池上彰さんはこう語っているらしい。
2000年代初頭まで日本企業が世界をリードしていた太陽光・太陽熱発電分野は、現在欧米やアジアのメーカーの台頭が著しく、日本は苦しい立場にあります。
また、地中海沿岸のスペインやアメリカのカリフォルニアのように年中好天が続く地域は太陽光発電に適していますが、日本には四季があります。膨大なパネルを設置できる広い土地も少なく、大規模な太陽光発電は難しいのです。
世界的に成長している風力発電はドイツやスペインが有名ですが、周辺住民の反対が根強いことも知られています。景観を損ねることと、低周波の騒音で不眠になるからです。
常に偏西風が吹くヨーロッパと違って日本に吹く風は1年を通して安定せず、台風や落雷のリスクもあります。近年洋上風力発電に注目が集まっていますが、“風まかせ”の発電に過剰な期待は禁物です。
木くずや都市ごみなどのバイオマス(生物資源)発電は、現在、被災地の瓦礫の廃材を利用する“一石二鳥”の取り組みが話題になっていますが、中長期的にはコスト面で実用化に苦戦しています。 (SAPIO2011年6月15日号)
ではやはり日本は原子力発電に固執せざるを得ないのかという話になるが、実はそうはいかない。
なにしろ、民主党が3.11まえに言ってきたようにこれから10年で新規に原発十数基を作るなんて論外にせよ、もはや原発の新設は困難である。アメリカがスリーマイル島以後、ひとつも原発を新設できなくなったという事実をまず直視しなければならない。
その上、国内の原子炉の多くは、耐用年数切れが迫っている。
さらにいえば、福島の事故がいまだ終息していないなか、定期点検で止まった原子炉を再稼働するための県知事をはじめとする地元自治体の許可を出してもらうことすら困難である。
そうなれば、あまりどのメディアも専門家も語らなのだが、近い将来に実質的に日本中の原子炉は一つも動いていない状態になることもあり得るのである。つまり、事実上の「脱原発」は現実の問題になりつつある。
そのとき、私たちは何をするのかということが問題なのであって、原子力発電の推進か脱原発かが争点ではない。
しかしながら、大停電が起きる可能性は低いと思う。なぜなら、全国の原発を今すぐに止めても、夏の最大電力消費時にすら、十分に電気は供給できる。それは、火力発電所があるおかげである。
しかしながら、ワタクシたちは火力発電所というものを誤解している。火力発電所には石炭や石油の火力と天然ガスの火力があることぐらいは知っていても、これは実は同じではない。
石炭や石油火力と原子力は、エネルギーの転換効率が33%前後しかない。投入したエネルギーの3分の1は電力になるが、残りの3分の2は廃熱となる。
ところが天然ガスを燃料とするコンバインドサイクル発電は、タービンがジャンボジェット機のエンジンのような内燃機関である。
このエンジンの廃熱は温度が高いので、この廃熱を再利用してさらに蒸気タービンを回すことができる。このため、エネルギーの転換効率が50%を超える。
ワタクシは、東京電力の横浜火力発電所を見学したことがあるが、ここはまさに天然ガスを燃料とするコンバインドサイクル発電がおこなわれていた。この発電所は、石炭や石油の火力発電に比べて二酸化炭素の排出も格段に少ない。
おまけに原子力発電所と違って、大都市の電気の消費地に建設できるので送電のロスも少ない。
原子力発電を今すぐ止めても、天然ガスによる火力発電を増やすことで、自然エネルギー開発が進むまでの間の移行期も十分に対応できるのである。
どうもメディアは、原子力がダメなら自然エネルギーか、などと二者択一の論議が多い。しかし、大事なことは、移行期の問題である。天然ガスによる火力発電というすぐれた技術の存在を軽視するべからずである。

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