2012/2/16  1:20

フリマ中止を巡る未来塾側と安中市・岡田市長とのバトル・・・逆転劇となった東京高裁での攻防(資料編)  安中フリマ中止騒動

■控訴人の未来塾が高裁に提出した控訴理由書の残りの部分を掲載しています。


※参考資料
【控訴人未来塾・代表者の控訴理由書その4】
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(5) 本件放送
 Y社は,平成11年2月1日午後10時以降の約16分間,本件番組において,「所沢ダイオキシン 農作物は安全か?」「汚染地の苦悩 農作物は安全か?」と題する所沢産の野菜のダイオキシン類問題についての特集に係る本件放送を行った。
 本件放送は,その前半において録画映像を.後半においてDキャスターとC所長との対談を放映した。その内容は,要約すると,前半の録画映像部分においては,@ 所沢市には畑の近くに廃棄物の焼却炉が多数存在し,その焼却灰が畑に降り注いでいること,A A市農協は/所沢産の野菜のダイオキシン類の分析調査を行ったが,農家や消費者からの調査結果の公表の求めにもかかわらず,これを公表していないこと,B 所沢市の土壌中に含まれるダイオキシン類濃度を調査したところ,その濃度は,ドイツであれば農業が規制されるほど高く(注14),また,かつてイタリア北部の町セベソで起きた農薬工場の爆発事故(注15)の後に農業禁止とされた地域の汚染度をも上回っていることなどであり,後半の対談部分においては,C B研究所が所沢産の野菜を調査したところ,1g当たり0.64〜3.80pgTEQのダイオキシン類が検出されたこと(本件要約部分),D その結果は,全国の野菜を対象とした調査結果に比べて突出しており,約10倍の高さであること,E 所沢市周辺のダイオキシン類による大気汚染濃度は,我が国の平均よりも5〜10倍高く,我が国のダイオキシン類による大気汚染濃度は,世界よりも10倍高いこと,F 体重40 kgの子どもが所沢産のほうれん草を20〜100 g食べた場合にWHOが定める耐容1目摂取量である体重1kg当たり1pgTEQの基準を超えること等であった。
 このうち,上記Cの本件要約部分等に係る放送において,Dキャスターは,C所長との対談0冒頭部分で,C所長を5年前から所沢市の汚染を調査しているB研究所の所長であると紹介し,今夜は,B研究所が所沢市の野菜のダイオキシン類汚染の調査をした結果である数字を,あえて本件番組で発表するとした上で,本件フリップを示して「野菜のダイオキシン濃度」が「所沢(B研究所調べ)0.64〜3.80ピコg/g」であると述べ,上記対談の中で,C所長は,本件フリップにある「野菜」が「ほうれん草をメインとする所沢産の葉っぱ物」である旨の説明をしたが,その際,その最高値である「3.80ピコg/g」が煎茶についての測定値であることを明らかにせず,また,測定の対象となった検体の具体的品目,個数及びその採取場所についても,明らかにしなかった。さらに,C所長は,上記対談の中で,ほうれん草等の葉っぱ物は,ガス状のダイオキシン類を吸い込んで菜の組織の一部に取り込んでいること,所沢産の野菜のダイオキシン類濃度は,調べた中では突出して高いこと,体重40 kg ぐらいの子供が所沢産のほうれん草を20〜100 gぐらい食べるとWHOの耐容1日摂取量に達することなどを指摘して,主にほうれん草を例として挙げて,ほうれん草をメインとする所沢産の葉っぱ物のダイオキシン類汚染の深刻さや,その危険性について説明した。

【甲第58号証】
(6) 本件放送後の事情
ア 本件放送の翌日以降,ほうれん草を中心とする所沢産の野菜について,取引停止が相次ぎ.その取引量や価格が下落した。
イ 埼玉県知事は,平成11年2月4日,記者会見を開き,所沢産野菜等のダイオキシン類調査を実施することを表明し,翌5日,庁内対策会議を設置した。また,埼玉県は,同日,Y社とB研究所に対し,本件放送内容に関する資料の提供を要請した。
ウ A市農協は,平成n年2月9日,所沢産のほうれん草(出荷状態)から検出されたダイオキシン類(コプラナーPCBを除く。)が1g当たり0.087〜0.71pgTEQであり,里芋からは検出されなかったことを明らかにした。
エ B研究所は,平成11年2月17日,埼玉県からの資料提供0要請に応じ,同県知事に対し,本件放送のもとになった自主調査研究の中間報告書を提出した。
オ Y社は,平成11年2月18日,埼玉県が上記中間報告書の内容を公表したのを受けて,本件番組において,本件放送でダイオキシン類の濃度が1.g当たり3.80pgTEQもあるとされた検体が所沢産の煎茶であることを明らかにし,所沢市内のほうれん草生産良家に迷惑をかけたことを謝罪した。
 その後,郵政大臣は,Y社に対し,報道に不正確な表現があったとして,厳重注意の行政指導をした。
カ 環境庁,厚生省及び農林水産省が,平成11年2月16日から所沢市周辺を対象に野菜等のダイオキシン類調査を行ったところ,所汎産のほうれん草(出荷状態)から1g当たり0.0086〜0.18pgTEQ,平均0.051pgTEQのダイオキシン類が検出され,また,埼玉県も同じころ同様の調査を行ったところ,所沢産のほうれん草(出荷状態)から1g当たり0.0081〜0.13 pgTEQ,平均0,046 pgTEQ のダイオキシン類が検出され,同年3月,これらの調査結果が公表された(注16)。
キ その後,ダイオキシン類対策特別措置法,同法施行令,同法施行規則,ダイオキシン類対策特別措置法に.基づく廃棄物の最終処分楊の維持管理の基準を定める省令等のほか,埼玉県公害防止条例の一部を改正する条例,所沢市ダィオキシン類の汚染防止に関する条例等が公布・施行され,大気中に排出されるダィオキシン類の総量規瓢小型焼却炉・野焼きの規制等が行われるようになった(注17)。
3 第1,2審の判断(注18)
 第1審(さいたま地判平成13・5・15)も,原審(東京高判平成14・2・20)も,Xらの請求を棄却すべきものとした。原判決の理由の要旨は,次のとおりである。
(1) 本件放送は,一般の視聴者にほうれん草等の所沢産の葉物野菜の安全性に対する信頼を失わせ,所沢市内において各種野菜を生産するXらの社会的評価を低下させ,Xらの名誉を毀損したものと認められる。
(2) 本件放送は,野菜等無産物のダイオキシン類の汚染実態やダイオキシン類摂取による健康被害等についての多数の調査報告を取り上げ,ダイオキシン類の危険性を警告しようとするものであり,その関係において所沢産の野菜のダイオキシン類の汚染の実態についての調査結果を報道するものであるから,そのこと自体は,公共の利害に関するものであることが明らかである。
 また,Y社の報道機関としての社会的使命及びダイオキシン類問題に関する従前からの取組等を勘案すると,本件放送は,専ら公益を図る目的で行われたものと認めることができる。
(3)ア 本件放送で摘示された事実のうち,本件要約部分を除く部分については,その重要な部分がすべて真実であると認められる。
 イ 本件要約部分に.ついては,所沢産の野菜のダイオキレン類濃度として摘示された測定値「0.64〜3.80 pg TEq」のりち,「0,64pgTEq」は,B研究所が調査した所沢産のほうれん草から検出された数値であるが,「3.80 pgTEQ」は,B研究所が調査した所沢産の煎茶から検出された数値であって野菜から検出された数値ではないから,B研究所の調査結果のみによって上記摘示された事実が真実であることは証明されていない。
 しかし,宮田教授らの前記調査により所沢産の白菜(1捨鉢)からlg当たり3.4pgTEQのダイオキシン類(コプラナーPCBを除く。)が検出されており,コプラナーPCBを含めた場合のダイオキシン類濃度は,これを含めない場合の約1.1〜1.3倍になると認められ右から,上記白菜のダイオキシン類の濃度は,コプラナーPCBを含めれば,1g当たり3.80pgTEQに匹敵することになり,本件放送当時,所沢産の野菜の中に1g当たり3.80 pgTEQのダイオキシン類を含むものが存在したことは真実であると認められる。
 そして,3.80pgTEQのダイオキシン類の濃度を示す所沢産の野菜が,B研究所の調査に係るものであるか,他の調査に係るものであるかという点は,それが所沢産の野菜の安全性に関する理解を根本的に左右するに至るまでのものではなく,ダイオキシン類による農作物の汚染の実態及びそれによる人体への健康影響を明らかにしようとする上で,所沢市で栽培された野菜から高濃度のダイオキシン類が検出されたという調査結果があることを報道することが本件放送の趣旨であることにかんがみれば,本件放送による報道において提示された事実の主要な部分に当たらないというべきである。そうすると,本件要約部分については,所沢産の野菜から1g当たり3.80 pgTEQのダイオキシン類が検出されたとの重要な部分につき真実性の証明があったと解するのが相当である。
