確か日本社会党の研究で博士号を取った政治学研究者はいたと思うが、日本共産党を政治学的に研究した人は聞いたことがない。(もしいたら、スイマセン。だれかご教示ください)
いや、共産主義理論関係の論文は数多くあるし、共産党の理論的な側面からのオハナシはたくさんあるのだが、日本共産党の動向を政治学的に分析した本ってあるのだろうか?
原武史「レッドアローとスターハウス もうひとつの戦後思想史」は、西武鉄道沿線の団地群を拠点に日本共産党が党勢を伸ばした1960年代から70年代の時代を分析したかなり興味深い本である。
著者のあとがきによれば、この本は著者が提唱してきた「空間政治学」の実践であり、また政治思想研究に新しい視点をもたらすことを意図したものであるという。
まあ、純粋に政治学的な共産党研究というものではなく、どちらかといえば評論に近いのかもしれないが、資料を広く収集した細部の実証の積み重ねは著者の天皇制研究の手法にも見られる堅実なものである。
その意味では、日本共産党研究に興味深い一面を加えた本だと言えるだろう。
保守政治家であり、同時に西武鉄道の経営者でもあった堤康次郎は、東急電鉄の五島慶太と並び称される存在だが、五島が手掛けた東急電鉄とその沿線の住宅開発が一戸建て持家を中心としたものだったのに対し、西武線沿線は東久留米市のひばりが丘団地を筆頭にした賃貸団地が主であった。
そして皮肉なことに、自社の組合を私鉄総連からも脱退させてストもさせないという堤の反共主義的な政治思想に反して、西武線沿線の団地は60年代から共産党の強固な地盤になる。
著者は、団地建設という集合住宅を中心にした居住政策の背後にあるソビエトの影響を読み解いていく。この点が、東急の田園都市線沿線の持家重視の不動産開発がもたらした、住民のより保守的な政治意識との対比をなしていると指摘している。

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