トランプを支持するわけではないが、テレビ討論ではトランプを不利に、クリントンを有利にする選挙不正がありそうに思われる。
それは大規模な投票操作などではなく、立候補者どうしの討論会では、司会者がトランプに対してより多くの糾弾型の質問を投げかけ、司会者がトランプと討論を始めてしまい、結果的にクリントンに加勢するというものである。
別に不思議ではない。米国のメジャーなマスコミのほとんどはクリントン支持、もしくはトランプへの反対を表明していて、政界の常識外の住人であるトランプは酷評され、クリントンに加勢する。
トランプの方が、悪いことを多くしているし、女性蔑視だし、第一「バカ」だから、マスコミなどがトランプに厳しいのは当然だという考え方も可能だが、見ている側がそれを「当たり前」の前提にしてしまっているのは、どうなのか?
トランプの方が悪く見えるのは、そういう前提で報道するマスコミを軽信しているからだと考えることもできる。
クリントン基金の不透明な資金集めより、トランプの女性関係の方が大きく報道されているのはちょっとおかしいと言えば、女性差別意識を持った男性だからだと批判される会話の文法構造も用意されているような雰囲気がある。
第二次大戦の終戦時、ロックフェラー家(CFR=外交問題評議会)など、当時の米国の上層部は、ロシアや中国と米国が対等な関係で世界を運営していく国連安保理の常任理事国(P5)に象徴される多極型の覇権体制を計画した。
だが、そこに戦時の国家予算で肥大化した軍部や英国、そしてマスコミなどからなる軍産複合体が形成されていた。
軍産複合体は、米欧と露中などが恒久対立する「冷戦構造」を樹立し、時に世界の「周辺部」で代理戦争を仕組む。米国の上層部は軍産複合体に席巻されている。軍人出身の共和党・アイゼンハワー大統領はそれを退任演説の中で警告した。
クリントン女史は、上院議員や国務長官の時代から、軍産の有能な代理人として活動し続け、オバマよりもずっと好戦的な国務長官として振舞ったため軍産から評価され、その政治力を使って大統領に当選しようとしているという。
だから軍産配下の勢力であるマスコミがこぞってクリントン支持なのだ。
これに対してトランプは、NATOや日米安保体制を批判したり、軍産が最大の敵とみなすロシアと協調するようなことを発言したりする。これは軍産から見て自分たちに楯突いて戦う姿勢を見せているように感じられる。
そのため、軍産傀儡の勢力(マスコミや議員の大半)から非難もされる。
とはいえトランプも、もし大統領になれば、軍産複合体は彼を抱き込んで自分の利益の代理人に仕立て上げるかもしれない。だが、強力な軍産複合体からの猛攻撃にもかかわらず、彼は自身の政治資金と、グローバル化によって取り残された「白人・ホワイトカラー・プロテスタント系」のまじめな有権者からかなりの支持を集めて維持している。
コアな支持者にとって、女性問題を使ったトランプに対する攻撃は、しだいに免疫をもたらし、トランプの支持者を減らす策略として全く有効でなくなっている。
トランプへの支持をやめたからといって、その有権者がクリントン支持に変わることはなく、棄権するだろう。
トランプが意外にも共和党の正式な大統領候補になって健闘しているのは、第二次大戦後、軍産に席巻されてきていたアメリカ政治の中枢の構造が垣間見えてしまったことを有権者のごく一部ではあっても、敏感に察知したからかもしれない。
メディアは海外での危機を煽り、大衆世論を動員して戦争への支持を盛り上げる。その陰に軍産複合体の仕組んだ陰謀がある。それはよく知られるようになった。
だが好戦策が劇的に失敗し、そのずさんな計画が暴露されることも増えた。イラクの大量破壊兵器の不存在が事前に明白だったのに、明らかな「ウソ証拠」(ニジェールウラン問題など)しか用意せず、大量兵器があることにして03年のイラク侵攻をやってしまった。
イラク侵攻は、米議員のほとんどや、CFRなどほぼすべての主要シンクタンクに支持されたものだった。ロシア、イラン、アサドに対する敵視も支持はされている。米国の上層部は全員が軍産にコントロールされているかのように見える。
だがそこには、熱烈な軍産支持者のように表面上は見せながら、実は軍産の策を過激にやって失敗させ、いずれ軍産が潰れるものと考えている人々が混じっているようにも見える。
トランプの意外な健闘からそのような感じを受けるのは、考え過ぎか???

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