 ウ したがって,本件放送にlより摘示された事実については,その重要な部分がすべて真実であると認められるから,本件放送による名誉毀損については,違法性が阻却され,Y社のXらに対する不法行為は成立しない。
 4 Xらから上告受理申立て。
第2 上告受理申立て理由と本判決
1 上告受理申立て理由
 所論は,本件要約部分について,その重要な部分が真実であると証明されたとした原審の判断の法令違反を主張するものである。
2 本判決
 本判決は,論旨を容れ,次のとおり説示して,原判決のうちXらのY社に対する請求に関する部分を破棄し,同部分につき本件を原審に差し戻した。
(1) テレビジョン放送をされた報道番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについての判断基準
 「新聞記事等の報道の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては,一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであり(新聞報道に関する最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照),テレビジョン放送をされた報道番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについても,同様に,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべきである。」
(2) テレビジョン放送をされた報道番組によって摘示された事実がどのようなものであるかについての判断基準
 「テレビジョン放送をされた報道番組によって摘示された事実がどのようなものであるかという点についても,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断するのが相当である。テレビジョン放送をされる報道番組においては,新聞記事等の場合とは異なり,視聴者は,音声及び映像により次々と提供される情報を瞬時に理解することを余儀なくされるのであり,録画等の特別の方法を諧じない限り,提供された情報の意味内容を十分に検討したり,再確認したりすることができないものであることからすると,当該報道番組により摘示された事実がどのようなものであるかという点については.当該報道番組の全体的な構成,これに登場した者の発言の内容や,画面に表示されたフリップやテロップ等の文字情報の内容を重視すべきことはもとより,映像の内容,効果音,ナレーション等の映像及び音声に係る情報の内容並びに放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して,判断すべきである。」
(3) 本件放送について0真両性の証明の有無
ア 本件摘示事実及びその重要な部分
 「本件放送中の本件要約部分等は,ほうれん草を中心とする所沢産の葉物野菜が全般的にダイオキシン類による高談度の汚染状態にあり,その測定値は,B研究所の調査結果によれば,1g当たり『0.64〜3.80 pgTEQ』であるとの事実を摘示するものというべきであり,その重要な部分は,ほうれん草を中心とする所沢産の葉物野菜が全般的にダイオキシン類による高談度の
汚染状態にあり,その測定値が1g当たり『0.64〜3.80 pg TEQ』もの高い水準にあるとの事実であるとみるべきである。
イ 本件摘示事実の重要な部分について,原審確定事実によって真実であることの証明があるといえるか。
 「B研究所の調査結果は,各検体1g当たりのダイオキシン類(コプラナーPCBを除く。)の測定値が,せん茶(2検体)は3.60pgTEQ及び3.81 pgTEQであり,ほうれん草(4検体)は0.635 pg TEQ,0.681 pgTEQ,0.746pgTEQ及び0.750 pg TEQ であり,大根の葉(1検体)は0.753 pgTEQであったというのであり,本件放送を視聴した一般の視聴者は,本件放送中で測定値が明らかにされた『ほうれん草をメインとする所沢産の葉っぱ物』にせん茶が含まれるとは考えないのが通常であること,せん茶を除外した測定値は0.635〜0.753pgTEQであることからすると,上記の調査結果をもって,本件摘示事実の重要な部分について,それが真実であることの証明があるといえないことは明らかである。また,本件放送が引用をしていない宮田教授らが行った前記調査の結果は,『所沢産』のラベルが付けられた白菜(1検体)から1g当たり3.4pgTEqのダイオキシン類(コプラナーPCBを除く。)が検出され,所沢市内で採取されたほうれん草(1検体)から1g当たり0.859 pg TEQのダイオキシン類が検出されたというものである。前記の本件摘示事実の重要な部分は,ほうれん草を中心とする所沢産の葉物野菜が全般的にダイオキシン類による高濃度の汚染状態にあり,そり測定値が1g当たり『0.64〜3.80pgTEQ』もの高い水準にあることであり,一般の視聴者は,放送された葉物野菜のダイオキシン類汚染濃度の測定値,とりわけその最高値から強い印象を受け得ることにかんがみると,その採取の具体的な場所も不明確な,しかもわずか1検体の白菜の測定結果が本性病示事実のダイオキシン類汚染濃度の最高値に比較的近似しているとの上記調査結果をもって,本件摘示事実の重要な部分について,それが真実であることの証明があるということはできないものというべきである。したがって,原審の確定した前記の事実関係の下において,本件摘示事実の重要な部分につき,それが真実であることの証明があるとはいえない。」
(4) 結 論
 「以上判示したところと異なる見解に立って,本件摘示事実の重要な部分につき,宮田教授らによる上記調査の結果をもって真実であることの証明があるものとして,名誉毀損の違法性が阻却されるものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中XらのY社に対する請求に関する部分は破棄を免れない。そして,本件については,本件摘示事実による名誉毀損の成否等について更に審理を尽くさせる必要があるから,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。」
(5) 泉裁判官の補足意見
 「本件事案において,所沢市の農家の人々が損害を被ったとすれば,その根源的な原因は,所沢市三富地区・くぬぎ山周辺地区を中心に乱立していた廃棄物焼却施設にある。……本件放送を含む上記一連の報道は,所沢市の農家も被害を受けている廃棄物焼却施設に焦点を合わせ,これを規制してダイオキシン類汚染の拡大を防止しようという公益目的に出たものであり,立法措置を引き出す一因となってその目的の一端を果たし,長期的にみれば,これらの立法措置によりダイオキシン類汚染の拡大の防止が図られ,その生活環境が保全されることとなり,所沢市の農家の人々の利益類護に貢献するという面も有している。本件放送がせん茶のダイオキシン類測定値を野菜のそれと誤って報道した部分については,本件放送が摘示する事実の重要部分の一角を構成するものであり,これを看過することができないことは,法廷意見が説示するとおりであるが,上記部分は本件放送の一部であり,本件放送自体も,廃棄物焼却施設の規制等を訴えてY社が行った一連の特集の一部にすぎないこと,そして,前記のとおり,所沢市の農家の人々が被害を受けたとすれば,その根源的な原因は,上記一連の報道が繰り返し取り上げてきた廃棄物焼却施設の乱立にあることにも,留意する必要があると考える。国民の健康に被害をもたらす公害の源を摘発し,生活環礁の保全を訴える報道の重要性は,改めて強調するまでもないところである。私も,法廷意見にくみするものではあるが,Y社の行った上記一連の報道の全体的な意義を評価することに変わりないことを付言しておきたい。」
第3 説 明
1 はじめに
 本件は,テレビ報道について,真実性の証明の対象となる摘示事実がどのようなものであるかという点が争われた事件であり,本判決は,この点について,最高裁として初めて判断基準を示したものである。
2 新聞記事と名誉毀損
(1) 名誉毀損の判断基準
