かなり前に出た本だが、「自爆する若者たち」(グナル・ハインゾーン、新潮社)というものがある。
著者はこの本で、「ユースバルジ」(Youth bulge)がテロ、戦争、暴動、内戦の発生に影響を強く与えると主張する。
ある国の人口構成を見るための「人口ピラミッド」という図を作成した際に、「外側に異様に膨らんだ部分」を”バルジ(膨らみ)”と表現するのだが、それが若年層である場合を「ユースバルジ」と言う。
「ユースバルジ」があるかどうかは、15〜24歳の人口構成比が突出しているかどうかだ。
テロ、暴動、内戦がおこる国は、このユースバルジが30%を超えているという。
パレスチナナのガザ地区、アフガニスタンは若者比率が40%にのぼるという。
中国は20%と、ほぼ先進国並み。一人っ子政策のためであるが、確かに結果として貧富の格差や人権問題、民主主義の欠如など、国内に問題が多々あっても、改革開放政策以降、「政治体制に変化はなかった。
日本でも、団塊世代が15〜24歳だったころ、確かにユースバルジのようなものが存在し、日本でも学生運動、連合赤軍事件がおこったし、欧米でも1960年代はこの時期だ。
若者の人口構成比が突出すると、世の中が不安定になるというのは、なんとなく理解できる。
ユースバルジの状態を示す国・民族は非常に不安定で危険な行動を起こす可能性が強いということになる。
ユースバルジというのは結局のところ、「次男・三男以下の男子」ということだ。
彼らは親の職業や地位をそのまま継ぐことはできないために、それをどこかに求める行動を取ろうとする。
歴史的にユースバルジの影響が最大だったのは、近代のヨーロッパだった。
停滞したと言われる中世の終わりにペストが大流行し人口が急減した。そのあとに人口の急増した時代がやってきた。
さらにちょうどそのころに堕胎や避妊、間引きなどを禁止するという傾向が強くなり、一気に人口が増えるという事態になった。
14世紀のペスト禍で7500万から4500万人まで減少した人口はその後急増に転じ、15世末には爆発的に増加した。
その当時のヨーロッパの一人の女性が一生に産む子供の数(合計特殊出生率)は5から6.5に達した。現在その値であるのはアフリカだけだ。
このようなヨーロッパの人口爆発はヨーロッパ各地での殺害を伴う騒乱を多数引き起こしただけにとどまらず、世界征服と植民地化というものにつながった。
ヨーロッパの世界征服はヨーロッパ人種特有の凶暴性によるものではなく、ユースバルジ、すなわち「くいっぱぐれの次男・三男以下の連中」が引き起こしたものだといえる。
日本でも明治以降、貧乏人の子沢山で6-7人兄弟と言うのが普通だった。
そしてそこからはみ出した人々が、政府や軍に踊らされて大陸や南方諸島、東南アジアに流れ出して戦争につながった。
現代のユースバルジはアフリカや中東、インドなどでまさに現在起きている。
だが、中国には存在しないしようだ。
いわゆる「イスラム国」などは、典型的なユースバルジで、しかもそれが国境を越えて欧米社会の中からも発生しているというか、一部が過激派として組織化されているのである。
もっとも、若者が多すぎるのは危険だとはいうものの、日本のようにあまりに急激な「老齢化」というのも変化する世界に全く対応できない国で、変革というものを極端に嫌う性質が染みついているということだから・・・

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