日経新聞29日の「放射線巡る混乱 収束遠く」という記事は好記事。
「消費者らは『安心できる基準』を求めるが、健康への影響では不確かな点が多く、今の科学では絶対安全を示すことは不可能」であり、専門家の間でも放射線を巡る安全性についての意見は分かれており、人々は翻弄せざるを得ない、という。
「100ミリシーベルト以上の放射線を浴びると何十年もの間にがんになるリスクが上昇するのは、広島・長崎の被爆者を対象とした疫学調査で立証済み。」ここに異論はない。
だが、「100ミリシーベルトを下回った場合に、がんが増えるかどうかには科学的な根拠はない。影響はないとみる専門家もいる。」
しかし、そもそもがんの発生率だけで健康への影響を図ることにも問題はある。がんは様々な要因が複雑にからみあって起きる。放射線によって遺伝子が傷つくとがん細胞ができるのは確か。
ただし、年単位で低線量の被曝をした場合、必ず遺伝子が傷つき、必ずがん細胞が増殖するというわけでもない。遺伝子の傷つきやすさは、性別、年齢、個人の体質によって違う。
要するに、「危険と安全の境目は人それぞれで、一定の値を決めることはできない」。(甲斐倫明・大分県立看護科学大学教授)
「7月下旬、食品を介した放射性物質による健康影響のリスク評価をした食品安全委員会は『生涯で100ミリシーベルト以上を被曝すると、健康影響が出る恐れがある』との報告書をまとめた。部会の座長を務めた山添康・東北大学教授は『100ミリシーベルトが許容値を示しているわけではない。あくまでも目安で、放射線を浴びないにこしたことはない』と話す。」
日本政府は放射線の健康に対する影響を管理する上で、国際放射線防護委員会(ICRP)が定めた基準を採用している。ICRPは1928年に世界の放射線研究者が立ち上げた、多くの国の政府が法律や放射線管理の基準にしている組織だとされている。
しかしICRPは、国債原子力機関(IAEA)と同様、そもそも核兵器や原子力発電所が必要とした上で、妥当な放射線被ばく量を定めようとしていると、批判している研究者も多い。
このため97年には欧州会議の「緑の党」が主導して、放射線リスク欧州委員会(ECRR)も誕生した。ECRRに言わせれば、内部被曝についてICRPは評価が甘いということになっているのである。

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