 名誉毀損は,人の品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させる行為であり,それが事実を摘示するものであると意見ないし論評を表明するものであるとを問わない(大判明治43・11・2民録16輯745頁,最三小判平成9・5・27@民衆51巻5号2024頁等。なお,民法723条にいう名誉の意義につき,最二小判昭和45・12・18民衆24巻13号2151頁参照)。新聞記事による名誉毀損にあっては,これを掲載した新聞が発行され,読者がこれを閲読し得る状態になった時点で,損害が発生する(前掲最三小判平成9・5・27@)。
 そして,新聞記市の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては,一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきである(最二小判昭和31・7・20民衆10巻8号1059頁。以下「昭和31最判」(注19)という。)。
(2) 真実性の法理・相当性の法理・公正な論評の法理
ア 真実性の法理・相当性の法理
(ア) 事実を摘示しての名誉毀損については,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合において,摘示された事実の重要な部分が真実であると証明されたときは,その行為には違法性がなく,仮に真実であることの証明がされなくても,その行為者がその重要な部分につき真実であると信じたことに相当の理由があるときには,その放恣又は過失が否定され,不法行為は成立しない(最一小判昭和41・6・23民衆20巻5号1118頁,最一小判昭和58・10・20判例時報1112号44頁)。
(イ) 「人の噂であるから真偽は別として」という表現を用いて名誉を毀損する事実を摘示した場合,事実の証明の対象となるのは,風評そのものが存在することではなく,その風評の内容たる事実の真否である(注20)(最一小判昭和43・1・18判例時報510号74頁参照)。
(ウ) 裁判所は,名誉毀損に該当する事実の真実性につき,事実審口頭弁論終結時においてその事実の客観的な存否を判断すべきであり,その際に名誉毀損行為の時点では存在しなかった証拠を考慮することも許される(注21)(最三小判平成14・1・29判例時報1778号49頁)。
イ 公正な論評の法理
 特定の事実を基礎とする意見ないし論評の表明による名誉毀損については,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に.おいて,その意見ないし論評の前提としている事実の重要な部分が真実であると証明されたときには,その衷明の内容が人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない阻り,その行為は違法性を欠き,仮に真実であることの証明がされなくても,その行為者がその重要な部分につき真実であると信じたことに相当の理由があるときには,その故意又は過失が否定され,不法行為は成立しない(注22) (最二小判昭和62・4・24民集41巻3号490頁,最一小判平成元・12・21民集43巷12号2252頁,最三小判平成9・9・9民集51巻8号3804頁)。
ウ 名誉毀損の成否が問題となっている新聞記事における事実の摘示と意見ないし論評の表明との区別
 名誉毀損の成否が問題となっている新聞記事が,意見ないし論評の表明に当たるかのような語を用いている場合にも,一般の読者の普通の注意と読み方とを基準に,前後の文脈や記事の公表当時に読者が有していた知識ないし経験等を考慮すると,証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張するものと理解されるときは,その記事は,その事項についての事実の摘示を含むものというべきである(前掲最三小判平成9・9・9)(注23)。
 なお,名誉毀損の成否が問題となっている法的な見解の表明について,「法的な見解の表明モれ自体は,それが判決等により裁判所が判断を示すことができる事項に係るものであっても,そのことを理由に事実を摘示するものとはいえず,意見ないし論評の表明に当たる」とされた(注24)(最一小判平成16・7・15民集58巻5号1615頁)。
3 テレビ報道と名誉毀損
(1) テレビジョン放送をされた報道番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについての判断基準
 前記のとおり,本件は,テレビ報道について,真実性の証明の対象となる摘示事実がどのようなものであるかという点が争われた事件であるが,本判決は,その判断基準を示す前提として,まず,テレビジョン放送をされた報道番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについての判断基準を示した。
 すなわち,本判決は,新聞記事の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきであるとした昭和31最判を引用した上で,「テレビジョン放送をされた報道番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべきである」旨判示した。昭和31最判の示した基準は,その後の最高裁判決においてしばしば引用され,新聞記事等による名誉毀損成否の基準を示すものとして,確立した判例となっている(注25)。この判断基準は,報道により人の社会的評価が低下したか否かは,当該報道の受け手の一般的な受け取り方を基準として判断すべきことをいうものと解されるから,新聞報道等の印刷(活字)メディアのみならず,テレビ報道等の放送メディアについても,あてはまるものと解される。本判決は,このような考えに基づき,上記のとおり判示したものと考えられる。
 これまで,テレビジョン放送による名誉毀損の判断基準を示した最高裁判例はなく,本判決は,最高裁として,初めての判断を示したものである。
(2) テレビジョン放送をされた報道番組によって摘示された事実がどのようなものであるかについての判断基準
ア Xらの主張及び原審の判断
(ア) Xらの主張
 Xらは「テレビ報道は,視聴者に対し,画面に映し出された映像という最も鋭敏な感覚である視覚に訴えかける方法によって,その内容を強く印象づけることが可能であり,同時に,効果音という聴覚に訴えかける方法によって,視聴者に対し,番組製作者の意図に合わせた疑惑や衝撃を惹起させることが可能であるから,その摘示事実の認定は,上記テレビ報道の特性を考慮して行わなければならない。したがって,テレビ報道における名誉毀損の成否が問題になる場合には,ナレーション,映像,効果音,編集による放送内容の順番等を併せ考慮した番組全体から,一般視聴者の普通の注意と普通の知識に基づいて,その受けた印象を認定すべきであり,テレビ報道では,テレビ局側が意図的に一般視聴者に対して与えた印象が,摘示事実であり,主要事実となる。与えた印象は,必ずしも明示に表現されている必要はなく,暗喩や推論や伝聞の形式,若しくは,前後の文脈から受け止める内容で足りる。」などと主張していた。
(イ) 原審の判断
 原審は,「テレビ報道は,新聞,雑誌等の記事による報道に比べ,テレビ局がナレーション,映像,効果音,編集等を工夫することにより,視聴者が受ける印象が著しく異なるものになることがあり得る。しかし,名誉毀損の真実性の立証の対象となる事実ないし論評がどのようなものであるかは,報道機関の表現行為に重大な影響を与えるため,明確なものでなければならない。一般視聴者がテレビ報道を視覚と聴覚でとらえたことによって受ける印象は,千差万別であって,これを客観的に分類ないし識別したり,その内包と外延とを客観的に定義づけたりすることはほとんど不可能事に属するから,テレビ報道の印象というものを真実性の立証の対象とすると,立証の対象事項が極めて不明確になることは明らかであり,ひいてはテレビ局の報道による表現行為を客観的な基準なく著しく規制することになりかねない。したがって,テレビ報道においても,このような印象そりものではなく,映像により画面に映し出された事実,ナレーションの内容,アナウンサーや出演者の発言,画面上のテロップ等によって明確に表示されたところから一般視聴者が通常受け取る事実ないし論評が,真実性の立証り対象となると解するのが相当である。」旨の判断をしていた。
イ 下級審の裁判例
