日本の貿易収支が赤字になった、さあ大変だ、やはり原発を再稼働させなければ企業は外国に出ていくし、失業者が増えると騒ぐ。
しかし、よく考えてみよう。
去年の原発事故がもしなかったとしても、遅かれ早かれ出ていく企業は出ていく。1970年代から、産業の空洞化なんていう話は続いている。
中国に進出しながら、労働者の賃金がたちまち上がって、ストライキを起こされて逃げ出した会社もある。出ていきたい会社は世界市場でおやりなさい。その代わり、なかなか世間は厳しいとはおもいますが・・・。
日本の問題は、むしろ新しく起業する人がいないということのように思う。
起業する人が少ないというにはいろいろ理由がありそうだ。
さまざまな中小企業の社長を見て気が付くのは、資金を融資してもらうのに、自分の不動産を担保に入れて、失敗すれば身ぐるみ剥がされる。あんな思いをするなら、大きい会社の中で無難にやり過ごして定年まで勤め上げたほうが良い、とか。
つまり、失敗して出直すなんて許されず、無難に事を荒立てることなく生きる方が推奨されるわけですが、あまりにもそういう人が増えすぎたことが、この20年の不況の原因のひとつかもしれない。
70年代の二度の石油ショックで物価上昇と景気低迷のスタグフレーションに襲われたのは、どの先進国も同じだった。日本は、石油ショックからいち早く立ち直り、自動車産業や電気製品などのメイドインジャパン商品が世界に広まった。
終身雇用、年功序列、企業内組合とかの日本的経営という考え方が思想として固まったのは、むしろ70年代、80年代のことで、日本的経営なんてむしろ「理念型」であって、実際にはそこから外れた会社が多いのが実態でありましょう。
70年代、80年代の危機を日本的経営で乗り切った成功体験が、むしろ90年代以降の日本のカイシャの変われない体質を生み出したともいえる。
不況になれば、雇用調整助成金を出して労働者をクビにしないようにしてきた。不幸にも解雇されてしまった人の生活を保障し、職業訓練を通じて、新しい産業で働けるようにするよう、社会保障を作り変えてこなかった。
福島の原発事故以来、東京電力は5回くらい債務超過に陥りそうになったそうだが、そのたびに三井住友銀行だののメインバンクが支え、さらに原子力被害賠償法によって事実上、東電が生き延びるために国のお金が無制限につぎ込まれようとしている。
まあスエーデンあたりでは、会社を守るのでなく働く人を守るという哲学がきちんと貫かれているのに対し、日本はカイシャを守ってそこに働く人は守らない。そして働く人はカイシャのなかで飼い殺しにされる。
希望退職者を募ったら、ホントはカイシャにとって残って欲しい人はさっさと止めてしまい、残って欲しくない人がしがみつく。
ワタクシたちの現在の社会の息苦しさは、単に不景気だからとかデフレだからということが理由ではない。人間が組織に飼い殺しにされていて、ときに腐臭を放っていることが原因なんだろう。

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