日韓首脳会談は2012年5月以来、3年以上も行われていない。
国際会議などで日中、日韓が短く会話することはあっても、首脳会談にはいたっていない。
韓国は実施の前提条件として慰安婦問題の解決を求めている。かつて日本は政府が資金を出した「アジア女性基金」を通じて各国の従軍慰安婦だった女性に援助をおこなったが、韓国においては成功したとは言いがたい結果だった。
安倍首相自身がかつては村山内閣に始まる「アジア女性基金」の事業に国会議員として批判的立場であったことが災いし、慰安婦問題には積極的な手が打ちにくい状態がある。
しかしながら、日本政府としてもこの問題になんとかしてピリオドを打つ必要がある。
首脳会談は2国間の懸案を解決する重要なものであるが、この間、事務方での日韓両政府における解決が進んでいないので、首脳会談が開けない状態になっている。安倍内閣の強い支持者たちには、慰安婦問題の存在すら認めていない人々が多いので、首相としてもますます積極策が出せない状態である。
皮肉なことに、父親が「親日派」大統領であった朴槿恵大統領の方は、この問題の方で国内の批判をかわすために、安易な妥協がしにくくなっている。韓国政府はこの問題を女性の人権問題として欧米社会にアピールしており、日本政府はこの点で国際社会で不利な立場に立たされている。
さらにこの問題に加えて、今後は中国も賠償責任を主張してくる可能性がある。日中戦争が侵略戦争だったことは国際的にも明確である。
1972年の日中国交回復においては、国家間の賠償は免れた。この点、ドイツは戦後、国家が東西分裂したため、国家としての賠償ができない事情があったが、その代わりドイツの代表的企業が個人賠償を積み重ねてきて、それが結果的にドイツ国家の信認を得る結果になっている。
この点、日本は政府間賠償は処理できたものの、個人賠償は政府間合意によって終了したものという態度をとり続けてきた。しかしながら、仮に中国における軍人・軍属への賠償が提起されるようなことがあれば、対象は遺族も含めて数百万人規模になるかもしれない。
歴史認識問題はこれからの東アジアでの国家間関係において日本の向き合うべき問題としてまだ継続しつつある。
日韓の歴史認識問題においては、日韓基本条約の付属協定では、解釈に関する紛争は仲裁委員会をつくって解決を図ると定められている。したがって、両国政府が資金を出して拘束力を持たない「セカンドトラック」の協議機関を設けることが可能である。
現在、両国における日韓基本条約に関する理解が、行政府のみならず、司法府レベルでも乖離している現状に鑑みると、それぞれの解釈のどのあたりに「国際的に妥当な線」があるのかを開かれた場で議論する場をつくることも考えるべきだろう。
1995年、村山富市首相が「(明治政府による)韓国併合(1910年)は合法」と国会答弁で発言し、「韓国併合は違法」を公式見解としていた韓国政府がそれに反発し、両国関係が悪化したことがあった。
韓国政府は、その主張を国際的に認めさせようと3回にわたって国際シンポジウムを開いた。しかし第三国の法学者の多くが「植民地支配に条約は必要ない」という意見を述べ、以後韓国側は、韓国併合の違法性をことさらに取り上げないようになった。
2001年のダーバン会議において欧米先進国と途上国の間における「植民地支配責任」の討論が未解決のまま放置された現状では、韓国政府も韓国併合の違法性を主張することは、まだ国際的にも支持が広がらないと認識したといえる。
植民地責任の評価はともかくとして、当事者両国以外の専門家も交えた客観的な判断が期待できる場を設けて公平、公開の討議をすることがトラブルの種を減らすことにつながる。
メディアなどを通じて韓国や中国にフラストレーションをぶつけても、問題は複雑化するばかりである。「プライド」や「威信」を絡めて歴史認識の問題を議論することが、はたして本当に問題の解決につながるかどうかは疑問である。
日本においては、第二次世界大戦終結によって作られた国連などを中心にして形成された国際秩序を冷静に直視するなかで、それがたとえ日本とドイツのような国ばかりがいつまでも責められるのを理不尽と感じることがあったとしても、ドイツのように、関係国との関係を上手くコントロールし、議論を冷静に収めていくことが重要であると思われる。

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