 この問題については,これまで最高裁の判例はなく,テレビジョン放送に関する下級審の裁判例には次のようなものがあった(注26)。判決の'説示の中には,テレビジョン放送による名誉毀損の判断基準をいうものもあるが,実質において,テレビジョン放送により摘示された事実が何であるかの判断基準をいうものとも解されるものである。
@ 東京地判平成6 ・11・11判例時報1531号68頁
 テレビ放送は,ブラウン管を通して流される影像及びこれと連動したスピーカーからの音声を情報伝達の手段とするものであって,新聞,雑誌などの活字のメディアと異なり,その情報の受け手である視聴者は,通常その内容を保存しこれを繰り返し見て吟味するということをせず,流された情報を瞬時にとらえてその内容を判断するものであるから.このテレビ放送の内容に上がった何人かの名誉が毀損されたものといえるかどうかは,一般視聴者がその放送を一見して通常受けるであろう印象によって判断すべきである。
A 大阪地判平成7・11・30判例時報1575号85頁
 ドキュメンタリー番組の放送によって名誉が毀損されたか否かについては,一般視聴者が通常テレビをみるときに払う注意・関心の程度を基準として,-一般視聴者がその番組で個別的に摘示された事実及び番組全体から受け取る事実ないし批判論評について,それが原告らの社会的評価を低下させるものであるか否かによって判断すべきである。
B 東京地判平成8・3・25判例タイムズ935号189頁
 テレビ放送が他人の名誉を毀損するものであるかどうかは,一般の視聴者が,当該放送を通常の注意をもって視聴した場合に,構成等を含めた当該放送内容全体から受けるであろう印象を基準として判断するのが相当である。
C 東京地判平成8・7・30判例時報1599号106頁(注27)
 放送において,その内容が名誉毀損にあたるかどうかは,一般視聴者を基準として,放送において取り上げられた者の社会的評価がその放送によって低下するかどうかという視点で判断されるべきである。
D 東京地判平成10・3・4判例タイムズ999号270頁(注28)
 本件テレビ放映が,原告の名誉を毀損するか否かの判断をするにあたっては,一般視聴者の通常の注意と理解の仕方を基準として,放映内容が名誉毀損事実の存在を視聴者に印象づける内容のものであるか否かを検討すべきである。
E 東京地判平成10・6・19判例時報1649号136頁
 テレビ放送の視聴者は,新聞や雑誌等の場合と異なり,情報を十分に検討する時間的余裕なく,映像又は音声の形で流された情報を受領しながら,瞬時の検討を余儀なくされるのであり,その後の情報受領過程で,一旦受けた印象を払拭することは必ずしも容易でなく,むしろ,その印象を前提とした上で,さらに新たな情報を受領し,判断資料に組み入れていくのである。テレビ放送のかかる特性に艦みれば,ある放送部分が他人の名誉を毀損するか否かの判断においては,当該放送部分の吟味とともに,その前後の放送内容をも併せ考慮した上で,一般視聴者を基準として,当該放送部分が,他人の社会的評価を低下させるかどうかを検討すべきである。
F 東京高判平成14・2・27判例時報1784号87頁
 本件各放送は,たとえその番組全体を批評者に近い目で慎重に視聴して冷静かつ合理的な判断をすれば別の意味内容に解されないことはないとしても,いやしくも一般視聴者を対象として放送されているものである限り,その普通の注意と見方を基準として判断される意味内容及びそれによって形成される印象に従う場合,その放送が事実に反し名誉を毀損するものと認められる以上,これをもって名誉毀損の報道と判断すべきことぱ当然である。
ウ 本判決
(ア) 本判決は,テレビジョン放送をされた報道番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべきであるとの上記(1)の判断基準を踏まえ,「テレビジョン放送をされた報道番組によって摘示された事実がどのようなものであるかという点についても,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断するのが相当である」と判示した。
 昭和31最判は,当該報道の受け手の一般的な受け取り方が名誉毀損の成否の基準となる旨を説くものと解されるから,この考え方に従えば,報道により摘示された事実がどのようなものであるかについても,当該報道の受け手の一般的な受け取り方を基準として判断すべきものと考えらる(注29)。本判決は,このような考え方に立って,テレビジョン放送をされた報道番組によって摘示された事実がどのよりなものであるのかは,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべき,ものと判示したものと考えられる。
(イ) 本判決は,その上で,この判断基準を数行し,当該報道番組によって摘示された事実がどのようなものであるかについては,当該番組の全体的構成,出演者の発言内容,フリップやテロップ等の文字情報の内容を重視し,映像及び音声に係る情報の内容や放送全体から受ける印象等を総合的に考慮して判断すべき旨を説示した。
 これは,第1に,テレビ報道においても,あくまで言語として表現された出演者の発言内容や文字情報を重視すべきであると説くものであり,番組の全体的構成や言語による表現によっていかなる事実が摘示されたのか(一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準としていかなる事実が摘示されたと受け取られるのか)をまず探り,これを重視すべきであるとしたものである。しかし,他方で,「視聴者は,音声及び映像により次々と提供される情報を瞬時に理解することを余儀なくされ……録画等の特別の方法を講じない限り,提供された情報の意味内容を十分に検討したり,再確認したりすることができない」というテレビジョン放送の特性にかんがみて,一般の視聴者が映像・音声・放送内容全体から受ける印象等をも総合考慮すべきであるとした。これは,たとえ録画して繰り返し見れば別個の事実が摘示されたものと見られなくはないものであるとしても,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準とすれば,映像・音声・放送内容全体から受ける印象等によって異なる見方,受け取り方がされることが通常でもあることから,このような印象等も総合考慮して,摘示事実が何かを判断すべきことを説くものと考えられる。
(ウ) Xらは,前記のとおり,「番組全体から一般視聴者の受けた印象そのものが摘示事実である」旨の主張をしていたが,本判決は,このような見解を採るものでないことが明らかであろう。そして,原判決は,「テレビ報道においても,印象そのものではなく,映像により画面に映し出された事実,ナレーションの内容,アナウンサーや出演者の発言,画面上のテロップ等によって明確に表示されたところから一般視聴者が通常受け取る事実が摘示事実である」旨の説示をしていたが,この説示の趣旨は,本判決とそう異なるものではないように思われる(前記ア(イ)の原判決の説示中には,Xらの主張を排斥するに急な余り,やや行き過ぎた表現が見られないではないが,原判決は,印象を完全に排除せよとまでいうものではないであろう。)。
 また,下級審の裁判例も,テレビ報道の特色を考慮して,その摘示事実をとらえるべき旨を説示しており,本判決は,これらの下級審裁判例の考え方の流れにも沿うものと思われる(もっとも,これらの下級審裁判例の説示の中には,印象そのものが名誉毀損を構成するかのごとく読めなくはないものもあり,その真意はともかくとして.措辞としてやや不適切といわざるを得ないであろう。)。
(エ) 本判決は,テレビ報道による摘示事実がどのようなものであるかという点についての判断基準を,最高裁として初めて示したものである。
 そして,この判示は,報道等による摘示事実がどのようなものであるかという点は,メディアの種類等により,そのメディアの受け手の一般的な受け取り方を基準として,そりメディアの特性を踏まえて判断すべきことを示すものということができる(注30)。
(3) 本件放送へのあてはめ
ア 原審の判断
