かつて三木武夫内閣のとき、自民党内で三木おろしというのがあった。
マスコミは、自民党内の弱小派閥の三木さんが、田中、福田などの大派閥を向こうに回して「粘り腰」だと書いたけれど、「いや、あれは日本の憲法の矛盾が表れているんだ。総理大臣を辞めさせるのは意外に難しい」と言ったワタシの習った某政治学者がいた。
憲法の矛盾かどうかは知らないが、確かに総理大臣はたとえば内閣の中に反旗を翻す閣僚がいれば、罷免できるばかりでなく、いざとなれば全部の閣僚を罷免して、自ら兼務することができる。(まあ、実際にそこまでやった人はいないけれど、いざとなれば脅しをかけることは可能だろう。)
もちろん、衆議院で内閣不信任案が可決されれば、解散して信を問うか、総辞職になるけれど、そのためには与党が自ら首班指名のときに投票した同じ人に不信任を突きつけるわけだから、「なんだ、つまりアンタの見る目がなかったっていうことだね」と言われればそれまでである。
本来。憲法を素直に読めば、少なくとも衆議院は内閣不信任案が可決されることがない限り、4年間は任期満了で総選挙になるというのがフツウだと思うのだが、実際は首相はかなり恣意的に解散権を行使してきた。吉田茂首相が、7条解散を正当化したからだ。
恣意的に解散できるということは、与党が選挙に有利なときを見計らって、ということになる。
であるから、谷垣サンがいくら野田サンを解散に追い込むと力んでも、別に谷垣サンに力がないとかいうことではなく、野党が首相を解散に追い込むなんていうことはまずない。
野田首相への問責決議案が参議院で可決された。しかし、参院の問責決議案は衆議院での不信任案と違って、首相が解散か総辞職に迫られるというような拘束力は持たない。
しかしながら、問責決議案が可決された閣僚がその後に国会に出席しても、野党は多くの場合、出席を拒否することが多い。だから、ねじれ国会の参議院で問責決議案が通った首相の下では、国会が動かなくなる、と言われていた。
だが、国会は9月初めに閉会し、その後は民主党代表選(9月10日告示、21日投開票)がある。
民主党内には、消費増税、反原発などで首相から距離を置く衆参両院議員が一定数はいる。30日は44人の民主党議員が、国会内に集まり「民主党復活会議」を発足させた。
設立総会では、代表選候補者を選ぶための予備選を9月5日に行うことを決めたようだ。桜井充政調会長代理が出馬する意向を表明したり、脱原発を訴える平岡秀夫元法相も出馬を検討したりしているらしい。
でも、現状では(残念ながら?)野田首相の再選が動かない情勢だという。
「反・野田」の議員たちは、予備選を行ったうえで対抗馬を擁立することを決めたが、このままでは、決まった候補者も泡沫になりかねない。やはり反・野田勢力の中枢だった小沢一郎元党首の離党が響いているのだ。
それに、問責された閣僚が出席する議会には出席しないという野党の言い分が正しいとしても、もし民主党党首選挙の結果、野田サンが再選され、衆議院で新たに首班指名されてしまい、参議院で指名されなくても、衆議院での議決が優先とされるだろう。
そうなると、首相は新たに信任されたわけだから、前に「問責」した効果は失われてしまうという理屈になる。
確かに、野田サンが民主党代表選を勝ち抜いたことに不満な民主党議員が一気に離党してしまったら、衆議院の首班指名で野田サンが選ばれないということも起こり得る。
だが、実際にはそんなことは起こりそうもない。
今、民主党の議員たちは、衆議院の解散を望んでいない気持ちがことさらに強い。今、解散してしまったら民主党の議席は数えるほどしか残らない。
あと1年でも、残りの任期を全うしたいという民主党議員の潜在的な気持を、野田サンは(といういうより日本の首相は)、うまいこと弄ぶことができる立場にある。

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