川上弘美の短編で『可哀想』っていうのがあって、男女の性愛に関するなかなかエロティックな作品(でもべとべとしてはいない)なのだけど、その冒頭が好きだなあと、ずっと思っていたことをふと思い出したので書いておく。
確か「少し、爪をたてて枇杷を剥いた。」というのだ。
「少し、」というのがとてもいい。「、」が。枇杷に爪をたてた時の微かな力の入りぐあいとか、枇杷の皮にかかった爪の圧力、ほんの少しめり込む感じ、指先が感じる枇杷のやわらかさ等々が「、」の一瞬にふわっとたち現れてくるからだ。それがとてもエロティックなのだ(この後主人公は、手首を伝って腕のくぼみにたまった枇杷の汁を男に見せる)。
枇杷というと、武田百合子の『ことばの食卓』で、歯のない泰淳が、百合子が薄切りにしてやった枇杷を少しずつ歯茎で噛んで食べる話もある。薄切りの枇杷っていうのもなんだかエロティックだ。
あと小川洋子の『妊娠カレンダー』で、妊娠した姉が枇杷のシャーベットを渇望するシーンがあったと思う。
なんだか枇杷ってエロティックに書かれがちなのかな。女性作家に…?