若林亜紀著「体験ルポ 国会議員に立候補する」(文春新書)を読む。
著者は「行革ジャーナリスト」という肩書である。何回か彼女のお話を聞いたこともあるし、本は自分では買わないが、図書館とかで読んだ記憶はある。
ワタクシは、「役人も悪いが、じゃあかといって「民間」がそんなに立派なの?」という立場だから、必ずしも著者の考えに同調するものではない。ただ、この本はかなり面白いので、政治に関心がある人にはお勧めしたい。
著者は、最初は民主党から立候補したいと考えていたが選考に漏れたそうである。おかしいのは、そのことがどういうわけか「みんなの党」の浅尾議員の耳に入り、浅尾議員から参議院に出ることを勧められた。
若林さんは、それがきっかけで「みんなの党」の選挙マニフェスト(みんなの党では「アジェンダ」という)を新書版で編集・出版する仕事に深入りする。しかし、そのことでとんだ苦労を背負わされ、ドタバタに巻き込まれる。
あくまで著者の側の言い分だが、みんなの党の渡辺代表のわがままで、もう刷り上っている本の内容の差し替えをせざるを得なくなったり、著者の名前を出す出さないで、他候補からのクレームがついたりということがあったようだ。
おまけに最初は、供託金は党が負担するという話だったのに、選挙戦間際になって「いやそんな話はしていない」とかいうことになり、結局マンションを担保に借金をする破目になる。
最終的には、「みんなの党の本の出版に協力したということでお金は変換されたそうだが、それでもいままでの貯金はほぼ使い尽くしたらしい。
著者によれば、そこに深入りしたために自分自身の立候補準備が立ち遅れてしまい、結果として当選に及ばない結果になったということのようだ。
それにしても、民主党が与党になったといえば民主党から出たいという人が集まり、民主党の支持率が下がり、みんなの党の支持率が上がれば、人はみんなの党に群がる。
ワタクシなどは、それだけでもなんだか引いてしまう話である。
それにしても、この本を読んで改めて思うのは、日本の公職選挙法は実に細かいところまでルールが決められていて、個人が工夫をする余地はほとんどないものであるということである。
法律には「これをやってはいけない」が列挙されているものと、「これ以外はやってはいけない」が列記されているものがあるというが、公職選挙法はまさに後者の例であるようだ。
したがって、選挙ボランティアとかいうけれど、選挙には本来の意味での「ボランティア」はあり得ないのではないかという気がする。ボランティアとは、自らの責任で基本的には自由に行動するものだろう。
しかし、選挙運動なるものは、結局のところ公職選挙法とその解釈や運用を熟知した「選挙参謀」の指揮下に手足となって動く以外に、個人の自由に動ける余地はない。
選挙ボランティアなる人は、どうも変な「政治おたく」みたいな人があちこちの選挙戦で出没したり、怪しげな選挙プランナーなる人物が現れたりで、ますますワタクシのような人間は引いてしまう。
しかしながら、これが日本の選挙というか民主主義の現実ということでは、非常に参考になる。
最初に言ったように、ワタクシは著者とずいぶん考え方が異なる部分が多いし、例えば民主党の「こども手当」なんかについても、ワタクシは基本的に賛成だが、著者は反対である。
だが、ワタクシから見て多くの「こども手当」反対論のほとんどは全くうなずけないものが多いなか、彼女の反対論は「公務員は扶養手当をもらっているうえに子ども手当ももらえば、二重取りになる」というものである。この考え方はなかなか説得力がある。
いずれにせよ、この本を読んで思ったことは、ワタクシが若ければ「政策秘書」にならなってもいいが、自分で選挙に出て政治家になりたいなんて絶対に思わないだろうということである。
これまた著者の考え方には沿わないことかもしれない。
だが、こんなやりかたの選挙にかなりのエネルギーを割かなければならないのが政治家だとすれば、もし政治上の政策を実現したいとワタクシが思ったなら、いまのところいちばん現実的な道はやはり「官僚」になることなのかしらと思ったりして・・・。

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