これまで、民主党は女性に人気のない政党だったが、今回の選挙の勝利は、たぶん女性票を集めたことも勝因だったのかもしれない。
しかし、そのことをなかなか日本のメディアは分析しない。
「日本の選挙:歴史の潮流」(Japan’s election: the tides of history)というジェームス・C.フェレール(James C Farrer)さんの論考は、今回の民主党の勝利がアジアの民主主義に良い影響を与えるものであり、同時に日本の働く女性が民主党に期待の一票を投じたことを強調したものである。
http://www.opendemocracy.net/article/japan-s-election-the-tides-of-history
今回の選挙結果が、他のアジアへの「見本」となると結論することの当否は別にしても、中国や北朝鮮の一党制政治体制に少なからず影響を与えるという見方は、注目に値するかもしれない。
以下は、その要約である。
中国は、メディアが総じて鳩山政権の成立と、アジアのより大きな統合を彼が呼び掛けていることとを歓迎しているように、戦略的な関係改善の話し合いを有益なものとみなしている。
しかし、冷戦構造の中で形作られた日本の自由民主党という政治的産物の凋落は、中国の政権政党である共産党にとってもおぼろげな意味を帯びてくる。
実際、東アジアにとってこの選挙結果がもたらした結果は、民主党の勝利ということよりも、隣国の「一党制国家」の没落という点で重要な意味を持つ。
韓国、台湾、そして日本で複数政党制が機能しているということは、中国共産党が北朝鮮とともに、一党制を継続させているモデルとして言及されることを意味している。中国共産党にとって不愉快な事実は、中国内部の多くの人々が、日本の自民党の没落を一党支配がもたらす政治腐敗と停滞への国民投票であり、中国自身にとって明白な意味をもった判決と解釈しているということだろう。
この地域でアメリカの影響力が衰える中で、このような多元的民主主義のモデルが中国内部の政治的言説に影響を与えるものになるだろう。
この先の日本の内なる民主主義の発展は、この選挙の生み出した可能性が現実のものになるかどうかに大きな影響を与えるだろう。その兆候は混沌としている。鳩山由紀夫は4代目の政治家であり、彼の祖父は自民党を結党したし、父親は外務大臣を務めた。彼は少しも革命的ではない。他の自民党を率いる人々も似たような背景を持っている。
新しい内閣は、とって代わられた自民党の内閣とよく似ている。新内閣も同じような政治的エスタブリッシュメントで構成されていて、そこには前官僚も含まれており、その半分以上が東京大学出身者である。その平均年齢は、先に辞任した自民党内閣よりも高く、女性は二人しかいない。もっと多様なものを望む人々からはいささか失望を買った。特にジェンダーの多様性を望んだ人々からは。
しかし、経験なるテクノクラートを人選したメンバーは、鳩山自身のクソマジメなスローガンである「科学的な政治」というものを反映しており、民主党の大きな目標であるところの、選挙されていない官僚が政策形成を行うのではなく、政治家が主導する政治というものに従ったものである。
もしそれが成功すれば、その改革は日本の政治的な議論をもっと実のあるものにするだろうし、政策の決定とその結果に対する政治家の説明責任を強めることになるだろう。
この方向への動きは非常に望ましいものであり、必要とされているものでもある。しかし選挙が日本の政治的変化への大きな渇望を反映するものとするならば、結果として多くの有権者をして民主党に結集させた自民党への不満は、イデオロギー的な信念に根差したものではなく、日本を震撼させた大きな社会的な力から生まれたものだといえる。
その中の二つのものは、特筆に値する。第一に、日本の家族が(男性)一人の収入に依存していることから生まれる深刻な社会的影響である。それは出生率を低くし、家計消費を抑圧する。
これが日本社会の抱える根深い不安の根源にある。民主党の最も人気を呼んだ政策は、配偶者控除を廃止して家族を支援する意図を持った子供手当の創設である。
民主党の約束したその他の改革としては、公立の保育園や学校の予算を増額することである。日本はその他の先進国と比べて対GDP比でこの方面の予算が非常に少ない。
このことによって、日本では女性が家計の収入に貢献する機会が限られたものになっており、日本の経済と社会に横たわる深刻な問題になっている。子どもへの国家予算の投入を増やすこと、特に保育施設への増額は、多くの女性が働きながらより多くの子どもを育てることを可能にする。これが新しい政府に課せられた大きな挑戦となる問題である。
第二に、この選挙は貧富の格差が拡大していることを明らかにした。
貧困の拡大と、働く日本人たちにとっての経済の不安が、日本の有権者にとって切実な問題となった。民主党は、雇用を拡大してヨーロッパ式のセイフティーネットを作ることで経済危機の影響を最小限にすると約束した。
彼らが直面している最大の国内的な試練は、自民党が非生産的な公共事業プロジェクトに多額のお金をつぎ込んだために生じた巨額の負債の20年の後に、改革のための資金をねん出しなくてはならないということである。
つまるところ、この選挙は日本国内の政治プロセスを前進させるものであって、日本の働く人々、特に働く女性に大きな潜在的な利益をもたらすものである。日本における複数政党制による民主主義の出現は、アメリカの影響力が弱まる中でその他のアジアへの見本となるものになるだろう。

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