私は、こんな恐怖の日々を毎日送っているにもかかわらず、父は、どうして平気な顔で毎日生活しているのか、不思議でした。
何とも思わないのだろうか?
と、不思議だったのです。
そしてある日本当に父は、兄の暴力の事を何とも思っていなかったのだということを、決定づける出来事があったのです。
私は恐怖で常に毎日心臓をドクドクさせて生活している状態でした。母を悲しませないため、その理由を家族に知られるわけにはいきませんでした。
でも本心ではその理由を知って欲しいと強く思っていたのです。
その結果ある時
「心臓がいつもドキドキするの」
と、その事だけを、やっとの思いで両親に話したのでした。
「どうしたんや?心臓でも悪いのか?」、
医者に見てもらったらどうかと、いう事に成り行きでなってしまったのです。
本当の事を言えるわけもなく、
「兄の暴力の恐怖にいつも怯えているからドキドキするだけで、調べたって分かるわけがないじゃない」
と、投げやりな気持になっていました。父にある医者へ連れて行かれました。
聴診器、心電図などとられ、当然のごとくどこも悪くはありませんでした。
お医者さんは、
「心臓がドキドキなぁ・・・なんか話せない悩みでもあるのかな?」
私はビクッとして
「・・・いえ別に・・・」「学校でいじめにあっているとか、そんな事はない?」
「ありません・・・」(本当の事を話したい話したい。でも話せない、助けて)
と心の中で叫んでいました。
その時です。すかさず、父が信じられない事を口にしたのです。
「学校も楽しく何の問題もなく、通っているようですよ。いつも楽しそうですし、家も何の問題もない平穏無事な家庭ですから、幸せじゃないかな」
と・・・父もひょっとしたら、兄の状態を、心の中では悩んでいるのかもしれないと、淡い期待を持っていただけに、強い衝撃を受けました。頭を思いっきり殴られたような思いでした。
「何の問題もない。何の問題も無い。何の問題も無い。・・・・」
この言葉が頭の中を共鳴していました。お医者さんはその後、肩に手をやり、
「カチカチに凝っているなぁ、肩こりからくるドキドキやな、肩こり治す筋肉注射しておこう、肩こりの運動とかすると、きっとドキドキも治っていくから」
と、結論づけたのでした。私は空しくなりました。家に帰って母に、結果を尋ねられ、
「なんともなかった」
とだけ答えたのですが、後で父に、
「肩こりが原因だと言ってはったやろ、お母さんにちゃんと教えたらんなあかんやろ」
と怒られたのです。
「そんなん大嘘やんか、そんな大嘘言われへんわ、ドキドキするなんて言わんかったらよかったわ。何が肩こりからくるドキドキやねん、なんで、お父さんは、お兄ちゃんの暴力が平気やの?何でやのん?なんで何とも思わへんの?お母さんの事大事と違うの?」
と心で叫び続けていました。

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