 原審は,まず,上記(2)アのXらの主張について,「本件放送は,所沢市周辺に荏在する数多くの廃棄物焼却炉とその操業中の光景,ダイオキシン類に対する不安を訴えている一部住民らの声,A市農協がダイオキシン類の濃度に関する分析調査結果を公表しないことによる関係住民の不安,所沢及びその周辺の土壌中や大気中に含まれるダイオキシン類の濃度が高い旨の調査結果があることについての感想等の相対的,主観的事実を順次積み上げてC所長とDキャスターの対談に至り,その間疑惑ありげな状況をうかがわせるナレーション,効果音,テロップ,フリップ等を用いるなどの番組制作上の工夫をしていることからすると,一般視聴者に対し,所沢産の野菜が広くダイオキシン類に汚染されており,それを摂取することにより健康被害が発生するおそれがあるという印象を与えるものであることは否定できない。しかし,上記印象をもって真実性立証の対象となる事実に当たるとの見解は,直ちには採用することができない。」とした。その上で,上記(2)ア(イ)の判断基準を本件にあてはめて,「本件要約部分の真実性立証の対象となる事実は,『B研究所が調査したところ,所沢産ほうれん草をメインとする葉物野菜のダイオキシン類の濃度は,最高3.8pgTEQ/gのものがある』ということであり.このうち3.8 pg TEQ/g を超えるダイオキシン類の濃度を示す所沢産の野菜がB研究所の調査に係るものであるか,他の調査に係るものであるかという点は,所沢で栽培された野菜から高濃度のダイオキシン類が検出されたという調査結果があることを報道することが本件放送の趣旨であることにかんがみれば,本件要約部分において摘示された事実の重要な部分に当たらないというべきである。また,3.4pgTEQ/gという高濃度のダイオキシン類が検出されたのは,宮田教授の調査に係る白菜1検体のみであるが,上記の本件放送の趣旨に照らすと,所沢産の野菜から一般的にそのような高濃度のダイオキンン類が検出されているといりことではなく,そのような野菜が一つでもあったという事実を発表することが有意義というべきであるから,上記白菜1検体のみにより本件要約部分について真実性の立証があったと認められる。」と判断した。
イ 本判決
 本判決は,上記(2)ウの判断基準を本件にあてはめ,原審確定事実(@本件放送の後半のC所長との対談の冒頭部分で,Dキャスターは,今夜は,B研究所が所沢市の野菜のダイオキシン類汚染の調査をした結果である数字を,あえて本件番組で発表するとした上で,本件フリップを示して「野菜のダイオキシン濃度」が「所沢(B研究所調べ)0.64〜3.80ピコg/g」であると述べ,上記対談の中で,C所長は,本件フリップにある「野菜」が「ほうれん草をメインとする所沢産の葉っぱ物」である旨の説明をしたが,その凰その最高値である「3.80ピコg/g」が煎茶についての測定値であることを明らかにせず,また,測定の対象となった検体の具体的品目,個数及びその採取場所についても,明らかにしなかったこと,AC所長は,上記対談の中で,主にほうれん草を例として挙げて,ほうれん草をメインとする所沢産の葉っぱ物のダイオキシン類汚染の深刻さや,その危険性について説明したこと,B本件放送の前半の録画映像部分においては,所沢市には畑の近くに廃棄物の焼却炉が多数存在し,その焼却灰が畑に降り往いでいること,A市農協は,所沢産の野菜のダイオキシン類の分析調査を行ったが,農家や消費者からの調査結果の公表の求めにもかかわらず,これを公表していないこと等,所沢産の農産物,とりわけ野菜のダイオキシン類汚染の深刻さや,その危険性に関する情報を提供したこと,C本件放送の翌日以降,ほうれん草を中心とする所沢産の野菜について,取引停止が相次ぎ,その取引量や価格が下落したこと)に基づき,本件摘示事実は,「ほうれん草を中心とする所沢産の葉物野菜(葉菜煩)が全般的にダイオキシン類による高濃度の汚染状態にあり,その測定値は,B研究所の調査によれば,1g当たり0,64〜3.80 pgTEQ であるとの事実である」とした上で,本件摘示事実のうち,「測定値がB研究所の調査に係るものである」との事実は重要な部分でないが,その余の事実は,測定値0数値を含め,重要な部分であり,真実性立証の対象となるものと判断した。これに対し,原審は,上記アに照らせば,「所沢産の野菜から一般的にそのような高濃度のダイオキシン類が検出されている」ということではなく,「そのような野菜が一つでもあったという事実」が本件摘示事実であると判断したものと思われる。しかしながら,本件放送においては,検体の具体的品目,個数,採取場所等が明らかにされず,野菜のダイオキシン濃度が所沢産のものは1g当たり0.64〜3.80pgTEQであるとのみ示されたこと,一般の視聴者はその最高値に強い印象を受け得ること,本件放送の前半録画部分においても,後半対談部分においても,所沢産の野菜を全体として取り上げていることなどに照らすと,一般の視聴者は,所沢産の葉物野菜が全般的に1g当たり3.80pgTEQ程度にまでダイオキシン類により汚染されていると受け取るのが通常であると考えられる。本判決は,このような判断に基づいて,本件摘示事実及びその重要な部分を前述のをおり解したものと考えられる。その上で,本判決は,1g当たり3.4pgTEQの測定値を示した白菜が1検体存在するにすぎないなどの原審確定事実をもっては,本件摘示事実について,その重要な部分が真実であることの証明かあるとはいえないと結論づけ,これと異なる原審の判断に法令違反があるとして原判決を破棄し,本件摘示事実による名誉毀損の成否等について更に審理させるため,本件を原審に差し戻したものである。
 なお,泉裁判官の補足意見は,本件放送の誤りは看過できないとしながらも,本件放送によりダイオキシン類対策が進み,Xら所沢市内の農家も結果的に大きな利益を受けていることを説き,本件放送の意義を高く評価するものであり,報道機関が公益目的の報道をすることに萎縮することがないように配慮したものと思われる。この補足意見を合わせ読めば,本判決は,本件放送の持つ意義にも十分な目配りをした上での判断であることがうかがわれる(注31)。
4 名誉毀損についての審理
 本判決が,テレビジョン放送をされた報道番組によって摘示された事実がどのようなものであるかについての判断基準を示したこと池は,名誉毀損の事件の審理の在り方についての一定の示唆を含むもののように思われる。
(1) 本判決の前,名誉毀損の成否については,昭和31最判に従って,当該表現の一般の読者の普通の注意と読み方によって人の社会的評価が低下したか否かを判断すべきものと解されていたが,下級審の中には,当該表現がいかなる事実を摘示したのかということを必ずしも確定しないまま,一般の読者の受けた印象を基準として名誉毀損の成否を判断していたものがあるように思われる(このことは,前記3(2)イの下級審裁判例の説示の内容からもうかがわれる。)。しかし,名誉毀損とは,一定の事実を摘示し又は意見ないし論評を表明する行為が人の社会的評価を低下させることにより成立するものであるから,まず,裁判所が審理し確定すべきは,当該報道によって摘示された事実が何か,表明された意見ないし論評がどういうものかということであろう。その上で初めて当該事実摘示,意見ないし論評の表明が人の社会的評価を低下させるものか否かが判断されるべきである(そして,それが真実性証明の対象ともなる。)。
 摘示された事実が何かという点については,本判決(及び昭和31最判)の示した基準により,当該メディアの受け手の一般的な受け取り方を基準とし,当該メディアの特性を考慮して判断すべきである。ある言明が事実の摘示であるのか意見ないし論評の表明であるのかについては,前掲最三小判平成9・9・9の示した基準により,当該メディアの受け手の一般的な受け取り方を基準として.証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張するものと理解されるか否かを判断すべきである。その際,評価的言明については,その前提となる事実の摘示があるのかどうかという点にも留意すべきであろう。
(2) 摘示された事実,表明された意見ないし論評が確定された後,その内容が,当該メディアの受け手の一般的な受け取り方を基準として,人の社会的評価を低下させるものか否かを判断すべきである。そして,これが人の社会的評価を低下させるものであると判断されるときは,摘示された事実又は意見ないし論評の前提となる事実について,その重要な部分が真実であるか否か,真実と信ずるについて相当な理由があったか否かを判断すべきことになる。
(3) 名誉毀損の不法行為が成立する場合,裁判所は,損官給償又は/及び謝罪広告等(注32)(注33)を命ずることができ,また,人格権(名誉権)に基づき。出版等の差止めを命ずることもできる(注34)。
5 本判決の意義
