ニヤニヤと笑うもの
ブツブツ独り言を言うもの
おおーと怒鳴るもの
まさぐりあうもの
爪を噛みそれをぷいぷい吹きまくるもの
イタイイタイと泣き喚くもの
な、なんじゃこりゃー
わっ臭っ!すえた匂いが鼻を突く
どういうわけだ…わけわからん
わっ、触るなよ
掴むんじゃねぇったら
いつの間にこんな…
…そうだよ、祭り見に来たんだ
はぐれて…人ごみにまかれて…
ココドコナンダ?
ふと口をついて出た
ココハココデショ。
え?
声のほうを振り向くとキッシーだった。
ああ!キッシー!
知った顔でほっとした
これなんなんだよ、今さ、祭り見に来たんだけどさはぐれちまってよー、迷子みたいなんだよねー、いやーまあ会えてよかったよ、ってかここどこよ。
ナニ?オマエ
何ってなんだよー、キッシーここどこって聞いてんのー
ココハ、ココダロ。
はぁー?
ユメミテルノカ?
ココハココダ。
何を馬鹿なぁ…そんな…イテッ!
ごごごごごぉーーーー
その時大きく波打つように後ろから押された、
嘘のようなヒトの塊に身動きが取れなくなった。
たった一瞬で思うように首すら動かせないほどのヒトヒト。
キッシーの姿ももうどこに居るかわからなくなった。
ああ、せっかく会えたのに…それにしても様子が変だった。
どうもよそよそしいし口調もどことなくぎこちない。
何か隠してるのか?
いや、そんなことはどうでもいい話でまずはここから抜け出さなくては
早く戻ろう。
す、すいません、ちょっと…
お、おー!
イテーッ、また大波が来た。
どこにも隙間すら見当たらない。
なんてことだぁ
時折リズムのように押し寄せる大波にイテッ、どさくさまぎれかパンチを食らう。
おおー押すなっちゅううの!
…腹が立ったが所詮無駄な抵抗だ。
このモッシュに任せて動くしかないと観念し流れに乗る。
臭っさい空気に耐え口だけではあはあと息をしながらうつむき加減で歩く。
耳元で何かブツブツと聞こえてくるものがあった。
何言ってんだ?まるで念仏のようだ。
しかもそのフレーズはどこそこあたり一面を埋め尽くしていたのだった。
気持ち悪い、薄ら寒い気分になる。
早くここから出よう。
とにかく流れに逆らわず、ちょっとでも大またで歩幅を稼いでこの集団のTOP間で出よう。TOPまで出られさえすればそのときがチャンスだ。
駆け出せばいいんだ。
歩く歩く歩く。
それでも時々ヒトにこずかれイラつき、ならばと間隔をとるべく前のヒトの背を押してみる。そのために伸ばした腕に力を込めて。
上手くいった。ちょっとは息が楽になり視界が開けた気がした。その隙にささっと周りに目をやる。なんだ、みんなこんなふうにしてるんだ。
大きく体ごと振りかぶって、腕をぶんぶん振り回して、開いた隙間をすり足で埋めて、飛び跳ねて…
ふふ、考えるこたぁおんなじだな。みんな必死な形相だ。楽勝楽勝〜。
ニヤニヤスルナ、オエテカレルゾ!
怒鳴らてしまった。
やばい、そうだったんだ、あわせねば…
そうすることがいまやここから出られる唯一の方法なのだから。
す、スイマセン…
我慢した。
一歩、また一歩、更に一歩。慢心の力を込めて。
そんな風にしてどれだけの時間がたったのだろう。
果たしてどれだけ進んだんだろう。
相変わらず前なんてヒトしか見えないんだが、この塊のテンポというかが掴めて来たんだろう、さっきまでの苦痛は和らいでいた。そしてルーチンな動きを繰り返すうちにこの歩み自体が踊っているような、語っているような、そんな感覚にとらわれる。しかも不快ではない。神経を集中させ、より一層周りとの同調を図る。
するとそこに
ミテ、ワタシヲミテ。
それはさっきまでの呪文の意味だった。確かに感じる。
口に出し言葉でそういってるわけではないんだが見渡す限りのここらのヒトすべてからその言葉は発せられているのだった。
つづく

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