「ブラックバイト」で学生生活が破綻というケースが多い。
あるレストランでバイトをしていた20代の女性は、労働時間の取り決めがなく、月80〜90時間は働いた。時給に換算すると300円。シフトが入っていない日でも呼び出されることが何度もあり、夜の11時に店長から電話がかかってきて、『今すぐ店に来い!』と呼ばれる。
彼女は専門学校に通っていて、試験前に勉強していても『そんなヒマがあるなら店に来い!』と言われる。職場に行くのに難色を示すと『俺がこんなに大変なのにお前はわからないのか!』と怒鳴られ、彼女のバイト仲間の男性も過労死寸前まで働かされ、しょっちゅう殴られていた。
低賃金、正規雇用労働者並みの義務やノルマ、異常な長時間労働は、これまでも非正規労働者が直面してきた問題だが、最近は学生たちが、学業に支障をきたすなど『学生であることを尊重されない』アルバイトが多くなっている。
『ブラックバイト』は学生の教育を受ける権利を侵害して教育システム・人材育成システムを破壊する。
面接で、『週に5〜6日の勤務で大丈夫だよね』と言われたら、NOとは言えず、しかも契約書も何も結ばないから、テスト前であってもシフトに入れられて休ませてもらえない。成績が落ち、なかには退学や休学にまで追い詰められるケースもある。
企業の倫理欠如も問題であるが、学生が法律を知らないこと、そして企業がそれにつけ込んでいることもさらに深刻だ。
学校教育課程における労働者の権利の周知が致命的に不足している。
高校や大学で行われている『キャリア教育』は、企業や社会への『適応』ばかりを教え、『抵抗』を教えない。それがブラックバイトの被害者である学生たちを生み出している。
『辞めさせてくれない』というなら、法的には『2週間前までに辞意を伝える』だけでよい。賃金や残業代の未払いもそもそも違法。個人加盟の労組への相談や、労基署への通告で解決可能である。
ただし、労働法も知らない企業奴隷を育てる温床はなにかに関しては、さらに根深い問題がある。
高校が進学校であるほど、校則でアルバイト禁止だったので、アルバイトをしたことがない」という学生が多い。そもそも、制服や頭髪などは自由なのに「アルバイト禁止」は、おかしい。
ただし、いわゆる偏差値が高い学校ほどお金には不自由がないせいか、「アルバイト禁止」などという人権侵害と不当な奴隷的強要に関しては、抵抗したり、教師や学校を批判したりする動機も起こらないケースが多いようだ。
中程度の学力レベルの学校になれば、申請させて許可制という高校もある。ただし、教師に却下されるケースが多いと聞く。しかしながら、昨今では格差の拡大によって、経済的にアルバイトをせざるを得ない高校生は増えている。
ただし、家庭が経済的に比較的恵まれている一定以上の学力の高校では、受験と部活でがんじがらめにしておいて、アルバイトなどもさせないことで徹底的に生活を管理し、骨抜きにされた没主体性の若い男と女が、優秀な大学に送り込まれていく。
ブラックとグレーな大企業の悪徳人事屋に、かっこうの食い物にされるお坊っちゃん、お嬢ちゃんは、高校のバイト禁止校則によって供給されている。
文系学部の解体が批判されているが、資本の要請で労働経験が乏しく、労働三法など全く教えない、教わらない、自分で調べない学生が育成されてきたことが、人文、社会科学系の解体に先行してきたことを見る必要がある。(あっても、の字面をなぞるだけ?)
少なくない高校の教師や予備校講師は、全く憲法や労働三法などについて教えるどころか、教える能力もない。だから、高校生や予備校生に悪徳企業への注意を促すことなど考えもしない。
まず多くの教師が自分の体験からくる問題意識も動機もない。
仮に問題意識があったとしても、校長だの予備校管理職、あるいはクレーマー・ペアレンツなどへの屈従と恐怖心から、ブラックバイト問題など見ざる・聞かざる・言わざる状態なのだと思われる。
しかしながら、ブラックバイト問題などという言葉が生まれてくる時代となれば、高校教師や予備校講師にも、派遣労働とブラック企業に直接的にも間接的にも加担してきた責任が問われる。もちろん、大学教員も同様であろう。
ブラックバイトよりはよりソフトかもしれないが、「就活」という名の企業奴隷化に、大学がどれほど加担しているかは大学教員だったら知らない人はいないはずだ。
とはいうものの、一部の労働問題に関心のある教員を除けば、高校から予備校、大学まで講師や教員自身が、高校時代から「アルバイト禁止校則」で育てられてきた関係で、優秀な高校や大学に無事に就職した優秀な教諭や大学教員らは、自分の体験としてアルバイトも労働者もしたことがないという人がけっこういる。
参照
http://nikkan-spa.jp/870935
内海信彦 「2015年6月15日」

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