 本件は,テレビジョン放送による名誉毀損の事案について,最高裁として初めて名誉毀損の判断基準や摘示事実のとらえ方の判断基準を示したものであり,また,この基準を適用して,本件放送により摘示された事実の重要な部分について真実性の証明があるとはいえないと判示しで,これと反対の判断をした原判決を破棄したものであり,実務の参考になるものと思われる(注35)(注36)。
(本解説については,三村晶子前調査官の調査結果を参照させていただいた。)
(注1)第1審での原告数は376名,請求総額は2億円余であり,第2審での原告(控訴人)数は41名,請求総額は約3500万円であった。
(注2)ダイオキシン類の構造図は,次頁の図のとおりである。図のOは酸素であり,図の1〜9,2’〜6’の位置に塩素又は水素が付いている。ダイオキシン(PCDD)は,2個のベンゼン環が2個の酸素で結合したものに塩素が付いた構造をしており,塩素数と塩素の位置により,75種類の異性体がある。ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)は,2個のベンゼン環が1個の酸素で結合したものに塩素が付いた構造をしており,135種類の異性体がある。ポリ塩化ビフェニル(PCB)209種類のうち2個のベンゼン環が同一平面にあって偏平構造を有する異性体をコプラナーPCBといい,これには12種類の異性体がある。
 以上に.つき,宮田秀明「ダイオキシン」岩波新書新赤版No.605(平成11年),ダイオキシン類対策関係省庁共通パンフレットブダイオキシン類2003」
http://www.env.go.jp/chemi/dioxin/pamph/2003.pdf)(平成15年)等参照。
***PCDDs、PCDFs、PCBsの構造図は省略***
(注3)ダイオキシン類対策特別推服法は,「ダイオキシン類が人の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある物質であることにかんがみ,ダイオキシン類による環境の汚染の防止及びその除去等をするため,ダイオキシン類に関する施策の基本とすべぎ基準を定めるとともに,必要な規制,汚染土壌に係る措置等を定めることにより,国民の健康の保護を図ることを目的とする」法律である(1条)。同法の成立の経緯等につき,宮澤宏幸・ジュリスト1165号46頁(平成11年)。
(注4)最も毒性の強い2,3,7,8‐四塩化ジベンゾ‐パラ‐ジオキシン(2,3,7,8 −TCDD。PCDDのうち2,3,7,8の位置に塩素が付いたもの)の毒性を1としたときの相対的な毒性を示す係数。
(注5)ダイオキシン類は,工業等で意図的に製造する物質ではなく,物の焼却の過程等で自然に発生してしまう副生成物である。ごみ焼却のほか,農薬,PCB等の製造や,紙パルプ工場等における漂白等の過程でも生成する。また,自然界においても,火山活動や森林火災等によって発生しているといわれている。宮田・前掲(注2)64頁以下,関係省庁共通パンフレット前掲(注2)3頁以下。
(注6)2,3,7,8−四塩化ジベンゾ‐パラ‐ジオキシンの致死毒性が青酸カリの1000倍,サリンの2倍を示したとのモルモットを対象とする実験結果の報告がある。宮田・前掲(庄Z)192頁等。
(注7)ダイオキシン類による健康被害の例としては,ベトナム戦争で使用された枯薬剤による先天奇形(無脳症,二重胎児〔ベトちゃんドクちゃん〕,口蓋裂等)等や,我が国のカネミ油症事件が有名である。宮田・前掲(注2)38頁,206頁,関係省庁共通パンフレット前掲(注2)6頁,20頁。
(注8)ダイオキシソ類は,通常は無色の固体で,水に溶けにくく,蒸発しにくい反面,脂肪等には溶けやすいという性質を持っている。また,他の化学物質や酸,アルカリにも筒単に反応せず,安定した状態を保つことが多いが,太陽光の紫外線で徐々に分解されるといわれている。ダイオキシン類が体内に入ると,その大部分は脂肪に蓄積されて体内にとどまり,体外に排出される速度は非常に遅く,人の場合,半分の量になるのに約7年かかるとされている。関係省庁共通パンフレット前掲(注2)3頁,11頁。
(注9)ダイオキシン類を人が生涯にわたって継続的に摂取したとしても健康に影響を及ぼすおモれがない1日当たりの摂取量で2,3,7,8‐四塩化ジベンゾ‐パラ‐ジオキシンの量として表したもの(ダイオキシン類対策特別措置法6条1項)。
(注10)1pgは10−12 g (1兆分の1g)。関係省庁共通パンフレット前掲(注2)8頁には,「東京ドームに相当する体積の入れ物を水でいっぱいにした場合の重さが約1012 g です。このため,東京ドームに相当する入れ物に水を満たして角砂糖1個(lg)を溶かした場合を想定すると,その水1ccに含まれている砂糖が1pg(ピコグラム)になります。」との説明がある。
(注11)関係省庁共通パンフレット前掲(注2)11頁によれぼ,日本人が1日に平均的に摂取するダイオキシン類の量は,食事や呼吸等を通じて体重1kg当たり約1.68pgTEQと推定され,耐容1日摂取量を下回っているとされる。
(注12)これらの測定値は,ほうれん草については,よく水洗いした上で測定されたものである。煎茶については,加工の過程で水洗いがされていないものであったと推測されている。
(注13)これらの測定値は,ほうれん草については,よく水洗いした上で測定されたものであり,白菜については,水洗いなしに測定されたものである。
(注14)この点に関する原判決及びその引用する第1審判決の認定は,民衆57巻9号1115頁,1195頁。なお,宮田・前掲(注2)4頁は,「ドイツでは,穀類やトウモロコシなどの汚染されにくい作物は40pgTEQでも栽培可能であるが,葉菜類栽培用には40pgTEQ以上で土壌の入れ替えをすすめている」としている。
(注15)1976年(昭和51年)7月,イタリアのミラノ市北部の農薬工場で,2,4,5‐三塩化フェノールの製造プラントが暴走し,2,3,7,8−TCDDを高濃度に含む反応物が白い実状となって,工場南東部のセベソを中心とする11町村を汚染する事故が発生した。宮田・前掲(注2)208頁等。なお,この点に関する原判決の認定(その引用する第1審判決の認定)は,民集57巻9号1117頁。
(注16)これらの調査に係る検体のほうれん草は,畝ごとに円弧状の支柱を立ててプラスチックで被覆され,土壌の表面もプラスチック等で被覆された状態で栽培されたものであり,そのダイオキシン類の抽出法は,宮田教授らが用いる抽出法に比べ,抽出率が半分から3分の1程度のものであった。なお,気温の低い時期は,気体状態のダイオキシン類が占める割合が低下し,植物に吸収されるダイオキシン類の量が減少するとされている。
(注17)所沢市では,焼却施設撤去費用の補助を実施し,12の焼却施設が解体撤去され,平成13年3月末現在で,平成9年度に比べてダイオキシン類排出量の削減率は99%に達したと推定されている。
(注18)第1審判決は,民集のほか,判例タイムズ1063号277頁に,原判決は,民集のほか,判例時報1782号45頁に掲載されている。原判決の評釈として,飯塚和之・私法判例リマークス27巻52頁(平成15年)がある。
(注19)昭和31最判の示した基準は,モの後の最高裁判決においてしばしば引用され,新聞記事等による名誉毀損成否の基準を示すものとして,確立した判例となっている。特定の新聞の性質についての社会の一般的な評価等と当該新聞の記事による名誉毀損の成否を判示した最三小判平成9・5・27A民集51巻5号2009頁,名誉毀損の成否が問題となっている新聞記事における事実の摘示と意見ないし論評の表明との区別を判示した後掲最三小判平成9・9・9等参照。
(注20)この場合,摘示された事実も,風評そのものの存在ではなく,風評の内容たる事実である。
(注21)前掲最三小判平成14・ 1 ・29は,「裁判所は,摘示された事実の重要な部分が真実であるかどうかについては,事実審の口頭弁論終結時において,客観的な判断をすべきであり,その際に名誉毀損行為の時点では存在しなかった証拠を考慮することも当然に許されるというべきである。けだし,摘示された事実が客観的な事実に合致し真実であれば,行為者がその事実についていかなる認識を有していたとしても,名誉毀損行為自体の違法性が否定されることになるからである。真実性の立証とは,摘示された事実が客観的な事実に合致していたことの立証であって,これを行為当時において真実性を立証するに足りる証拠が存在していたことの立証と解することはできないし,また,真実性の立証のための証拠方法を行為当時に存在した資料に限定しなければならない理由もない。他方,摘示された事実を真実と信ずるについて相当の理由が行為者に認められるかどうかについて判断する際には,名誉毀損行為当時における行為者の認識内容が問題になるため,行為時に存在した資料に基づいて検討することが必要となるが,真実性の立証は,このよりな相当の理由についての判断とは趣を異にするものである。」と判示した。
