大正デモクラシーの運動は、昭和に入って普通選挙法の実現をもたらした。それまでのように一定の納税者だけに許されてきた参政権が、一応、すべての成年男子に許されるようになった。
女性参政権は敗戦後を待たなければならなかったものの、普通選挙の実現により、大正デモクラシーの運動は大きな成果をあげたことになる。
一般的には、普通選挙の実現と引き替えに治安維持法が成立することで、暗い時代の幕が開けられたという認識であるのだが、暗い時代は単に軍国主義者のみがもたらしたものではないだろう。
大正デモクラシーが普通選挙という政治参加の道を開いたことで成果を上げた中で、それの恩恵を受けた都市の中間層と、恩恵を受けなかった農村の青年たちの間には大きな温度差があった。
社会参加の道が開かれ、実力本位で社会階層の階段を上れる層もいれば、そこからはじかれる層も存在した。道を閉ざされた青年たちの鬱屈が、対外的な膨張主義や、自分たちを排除する「民主主義」への疑念につながる。
民主主義の実現は、同時に、民主主義の手続きから排除され、恩恵を受けない層にとって、実に憎むべき対象となったという逆説が生まれた。

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