不安の際にまず二進も三進も行かなくなるのが、巨大金融機関である。
株式については、曰く「投資適格で、大半が上場企業」という。いざという際に売却できるという点では、株式の方がABSや社債よりは優れる。とはいえ、金融危機の際は株価が下がっていようから、換金のための売却となると大幅な損失を計上せざるを得ないだろう。
だから通貨スワップとなるが、中国などと結んだスワップはいずれも、自国通貨の交換に過ぎない。ドル資金の流出が止まらなくなった段になって、中国から人民元を借りても焼け石に水である。
米国の投資家はアジア通貨危機後の韓国に多大な投資をしているので、韓国経済がいざという際の歯止めが欲しい。ドルを刷っているのは米国なのだから、米財務省や連邦準備制度理事会(FRB)が何とかするかというと、彼らは焦げ付きのリスクは負わない。
そこで隣のアジアの国ということで、日本に「ホットポテト(厄介な問題)」を米国は渡したのであろう。
もう1つは、朴槿恵政権がせっかくTHAAD(高高度防衛ミサイル)の配備を容認したのだから、米国として韓国に経済面での報酬を与える必要があった。そこで担ぎ出されるのがアメリカにノーと言えない日本。
日本としては、日韓財務対話のプレスガイドライン(報道指針)のなかに、次のように書き込ませるほかなかった。
「韓国政府は、2国間の経済協力を強化すること、及び、その証として双方同額の新しい通貨スワップ取極(とりきめ)を締結することを提案した」
参照
http://www.fsight.jp/articles/-/41502

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