(注22)公正な論評の法理は,意見ないし論評の前提事実に関しては真実性又は相当性を要求するが,これに基づく意見ないし論評に関してはその内容の合理性を要求せず,意見ないし論評としての域を逸脱するものでない限り,不法行為責任の成立を否定し,意見ないし論評の表明の場合について.事実の摘示の場合よりも緩和された要件で免責を認めるものである(八木一祥・最高裁判所判例解説民事篇平成9年度国1158頁参照)。
(注23)前掲最三小判平成9・9・9は,昭和31最判の基準がこの区別にも妥当するとした上,「新聞記事中の名誉毀損の成否が問題となっている部分について,そこに用いられている語のみを通常の意味に従って理解した場合には,証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張しているものと直ちに解せないときにも,当該部分の前後の文脈や,記事の公表当時に一般の読者が有していた知識ないし経験等を考慮し,右部分が,修辞上の誇張ないし強調を行うか,比喩的表現方法を用いるか,又は第三者からの伝聞内容の紹介や推論の形式を採用するなどによりつつ,間接的ないしえん曲に前記事項を主張するものと理解されるならば,同部分は,事実を摘示するものと見るのが相当である。また,右のような間接的な言及は欠けるにせよ,当該部分の前後0文脈等の事情を総合的に考慮すると,当該部分の叙述の前提として前記事項を黙示的に主張するものと理解されるならば,同部分は,やはり,事実を摘示するものと見るのが相当である。」と判示した。そして,この基準を当該事件に係る「夕刊フジ」の記事にあてはめ,@「甲野は極悪人,死刑よ」との見出しについて,当該記事の内容や,当時甲野(上告人)について妻Cに対する殺人未遂の嫌疑や未遂事件後にCを殺害したとの嫌疑について数多くの報道がされていたことを考慮して,「Aの談話の紹介の形式により,上告人がこれらの犯罪を犯したと断定的に主張し,右事実を摘示するとともに,同事実を前提にその行為の悪性を強調する意見ないし論評を公表したものと解するのが相当」とし,A「Bさんも知らない話……警察に呼ばれたら話します」との見出しについて,「Aの談話の紹介の形式により,上告人が前記の各犯罪を犯したと主張し,右事実を摘示するものと解するのが相当」とし,B「この元検事にいわせると,甲野は『知能犯プラス凶悪犯で,前代未聞の手ごわさ』という。」との記述について,「元検事の談話の紹介の形式により,上告人がこれらの犯罪を犯したと断定的に主張し,右事実を嫡示するとともに,同事実を前提にその人格の悪性を強調する意見ないし論評を公表したものと解するのが相当」とした。
(注24)なお,東京地判平成13・10・22判例時報1793号103頁は,著名な建築家Xが景観設計に関与した愛知県下の橋(豊田大橋)について,Y社がその発行する週刊誌の中吊り広告及び新聞広告において「X『100億円恐竜の橋』に市民の大罵声!」との見出しを掲載した事案につき,同見出しは「Xがその建設設計に関与し,工事費100億円を要した『恐竜の形をした橋』の評判が極めて悪く,多数の地元市民から,この橋とその建設設計に関与したXに対し,激しい罵声が浴びせられている」という事実を伝えるものとみるべきであるとした。また,その控訴審である東京高判平成14・7・18判例銀朱登載も,「市民の大罵声」という表現は,単なる評価的概念ではなく,「多数の市民から橋に対し激しい非難が加えられている」という事実を摘示したものであることが明らかであるとした(後掲(庄32)平成16年6月22日第三小法廷判決=上告棄却により確定)。一般に,評価的言明であって,その基礎となる事実を摘示しないものについては,一般の読者は,その評価的言明から,その評価にふさわしい事実の存在を黙示に主張するものと受け取るのが通常であると考えられるから,そのような事実を黙示的に摘示するものというべきであろう。上記広告においては,「大罵声」の評価の前提となる事実の摘示がないのであるから,「大罵声」に相当する事実の摘示があると解されたのは当然であろう。なお,山口政樹「名誉毀損法における事実と意見−英米法の示唆するもの−(一)〜(三)」東京都立大学法学会雑誌35巻1号109頁(平成6年),同巻2号111頁(同年),36巻2号91頁(平成7年)参照。
(注25)前掲(注19)参照。
(注26)下級審裁判例を整理した文献に,大寄久「テレビ放映と名誉毀損」新・裁判実務大系9『名誉・プライバシー保護関係訴訟法』(平成13年)等がある。
(注27)判例評釈として,浜田純一・法律時報69巻13号234頁(平成9年)等がある。
(注28)判例評釈として,野村豊弘=磯本典章・ジュリスト1162号141頁(平成11年),山口いつ子・法律時報71巻1号72頁(平成n年)等がある。
(注29)むしろ,昭和31最判は,「所論新聞記事がたとえ精読すれば別個の意味に解されないことはないとしても,いやしくも一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容に従う場合,その記事が事実に反し名誉を毀損するものと認められる以上,これをもって名誉毀損の記事と目すべきことは当然である」と判示するものであって,新聞記事の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについての判断基準を述べると同時に,その前提として,新聞記事の内容が何であるか,すなわち,新聞記事の摘示事実が何であるかという点についての判断基準(一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容)を述べるものでもあった。
(注30)もっとも,前掲双三小判平成9・5・27Aに照らせば,名誉毀損に係る報道をした特定のメディア自体の個別的事情(その編集方針,主な受け手の構成,社会の一般的な評価)は,考慮すべきではない。
(注31)遂に,本判決は,いかに公益目的の真摯な報道であっても,真実性や相当性の認められないよりなものは,不法行為を構成することを改めて確認したものということもできるであろう。報道機関が,公共の利害に関わる情報を入手しながらこれを報道しないのは,その社会的使命に背く行為であるといわなければならないが,報道機関による報道によって,被害者が大きな(時に致命的な)ダメージを受けることにかんがみれば,報道機関が報道を行うに当たっては,その情報の真実性について厳格な調査確認義務があるというべきであり,これを怠って報道を行い,また,報道の受け手が事実等を誤解するような表現方法によって報道を行うなど,真実性又は相当性を立証できないような報道を行って他人の名誉等の人格的利益を侵害すれば,不法行為責任を問われるのは当然というべきであろう。
(注32)謝罪広告と憲法19条との関係について,最大判昭和31・7・4民集10巻7号785頁は,新聞紙に謝罪広告を掲載することを命ずる判決は,その広告の内容が,単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明する程度のものにあっては,旧民訴法733条(民航法171条)により代替執行をすることができ,憲法19条に違反しない旨の判断を示し,また,最―小判昭和41・4・21裁判集民事83号269頁は,新聞紙の発行人に対して当該新聞紙に謝罪広告を掲載することを命ずる判決(代替執行ができず,間接強制によるほかない。)についても,その広告の内容が,単に事態の冥福を告白し陳謝の意を表明する程度のものにあっては,憲法19条に違反しない旨の判断を示している(なお,被告の発行する出版物に謝罪広告を掲載することを命ずる判決は,下級審において広く見られ。最近公刊物に登載されたものだけでも,東京辿判平成元・9・6判例時報1351号79頁〔新潮社に対し,「週刊新潟」への謝罪広告の掲載を命じた。〕,東京地判平成2・5・22判例時報1357号93頁〔新潟社に対し,「フォーカス」への謝罪広告の掲載を命じた。〕,東京地判平成2・11・7判例時報1369号125頁〔社会党に対し,「社会新報」への謝罪広告の掲載を命じた。〕,東京地判平成3・10・7判例時報1405号64頁〔朝日新聞社に対し,「朝日新聞」への謝罪広告の掲載を命じた。〕,大阪高判平成4・6・24判例時報1451号U6頁〔内外タイムス社に対し,「内外タイムス」への謝罪広告の掲載を命じた1審判決を維持。〕,東京地判平成4・9・30判例時報1483号79頁〔東京スポーツ新聞社に対し,「東京スポーツ」,「大阪スポーツ」,「中京スポーツ」,「九州スポーツ」への謝罪広告の掲載を命じた。〕,前掲東京高判平成6・9・7〔新潮社に対し,「週刊新潟」への謝罪広告の掲載を命じた。〕,東京地判平成13・3・27判例時報1754号93頁〔小学館に対し,「週刊ポスト」への謝罪広告の掲載を命じた。東京高判平成13・12・26判例時報1778号73頁により是認された。〕,東京高判平成14・3・28判例時報1778号79頁〔講談社に対し,「週刊現代」への謝罪広告の掲載を命じた1審判決を維持。〕等がある。他方,謝罪広告でなく,判決の広告又は訂正記事の掲載を命じたものとして,大阪地判平成4・10・23判例時報1474号108頁〔月刊タイムス社に対し「月刊TIMES」への,内外タイムス社に対し「内外タイムス」への判決の広告の掲載を命じた。〕,東京高判平成13・4・11判例時報1754号89頁〔毎日新聞社に対し,「毎日新聞」への訂正記事の掲載を命じた。〕等がある。)。さらに,前掲最一小判昭和41・4・21は,新聞紙の発行人に対して当該新聞紙に上記内容の謝罪広告を掲載することを命ずる判決が憲法21条に違反しないことは,前掲最大判昭和31・7・4の趣旨に徴して明らかであるとした。近時の最高裁の判決においても,被告の発行する出版物に謝罪広告の掲載を命ずることは,その広告の内容が単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明するにとどまる程度のものである場合には,憲法19条,21条に違反しないとの判断が示されている(最高裁平成14年(オ)第1620号同16年6月22日第三小法廷判決,最高裁平成16年(オ)第911号同年7月15日第一小法廷判決,最高裁平成16年(オ)第1886号同17年3月22日第三小法廷判決。いずれも判例集未登載)。
 もっとも,前掲最二小判昭和45・12・18は,「民法723条が,名誉を毀損された被害者の救済処分として,損害の賠償のほかに,それに代えまたはそれとともに,原状回復処分を命じうることを規定している趣旨は,その処分により,加害者に対して制裁を加えたり,また,加害者に謝罪等をさせることにより被害者に主観的な満足を与えたりするためではなく,金銭による損害賠償のみでは填補されえない,毀損された被害者の人格的価値に対する社会的,客観的な評価自体を回復することを可能ならしめるためであると解すべき」と判示しており,その趣旨にかんがみると,毀損された名誉を回復するためには被告側の謝罪までは必要がないと考えられることや,謝罪文言の公表を被告自身に求めること(間接強制で強制すること)には,違憲・違法の問題がないとしても,相当性の点において必ずしも問題がないとはいえないことなどに照らし,将来的には,訂正記事等の掲載を命ずる方向へ改めていくべきものと思われる。
(注33)ただし,放送事業者がした真実でない事項の放送により権利の侵害を受けた者は,放送事業者に対し,放送法4条1狽の規定に基づく訂正放送又は取消しの放送を求める私法上の権利を有しない(最一小判平成16・11・25民集58巻8号2326頁)。
(注34)最大判昭和61・6・11民集40巻4号872頁は,「名誉侵害の被害者は,人格権としての名誉権に基づき,現に行われている侵害行為を排除し,又は将来生ずべき侵害を予防するため,侵害行為の差止めを求めることができる」旨判示し,また,近時,最三小判平成14・9・24判例時報1802号60頁は,Aが執箪し,Y1が編集兼発行者となってY2が発行した雑誌において公表された小説によって名誉を毀損され,プライバシー及び名誉感情を侵害されたとするXが,A及びYらに対して慰謝料の支払を求めるとともに,A及びY2に対し,同小説の出版等の差止めを求めるなどした事案において,「原審の確定した事実関係によれば,公共の利益に係わらないXのプライバシーにわたる事項を表現内容に含む本件小説の公表により公的立場にないXの名誉,プライバシー,名誉感情が侵害されたものであって,本件小説の出版等によりXに重大で回復困難な損害を被らせるおそれがあるというべきである。したがって,人格権としての名誉権等に基づくXの各請求を認容した判断に違法はなく,この判断が憲法21条1項に違反するものでないことは,当裁別所の判例(最高裁昭和41年困第2472号同44年6月25日大法廷判決・刑集23巻7号975頁,最高裁昭和56年團第609号同61年6月11日大法廷判決・民集40巻4号872頁)の趣旨に照らして明らかである。」と判示した。
(注35)新聞報道等によれば,差戻後の控訴審(東京高裁)において,平成16年6月17日,要旨,@Y社は,Xらに対し,本件放送においてダイオキシン類汚染の測定値を表示したフリップの記載の誤りやその説明内容に不適切な部分があったことなどにより,一般の視聴者に最高値の3.80pg/gを示したのがほうれん草を中心とした葉物野菜であるとの誤解を与え,所沢産の葉物野菜の安全性に疑いを生じさせ,所沢市内の農家に多大な迷惑をかけたことを心よりおわびする,AY社は,Xらに対し,和解金として1000万円を支払う,BXらはその余の請求を放棄する,CXらとY社は,和解条項に定めるほか,何らの債権僕務のないことを相互に確認する,との和解が成立したとのことである。
(注36)本判決について,新聞各社は,次のような社説を公表した。すなわち,@平成15年10月17日付け朝日新聞は,「苦い教訓と懸念と」と題して,「取材の基本をおさえ,正確にデータを伝える努力が軽んじられていたのだ。テレビ朝日には厳しく反省を求めたい。とはいえ,この点に目を奪われるあまり,ダイオキシン汚染に警鐘を鳴らした報道の意義を否定することはできまい‥‥・・この報道をきっかけに,ダイオキシン対策法ができ,大気中に排出されるダイオキシンの総量規制が導入されるなど対策が進んだ……そうした報道の意義を評価する見方は,今回の般高裁判決では全般的に乏しいのではないか。」と,A同日付け読売新聞は,「TV報道のあり方に厳しい警鐘」と題して,「センセーショナリズムに陥りがちなテレビ報道に,警鐘を鳴らす画期的な判決だ……慎重かつ注意深い報道−。最高裁判決は,それを求めている。」と,B同月19日付け毎日新聞は,「他山の石と厳粛に受けとめる」と題して,「判決は,テレビ報道を新聞記事としゅん別したが,正確で緻密な事実の積み重ねが求められる点では,新聞などの報道も同じことだ。これまで以上に正確な報道を期さねばならないとの意を強くする。しかし,ミスを理由にテレ朝の報道の意義までを否定してはならない……判決によってメディアが消極的になり,結果的に政治家や役人の不正,腐敗の隠ぺいにつながるような事態は暖じて避けねばならない。司法が望むところでもあるまい。jと,C同日付け産経新聞は,「教訓と警鐘を鳴らす判決」と題して,「最高裁第一小法廷が,テレピ朝日系のニュース番組をめぐる裁判でテレビの視聴者に与える影響の特性から,真実性を厳格に確認することを求めたのは,報道の自由を制限するものではなく妥当な判断だ。他局もこの判決を“他山の石”とし,より正確な報道に努めるより望みたい……ただ,この報道を契服に政府のダイオキシン対策が一気に進んだことも見逃せない。今回の最高裁判決は,テレピ報道のあり方について,テレ朝だけでなく他局への教訓と警鐘を鳴らす意義深い判決といえよう。」と論じた。
(後住)本判決は,民集のほか,判例時報1845号26頁,判例タイムズ1140号58頁にも掲載されている。本判決の評釈としで,@右崎正博・判例評論549号18頁(平成16年11月),A紙谷雅子・民商法雑誌130巻4・5号850頁(平成16年8月),B新美育文・ジュリスト1269号(平成15年度重要判例解説)91頁(平成16年6月),C橋本恭宏・法学教室283号102頁(平成16年4月),D前田陽一・NBL788号83頁(平成16年7月),E升田純・.NBL722号4頁(平成15年n月), F真鍋美穂子・判例タイムズn84号(平成16年度主要民事判例解説)96頁(平成17年9月),G森田修・法学協会雑誌121巻9号1489頁(平成16年9月),H和田真一・法学教室294号別冊付録(判例セレクト2004)23頁(平成17年3月),I松並良雄・ジュリスト1276号140頁(平成16年10月)等がある。
                    (松並 重雄)
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